第一手
カルロスが着いた頃には、城中では既に報告が回っていたらしく慌ただしく兵士が動き回っていた。
──私が急ぐ意味は薄かったみたいですね。まぁ、事前に商業区で何か不穏な動きがあると言っといて良かったです。流石元軍人だけありますね、ラリーさん。
そう思いながら、兵士達の流れに逆らうように、カルロスは階段を上り、奥にある執務室を目指す。その階段を駆け足で降りてくる兵士達の手には、何故か小銃は無かった。それを確認して、カルロスが満足そうに頷く。
少し速歩き気味に歩みを進めていくと、目的の執務室に辿り着く。普段はその扉を塞ぐように兵士が立っている筈なのだが、不測の事態が重なって半ばパニックになっている兵士達の統制は取れていない。
その大きさから内部の広さも推測できるその扉を、カルロスはノックも無しに開け放った。引く力を利用して、そのまま中央の机に座っている男へと駆ける。
が、座っている男もそれを予感していたかのように、机の上に置いていた拳銃を咄嗟に掴み、自分の元へと走るカルロスに狙いをつける。
──銃弾は全部水に漬けて湿気らせておきましたのに、元から装填して変えていなかったということですか。そう来なくては。
向けられた虚ろな穴を視界の中央に捉えて、カルロスが薄く笑みを浮かべる。自分の身を前に繰り出す為に振るっていた右腕を、前に構えて固定する。
引き金が引かれ、轟音と共に弾丸が弾け飛ぶ。凄まじい速度で放たれたそれは、カルロスの右腕、そこに付けられた腕甲の曲線に向きを逸らされ、中途半端に開いた扉を穿っていった。次弾を撃たせないようにとカルロスが右足を強く踏みしめて跳び、伸ばされたその腕を左手で掴む。
そのまま腕を引っ張りながら左足で机の上に着地し、何も掴んでいなかった右手で相手の髪の毛をグイッと引っ張る。
そして、全身に溜め込んでいた力を爆発させ、右膝を顔面に叩き込んだ。それでも勢いは止まらずに部屋の奥へと転がる。凄まじい衝撃を受けた男は、全身を脱力させて背もたれに体を預けたまま倒れ込んだ。
ふぅ、と息を吐きながらカルロスが立ち上がり、無造作に床に投げられた拳銃を拾い上げる。そのまま、死んだかのように倒れている男の頭へと残弾を全て叩き込んだ。響く銃声、その余韻に添えるように空薬莢が床を打つ音が鳴り、部屋は静かになった。
──あ、唯一使える拳銃だった訳ですし、いざという時の為に取っておいた方が良かったかもしれませんね。下手したら返り血が付いてるかも知れませんし。
流れ出る血に濡れる事を嫌うようにその場を離れ、人を殺した後とは思えない軽い足取りでカルロスは歩いて行く。
「まぁ良いです。情報系統は叩きましたし。拳銃なんて持ってると怪しまれますし。さて、今から私は味方を安心させて、ギッタギタに伸す役回りですかねぇ」
罪の意識すら、気負った様子すらなく、寧ろ嬉々とした笑いすら浮かべながらカルロスは言葉を吐き出した。
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