焦燥と渇望

 変わらない熱気がその場を包んでいた。

 放たれたそれは肌と共に心をチリチリと焦がし、滾らせる。椅子に座ったグラシャの歯を食いしばる音が、手を握りしめる音が、空虚な鍛治屋の中に響く。だが、それもすぐに鉄を打つ重厚な音に掻き消された。

 いつもと変わらず、アメリアは奥の工房で作業をしている。が、彼女にしては珍しく設計図のような物を見ながらの作業だった。

 その図面はボロボロで、何度も何度も書き直された痕と、おびただしい量の文字が刻まれていた。

 握った金槌で鉄を叩き、伸ばし、鍛え上げる。本来ここで水に入れて冷ますべき筈の鉄を、アメリアは力任せに二つに折り曲げ始めた。そして再び叩いて伸ばす事を繰り返す。

 何回かやったところで、まるで遊びに飽きた子供のように熱中して叩いていた鉄の板を水の中に入れた。冷めるまでの間に、額の汗を拭いながらふぅ、と息を吐く。それは休憩を挟むような、あるいは気合いを入れ直すようなものだった。

 充分に冷めたところで水から取り出し、纏った水分を拭き取ってから砥石に掛ける。そして、できあがった板を作業台に置いた。

 すでにそこには別の五つほどの鉄が並んでいた。


 一つは平べったくて細く、単なる板のような物。

 一つは山のような形をした、平たい三角形のような形をしたもの。それが二組。

 一つは先程アメリアが仕上げた、それだけで一つの剣として仕上がるほどに精錬された、鋭い刃の付いた物。さらにそれが二組。

 その内の、ただの板きれに見えるそれと三角形の板を一つを再び炉に入れて熱し、直ぐさま取り出した。

 まるで作った駄作をゴミ箱に捨てるような行為だが、その表情には失敗作を作ってしまった焦りではなく、真剣そのものの色が灯っている。薄く赤みを帯びたその鉄の表面に、アメリアは何か白い粉のような物をまぶし始める。

 そして、その五枚の鉄の板を組み合わせ、上から打ちつけ始めた。


 時を刻む鐘のような音が、鍛治屋の中に響く。硬質で、耳を貫くような鋭い音は、疼くグラシャの心に深く、重く突き刺さっていた。

──僕は、なんでここで待ってなんか居るんだ。いつだってそうだ。自分のことなのに他人ひと任せで、何の力も無い!

 自分を責める度に、心と体が擦れて軋みを上げる。それは自傷するような力となって、身を削った。

 仕事に一段落着いたのか、アメリアがグラシャが座るテーブルに腰を下ろす。

「大丈夫?」

 アメリアの気遣った声に、グラシャは答えない。

 荒んだ心には、それは明らかに無理してると言外に言われているようで、ダメだとわかっていても気に障った。

「……お願いが、あるんだけど」

 それに興味を示したのか、グラシャは落としていた視線を上げ、目で内容を問う。

「                」

 ニッコリとはにかみながら言うアメリアの願いに、グラシャは引き結んだ表情を大きく崩した。

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