第三十一話 トカゲモドキ
五日目の朝、ネスは珍しく寝坊した。
「……あれ?」
重いまぶたを開けた時には、既に天幕の中には彼女以外誰もいない状態だったのだ。慌てて枕元の時計を確かめると、起床予定時刻から一時間も過ぎていた。
「嘘ー!!」
絶叫した所で、時間が巻き戻る訳ではない。慌てたネスはいらない動作を多く挟んだ為か、普段の倍近い時間をかけて身支度を終えると、天幕を飛び出した。
今日は例のトカゲモドキの対応が決まるというのに、よりにもよってそんな日に寝坊するとは。
半べそをかきながら巨大天幕に飛び込んだネスは、人影とぶつかった。
「きゃあ!」
「おっと。大丈夫か?」
体格の関係か、ぶつかった相手にはじき飛ばされたネスは、後ろに倒れかけたところを力強い腕に助けられる。顔を上げた先にいたのは、ジュンゲル班長だ。
「あ……す、すみません! ぶつかっちゃって」
「大した事はない。怪我はないか?」
危なげなく引き起こしてくれた相手は、珍しく眉間に皺を寄せていた。慌てて謝ったネスに、ジュンゲル班長は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにこちらの事を心配してくれた。ぶつかった事に怒っていた訳ではないらしい。
「大丈夫です」
「今度からはちゃんと前を見て歩けよ」
最後は普段通りの笑顔でそう言うと、ジュンゲル班長は巨大天幕の出入り口の方へと足を向けていた。
彼も今日の決定を聞くメンバーの一人だ。という事は、既にドミナード班長からの決定は下されたという事か。
「あの! 昨日の件って、結局どうなったんですか?」
「……ああ、そういえばあの場にいなかったな。遅刻か?」
質問に逆に質問で返され、しかも触れられたくない失敗に関してだったので、ネスは一瞬言葉に詰まった。だが、誤魔化しはきかない。
「……寝坊したんです。ついさっき目が覚めたばかりで」
「なるほど。安心しろ。まだ確定していない。レガの方で、何か手立てを見つけると言っていたしな」
「レガさんが?」
寝坊などたるんでいる証拠だと怒られるかと思ったが、意外にもジュンゲル班長はなんでもない事として流してくれた。しかも、ネスが知らない情報を教えてくれる親切ぶりだ。さすがは班員からの絶大な信頼を得ている班長である。
ジュンゲル班長は、巨大天幕の奥に目をやりながら、続きを教えてくれた。
「よくは知らんが、機械である程度トカゲモドキの事を調べられるそうだ。そんな手があるのなら、わざわざ特殊対策課の班を動かさずともいいだろうに」
彼の言う事はもっともだ。機械を使って森の探索が出来るのなら、何故最初からそうしなかったのだろう。
ネスの脳裏には、評議会の絡む話がよぎった。リーディとキーリアに聞いた話である。
評議会の議員の中に、ドミナード班を潰したい人物がいるという内容だった。今回の魔の森の調査も、失敗するとわかっていて送り込んだ可能性が高いとも言っていたのだ。
今のジュンゲル班長の言葉は、昨日のリーディ達の話の信憑性を強める効果があった。
――でも、どうしてうちの班が潰されなきゃいけないの?
まだ入って一年未満ではあるが、ドミナード班はネスにとって大事な場所だ。学院では得られなかった居場所が、あそこにはある。
「詳しい話はキーリア達にでも聞くんだな。今頃食堂の方にいるだろう」
「わかりました。行ってみます」
そう言うと、ネスは一礼して巨大天幕を後にした。
「ごめんね。よく寝ていたから、起こすのが可哀想でさ」
食堂用の天幕には、リーディとキーリア、ニアの姿があった。ネスの姿を見て開口一番は「どこに行っていたの?」だったが。
どうやら、今日の朝のミーティングにはうちの班からはリーディとキーリアのみ参加するよう、夕べのうちに通達があったらしい。
――それで誰も起こしてくれなかったのか……
二人だけが呼ばれたのは、三馬鹿とネスの疲労度合いを鑑みた結果、ドミナード班長が四人にはさらなる休養が必要だと判断したからだという。
三馬鹿はあれでも森の探索で先頭を務めた関係上、疲れが溜まっていると判断されてもおかしくはないが、ネスまで疲れていると判断された理由は何なのだろう。
先程のキーリアの言葉は、ミーティングの結果を教えるついでに起こそうと思ったのに、ネスが天幕にいなかった為の言葉だそうだ。
自分はそんなに心配される程疲れて見えたのかと首を傾げるネスに、キーリアは人の悪い笑顔を浮かべた。
「まあ、常にあの班長とべったりひっついていなきゃいけないんだもんねえ? そりゃあ精神疲労で大変だわ」
「え!? い、いや、そんな事はないですよ!?」
キーリアの言葉に、ネスは慌てて言い返したが、声が完全に裏返っている。これでは彼女の言葉が正しいと言っているようなものだった。
「そんなに慌てるなんてねー。こりゃやっぱり図星だった?」
「違います!」
ネスが否定すれば否定する程キーリアが面白がるのがわかるのだが、かといって内容が内容なので否定しない訳にもいかない。
「確かになれない緊張感からか、疲れた感じはしますけど、それって絶対あの森のせいですから!」
「ああ、確かにね」
ネスの言葉に頷いたのは、リーディだった。彼は森で魔力中毒になりかかった一人である。
「あの森の中って、ロンダの制御だけでもやたらと神経にさわるんだよな。しかも自分の魔力がおかしくなるし」
リーディの言葉に、キーリアが頷いて返す。という事は、彼女も同じ事を感じていたという事か。
それにしても、魔力がおかしくなるとはどういう事なのか。
「リーディさん。魔力がおかしくなるって、どんな風になんですか?」
「うーん、うまく説明出来ないんだけど、普通ならどんなに少量でも魔力を使えば自分の中で減ったなって感じるんだよね。でも、あの森の中では減るのを感じた途端にどこかからいきなり魔力を押し込まれたような感じでさ」
「あ! わかる! 弾こうと思えば弾けるんだけど、それやるのも魔力使うんだよね」
「そうそう」
魔の森の中では、魔力回復力が格段に上がるという事だろうか。確かに、あの森は湧き出る魔力の量も濃度も桁外れだ。だからこそ、全員に魔力を阻害する装置が貸与されている。
それでも体感出来る程の湧出魔力の濃度と量とは。
「今頃レガさん、喜んでるんだろうなあ……」
何気なく呟いたネスの一言に、その場の全員が深く頷いた。
その後も通達は来ず、暇をもてあましたネス達は食堂でカードゲームに興じていた。
「よし、上がり」
「またリーディの勝ち? あんた、少しは女性に譲るって事を覚えなさいよ」
「手加減したら怒るだろ?」
「当たり前じゃない」
リーディとキーリアの言い合いを聞きながら、ネスは手元の紙に勝敗の結果を書き込んだ。
今の所、連勝でトップをいくのがリーディであり、逆に全敗で最下位をいくのがキーリアだった。彼女はこの手のゲームが好きなのだが、下手なので勝つことはまずないというのがニアからの情報だ。
ゲームは昼食を挟んで午後まで続き、キーリアは全敗という不名誉な結果を残した。
テーブルに突っ伏す彼女をどう慰めたものかとおろおろするネスの前に、人影が立つ。振り仰いで見ると、そこに立っていたのはテロス班長だった。
「こんな所にいたんだ」
「あの――」
「一緒に来て」
テロス班長はそう言うが早いか、ネスの腕を取って歩き出す。引きずられる形で無理矢理立たされ歩かされたネスは、おかしな格好で転びそうになった。
これに真っ先に抗議をしたのはキーリアである。
「ちょっと! うちの子、どこに連れて行こうっていうのよ!」
「君に言う必要、あるの?」
「あるに決まってるじゃない! というか、私達に黙って連れて行こうっていう方がないわよ」
腕を組んでいきり立つキーリアを前にしても、テロス班長は一歩も退こうとしない。
そんなキーリアを制するように、リーディが彼女の一歩前に出て静かに問いただした。
「テロス班長、ネスにどんな用ですか?」
「それは秘密」
「この事、ドミナード班長はご存知なんですか?」
「知らないんじゃないかなあ?」
「じゃあ、彼女を連れて行かせる訳にはいきません」
リーディとキーリア対テロス班長の図式の真ん中で、未だにテロス班長に腕を取られているネスはおろおろするばかりだ。
本人の意思としては、テロス班長についていくのは遠慮したい。気を付けるようにと言われた事もあるが、どうにもこの班長はネスに警戒心を持たせる人物なのだ。現在掴まれている腕も、力尽くでも振りほどきたい誘惑に駆られている。
とはいえ、新人の枠を出ないネスが、他の部署の班長であるテロス班長に対して失礼な態度を取ってもいいものかとも思う。
上の立場の人間には絶対服従しなくてはならないという訳ではないが、それでも取るべき礼はあるだろう。その辺りのさじ加減が今一つわからないので、拒絶するべきか否かの判断が付かなかった。
膠着状態になったその場に、きりりとした声がかかる。
「班長、乱暴はやめてください。きちんと説明すればいいじゃないですか」
「クルーノ君……」
テロス班長の背後から現れたのは、彼の班に所属するナイリ・クルーノだった。レガの研究に協力してくれた関係で、ネスも彼女の事を知っている。
そしてこの場にはもう二人、彼女の事を知っている人物がいた。
「ナイリ!? あんたどうしてここに?」
「いつからここにいたの?」
キーリアとニアである。そういえば、アイドーニやセリ同様、ナイリも彼女達とは同期だと聞いた事があった。
「いつからって、ずっとそこにいたわよ。それよりも班長、強引な事はしないって約束しましたよね?」
「していないよ」
「嘘吐くのはやめてください。今も強引に連れ去ろうとしてますよね。普通に犯罪ですよ、それ」
ナイリに詰め寄られたテロス班長は、反論出来ないのか黙っている。その様子を、ネスだけでなく、リーディ達もぽかんとしたまま見ていた。
ナイリは自身の所属する班の班長であるテロス班長が相手でも、お構いなしに責め立てている。
「大体、女の子に許可なく触れていいとでも思ってるんですか?」
「いや、それは――」
「いい加減、自分の年齢を自覚してくださいね。十も下の女の子を無理矢理連れ去ろうなんて、悪人以外の何者でもないんですから」
「君、言い過ぎ――」
「言い過ぎだろうが何だろうが、うちの班から犯罪者が出るなんて冗談じゃないし、しかもそれが班長とかシャレにもなりません」
はっきり犯罪者と言い切られたテロス班長は気が削がれたらしく、苦い表情でネスの腕から手を放した。すかさずキーリアが彼女を自分の側に引き寄せる。
「大体、秘密とか馬鹿な事を言っていないで、ちゃんと理由を話せばいいんですよ。まったく、うちの班長といいネツァッハ主任といい」
「僕とあの研究馬鹿を一緒にしないで欲しいな」
「一緒ですよ。本当、いい加減世間から自分がどう見られているか、自覚してくださいね。あちらが局の研究馬鹿なら、班長は研究所の厄介者と言われているんですから。いっそ研究馬鹿と言われた方がまだましですよ」
ナイリの言葉の刃は、テロス班長の胸に深々と刺さったらしい。胸に手を当てて何やら考え込んでいる。
その隙にとばかりに、ナイリはキーリア達に謝罪してきた。
「ごめんね、うちの班長が悪さして」
「う、ううん。……ナイリも、苦労してそうね」
「まあね……」
キーリアに言われた言葉に返したナイリは、どこか遠くを見ている。何かを思い出してでもいるようだ。
それもほんの数瞬で、すぐに元の調子を取り戻している。
「それで、これはきちんとした要請なんだけど、ネスを預からせてくれないかな?」
「当然、理由は教えてもらえるのよね?」
「うん。実は――」
「我が班で研究中の術式の実験に付き合ってもらいたいんだよ」
ナイリの言葉を途中で奪ったのは、先程まで俯き加減で何やらぶつぶつと呟いていたテロス班長だ。いつの間に復活したのだろう。
「実験?」
「そう」
胡散臭そうな表情で確認するキーリアに気付いているのかいないのか、テロス班長は胸を張って説明をし始めた。
曰く、これまでにない型の術式を開発したのだが、必要な魔力量が多すぎて実験出来なかったのだそうだ。
テロス班の班員全ての魔力をかき集めてもまだ足りず、他の班にも協力を要請したのだが、元々研究所は横の連携が薄い部署だそうで、どこの班も協力してはくれなかったのだとか。
「自分達の研究が最優先だと言われてしまえば、我々としては引き下がらざるを得ないからね」
同じ研究者として、その気持ちは痛い程わかるからだそうだ。
「そこで目を付けたのが君だよ」
テロス班長はそう言うと、ネスを指さした。
「聞けば保有魔力は十万を軽く越えるそうじゃないか。今回組み上げた術式は、最低でも十二万は必要だから、君なら発動させられるよ」
ネスだけでなく、リーディやキーリアも言葉が出ない。確かに魔力量だけ見れば条件を満たしているが、テロス班長は大事な項目を忘れている。
「テロス班長、その術式の制御は誰がやるんですか?」
しんと静まりかえったその場に、ニアの穏やかな声が響いた。問われたテロス班長は、何故そんな事を聞かれるのかといった様子できょとんとしている。
ニアは続けた。
「普通なら術式を発動させる人物が魔力も術式も制御しますよね? その新型術式も、そうなんですか?」
「当然じゃないか。何を当たり前の事を――」
「なら、ネスを預ける事は出来ません」
ニアは微笑んできっぱりと言い切る。その様子に毒気を抜かれたのか、テロス班長は先程までの威勢はどこへやら、理解出来ないものを見る目でニアを見た。
「な、何故?」
「まあ、嫌ですわ、テロス班長。お忘れですか? ネスは魔力の制御が出来ないんですよ?」
「あ!」
今気付いたと言わんばかりのテロス班長に、背後のナイリが頭を抱えている。本当に今まで気付かなかったのだろうか。
ニアはだめ押しとばかりに続けた。
「彼女が魔力を制御出来ないからこそ、三年も早く学院を卒業したのですし、うちの班に入ったんです。そんなネスに新型術式の実験をやれだなんて、魔力の暴発を促すようなものですよね?」
ニアの言葉は確かに本当の事なのだが、だからこそネスの胸をえぐる結果となっている。ニアの言葉の途中から段々と俯いていたネスは、今や完全に下を向いてしまっている。
改めて聞くと、本当にどうしてこんな半端な存在の自分が実行部にいるのだろう。確かに班ではネスが術式を扱う事はないから魔力の暴発事故は今の所ないが。
――そ、それでも! レガさんの研究が完成すれば!
自分も魔力が制御出来るようになり、術式も発動出来るようになるはずだ。それだけを希望に、レガの研究を手伝っているのだから。
ニアに言い負かされた形のテロス班長は、呆然としている。本当にネスが魔力制御出来ない事を失念していたらしい。
それもどうなんだと思うが、ネスには同情出来ない。むしろ、改めて皆の前で制御不能状態だという事を確認されたようなものなので、八つ当たり気味に恨みたくなる程だ。
「そういう訳ですから、お引き取りください」
ニアに天幕の出入り口を指し示され、テロス班長はぐうの音も出ない。背後のナイリは溜息を吐きながら、自身が所属する班の班長を促した。
「さあ、もう気が済んだでしょう? 我々もここでやるべき事はたくさんあるんですから、行きましょう」
だが、テロス班長はまだその場を動かない。ナイリの表情が、瞬く間に苛立ちに変わっていった。
「班長、いい加減に――」
「術式を知っておくだけでもいい、僕たちの所に来ないかい?」
往生際の悪い事に、テロス班長はまだネスに執着しているようだ。余程桁外れの保有魔力に未練があるらしい。
さすがにうんざりしたネスが断りの言葉を口にしようとした瞬間、テロス班長の表情が変わった。
「もしかしたら、あのトカゲモドキにも有効かもしれないし」
「え?」
固まったのは、ネスだけではない。リーディ達も同様に、驚いた様子で固まっている。
まだレガが調べている最中だというのに、この人はトカゲモドキに有効な術式を既に開発したというのだろうか。
「……その話、本当ですか?」
「ネス!」
止めようとしたキーリアの声も無視して、ネスはテロス班長を真っ直ぐに見据えた。
問いただしたのは、決して興味本位からではない。映像で見ただけだが、トカゲモドキは随分と大きかったし、森の魔力の影響を受けているだろうと推察されていた。
大量の濃い魔力の影響を受けた生物は、その大きさに比例して膨大な魔力を保有する。トカゲモドキの大きさから考えれば、相当の魔力を保有していると思っていい。そんな生物相手では、魔導師であるネス達は不利といえた。
この基地に物理攻撃用の武器は持ってきていない。もちろん、本部から送ってもらえば事足りる話だが、おそらく物理攻撃を用いれば、森も甚大な被害を受けるだろう。それは、結果として班の失態となるのではないか。
もし、ここでテロス班長から術式を教えてもらわなかったら、近い未来に自分は後悔せずにいられるだろうか。
――多分……ううん、絶対後悔する!
ネスの決意は、既に固まっていた。
「本当に、トカゲモドキに有効なんですか?」
「おそらくはね。さすがに実物に対して実験した訳ではないから、確かな事は言えないけど、この場所の魔力は火山のせいか火の影響が強い。通常火に対しては水の属性を持つ術式を使うんだけど、ここでは間に合わないだろう」
テロス班長の言葉から推測するに、新しい術式というのは温度を扱うもののようだ。
火と水だけは、一緒に温度を扱う術式を加える事で特定の事象に対する効果が格段に上がる事は古くから知られている事だった。
だが、今更温度変化で新しい術式など出来るものだろうか。温度に関しては、それこそ百年以上前から散々研究され尽くしている術式だ。
それでも、後悔するよりはぜったいにましだった。
「わかりました。術式、教えてください」
「ネス!」
「まずは班長の判断を仰いだ方がいい」
当然のように、ネスの判断にはキーリアとリーディから待ったがかかった。だが、それはネスも予測済みである。
「大丈夫です。教えてもらうだけで、実践する訳じゃありませんから。万一の為です」
「そうそう、もしもの保険は必要だよね」
ネスの言葉に乗っかったテロス班長の言葉に、キーリアとリーディはもちろん、普段は温厚なニアまで彼を睨み付けた。
テロス班長はそれに構う事なく、さっさとその場から立ち去ってしまった。ネスはリーディ達に会釈をすると、ナイリと共に彼の後を追う。
「いいの? 本当に」
「はい」
ナイリの心配そうな確認に、ネスは精一杯の笑顔で答えた。キーリア達が自分の事を心配してくれているのはわかっているし、とても嬉しい。
でも、やはり後悔はしたくないのだ。ろくに魔力を制御出来ない身で何をどこまで出来るかはわからないけど、発動に膨大な魔力を必要とする大がかりな術式なら、逆にネスには扱えるかもしれない。
――大雑把な魔力制御でも、何とかなるかもしれないし! 何ともならなそうなら、それまでって事で。
随分と適当な事を考えるようになったな、と自嘲する。これがいい事なのか悪い事なのかはわからないが、機構に入って約一年、確実にネスにも変化が訪れていた。
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