出会うべくして
艶やかな金髪を振り乱しながら、嬉々とした表情でその少女は駆ける。大きく振りかぶった右の拳に注意を向けながら、カルロスは迎え撃つように腰を落とす。
──あの技量は凄まじい物がありますからね。右手ばっかりに気を向けるのは危険でしょうか。上手く受け流せば階段から突き落とせますが……そこまで器用な技が私にできるかどうかですね。
一瞬で、彼我の距離が詰まる。相手の全身の動きに注意を向けていたカルロスの瞳には、以外にも素直に振りかぶった右腕を振るう少女の姿が写った。
その視界の端に、白い何か閃く。
咄嗟に右に跳んで背中に張り付く恐怖を振り払い、少女の背中に回るように更に大きく体を跳ねさせる。そうして距離が離れてやっと余裕の生まれたカルロスが視線を正面に戻すと、そこには腰を落として両手を腰ほどの高さに構えた奇妙な構えを取っている少女が目に映った。
──何も持ってない、ですか。では、先程のは何だったんでしょう。……少々手品臭い動きですね。
グッと拳を深く握りなおした所で、再び少女が駆ける。今度は見逃さないと言うように、カルロスは腕甲を防御気味に前に構えた。
少女が力強く踏み込み、腰に溜めていた拳を放つ。それは阻もうとする腕甲をすり抜け、カルロスの二の腕に刺さった。鈍い音を散らしながらめり込んだ拳はその力を貫かせ、カルロスの体を突き飛ばす。
一気に四、五歩ほど後退したカルロスは、そこでなんとか踏みとどまる。が、そのバランスを戻そうとした上体に両足を揃えた全力の跳び蹴りが放たれた。
そのエネルギーは万全な状態ならともかく崩れに崩れた姿勢ではどうにもならず、そのまま大きく吹き飛ばされる。受け身を取る余裕も無く床に転がりながら距離を取ったカルロスは、有り得ないものでも見たような驚きに満ちた表情で起き上がる。
──私が吹き飛ばされた!? 単純な力勝負で!? あの構えからの突き……そんなに特別な様には見えませんでしたが……。ですが、そんなことは有り得ないはず。何かありますね。
ゆっくりと立ち上がりながら、カルロスは目の前の好敵手を睨んだ。侮っていた気を引き締めるように、ゆったりと全身に力を込める。
「んんん、何笑ってるのん? 楽しいことでもあったぁ? それとも自暴自棄ってやつかな?」
その言葉に、カルロスが左手を頬に伸ばす。そこは、膨れあがるほどに吊り上がっていた。
つまり、笑っていた。いつの間にか、自分でも気づかぬうちに、深く深く笑みが刻まれていた。
「ああ、別に自暴自棄じゃないですよ。そうですね。今日の晩ご飯のことでも考えていたのです」
「ありゃ、そりゃぁ呑気なこったねぇ。そんな余裕、与えたつもりは無いけど?」
「イイ男というものはいつでも余裕ですよ」
いつもの調子で軽口を叩きながら、カルロスは体に力を巡らせる。血に乗せるように全身に力が満ちていく。
「おお、そりゃあ便利だねぇ。私も男に生まれりゃあ良かったかねぇ」
「いえいえ、貴方は美人ですからそのままが良いですよ。イイ男が余裕たっぷりならイイ女は秘密たっぷりであるべきですから」
その言葉を聞いて、華奢な体にカルロスを恐怖させる武器を、吹き飛ばす力を隠し、秘密にしている少女が愉快そうに笑んだ。
「うーん、そう言ってくれる人は初めてかなぁ。敵じゃなかったら良かったのに」
「いえ、これで良いのです。貴方と私は、敵として、出会うべくして遭ったような気がします」
「おぉ、貴方もロマンチストさんなのかぁ。……こうやって話しているのも良いけど、そろそろ戦おうよ。そっちの方が『らしい』でしょ?」
「ええ、そうですね」
彼女の言うとおり、らしくなかった。戦闘中に色々なことを考えることも、満面に笑むことも、そしてそれを中断して話し込むことも。
──私の戦い方としてはやはり、自慢の力で薙ぎ払うことしかできませんからね!
巡らせた力を爆ぜさせながら、カルロスが少女の元へと迫る。
今度はカルロスから、当たれば普通の人間なら死にいたる拳を振るった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます