第32話 二人の絆

 一磨かずまは目を開いた。

「……生きてる」

 見上げた空に、ビルが混じる視界。

 腕が二本しかないのを感じる。

「もとに……戻った、のか」

 二本の腕をかざす。

 急速に感覚が、現実感が戻ってくる。アスファルトに横たわる自分がわかる。飛び散った瓦礫の中で、眠っていたのか。胸元をさぐる。呪印の手触りがない。

朱顎王しゅがくおうを倒した)

 だから呪いも消えたのだ。

「ら……いら」

 名を呼ぶ。

「一磨さん」

 答えがあった。

(ああ、俺は生きているんだ)

 そして――彼女も生きているんだ。

 一磨は起き上がった。目の前に、らいらがいた。

「らいら……らいら!」

 一磨はらいらを抱きしめた。強く強く、抱きしめた。

「一磨さん……?」

「君が生きてて、よかった」

 はっきりと言った。それ以上、何も言えなかった。

 らいらの頬が赤く染まる。細い腕が、おずおずと一磨の背に回される。

「一磨さんが、生きてて、よかった」

 小さな手にきゅっと力が入る。

「あ……」

 一磨の肩が震えだす。

「あ……ああ……」

 泣いた。らいらを抱きしめたまま、一磨は泣いた。

 らいらの手にぎゅっと力が入る。あたたかい手だった。

「ごめん……ごめん、らいら……」

 君を傷つけた。寂しい思いをさせた。

 ごめん。ごめんね。ただその思いがあふれた。

「いいえ」

 らいらは一磨から体を離す。顔を静かに近づける。

 ちゅ。

 そっと一磨の頬にキスをして――。

「一磨さん」

 ピシッ!

「っ!?」

 らいらのデコピンが、一磨の額を打った。

「気にしなくていいんですよ」

 ――ばか。

 優しい。世界一優しい一打だった。

「まいったな……」

 一磨は笑った。泣きながら笑った。

 二人は笑った。額を合わせ、泣きながら笑った。

 喧噪が遠く聞こえる。サイレンの音、警察の声、人の騒ぐ音。遠く遠く聞こえる。

 二人を案じる人々が駆けよってくる。

 まるで映画のラストシーン。やけにゆっくり時間が過ぎていく。

 二人は支えあって立ち上がる。しっかりと手を握り合って。


 戦いは終わった。

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