第29話 胎動
冷たい。
(俺はどこにいる?)
たしか球の中に閉じこめられた。球の中には水が満ち、息を失ったはずだ。
(水の中か。死ぬのか。いや、鬼に成るのか)
あたりの様子はわからない。体も動かないのに、頭の中だけが冴えてくる。
(…………?)
声がどこからか響いてくる。
――
――一磨。
(誰だ? 俺を呼ぶのは誰だ?)
――わたくしはあなたの半分。
(半分?)
――でもあなたではない者。
(かあ、さん?)
――わたくしはずっと、あなたのそばにいる。
――呼んで。わたくしの名を。あなたの力を。
(俺は鬼に成る)
――鬼性は誰にでもある。
(俺は……)
――
(母さん?)
――いづれも仏性具せる身を。
――隔つるのみこそ悲しけれ。
(俺はどうなる?)
――鬼性は誰にでもある。
――仏性は誰にでもある。
(俺はどうなる? 鬼になるのか?)
――あなたの意志で。
(俺の意志で?)
――呼んで。名前を。
(わかった)
呼ぶよ。俺の意志で。俺の望みを。
(オン)
おお、
(サラスバテイエイ)
大弁才天女よ。
(ソワカ!)
我が願い、成就あれ!
一磨が胎動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます