決意
ラリーは城門を開け、その中に入っていった。そこは、大きめのホールになっていて、階段や通路などがある。それらは、兵舎や王室などの場所へと続いている。
━━急がないと料理が食えなくなっちまう!
ラリーは自らの空腹を感じながら大食堂へと続く階段を登ろうと歩き出した。しかし、その階段から五人の兵士達が降りてくるのをみて、その歩みを止める。
「おい。お前ら、宴はどうした? そんなに時間は経ってねぇはずだが?」
ラリーが彼らに問いかけると、驚いたように顔を上げた。それを見て、第四部隊、自分の部下達であると視認する。
「……いやぁ、ちょっと城下町で問題が起きたようでして」
兵士の内一人が、なんとか言葉を紡ぎだす。
「そうか、大変だなぁ。他の奴らが楽しんでるのに」
「ですよね。全く困ったもんですよ。勝利したからって浮かれて事件を起こされても……」
「だよなぁ。迷惑だよなぁ」
ラリーが、その兵士の言葉を遮るように言って、にこやかに兵士の肩にポンッと左手を置いた。
「で、なんでお前らから血の匂いがするんだ?」
だが、その目は笑っていなかった。
「え……? いや、それは……」
その顔を見て、饒舌だった兵士がたじろぐ。
「お前ら、戦争から帰ってきて体洗ってないのか? まぁ、俺も言えない立場だがな。でも、確か今回は敵兵を殺せなかったよな? まさかお前ら撃たれたか? 大丈夫か?」
いつもはあまり物を言わないラリーが、やたらと饒舌に問いかける。その質問を重ねるごとに、左手に力がこもっていった。指が、兵士の肩に少しずつ食い込んでいく。
その痛みに耐えられなくなったのか、兵士がラリーの腕を払う。
「どうした? ……そんなに俺は嫌われてるのか? 何があったか、言ってくれよ」
ラリーの表情は、何かを悲しむような、憐れむようなものに変わっていた。
兵士達が、銃を持ち直した。何か思いつめたような、焦るような表情をしている。
「できれば、お前たちと戦いたくはないんだがな……」
ラリーが、そう呟きながら背中の大剣の柄を握る。そして、それを捻る様に引っ張ると、止め具が音を立てて外れた。
先程までラリーと話していた兵士が、ラリーに向かって銃を構える。だが、その銃は跳ね上がる様に放たれた斬撃に弾かれた。
ラリーが兵士の動きに瞬時に反応し、下から大剣をかち上げたのである。そして、その力を利用して腰を捻り、大剣が背中に触れる程にまで大きく振りかぶる。
その力が、体重を乗せた踏み込みと共に放たれた。霞むような速さで、目の前の万歳の様に腕を上げている兵士の脳天を捉える。鈍い、聞いていて不快になるような音がして、受けた衝撃のまま頭から崩れ落ちる。
他の兵士達も銃を構え始め、それにラリーが反応する。
一番近くにいた兵士の銃に、大剣を叩きつけて弾き飛ばす。そしてすぐさま後ろに跳んだ。
一瞬前までラリーが居た空間を、弾丸が駆け抜けた。他の兵士達が発砲したのである。ほんの少しでも遅ければ、ラリーは蜂の巣になっていただろう。
銃を失った兵士が腰のサーベルを抜こうとする。が、それより速く放った突きが兵士の腹と胸の中間にある、筋肉が少ない柔らかい部分にねじ込まれる。
肺に残っていた空気が押し出され、あまりの痛みに兵士が声の無い悲鳴をあげる。大剣に支えられるようにして立っていたその体は、支えを無くすと前のめりに倒れた。
ラリーの攻撃後の一瞬の隙を突いて弾丸が襲う。即座にその射線から身を隠すように、ラリーは大剣を構えた。革の中に鉄板が仕込まれているその鞘に、弾丸がめり込む。
その構えを解いて、剣先が地面につく程にまで下げた、下段の構えに移った。隙が多そうな構えだが、かと言って兵士達はうかつに攻めることができない。
兵士達がじりじりと後ずさる。だが、それと同じスピードでラリーが前進する。
不意に、ラリーが強く地面を蹴った。その巨躯が大きく加速して、兵士達に迫る。兵士達は、一瞬体が強張り、反応が遅れた。
ラリーが一人の兵士に狙いをつけ、斜め下から薙ぎ払う様に放つ。兵士はそれを、上半身を逸らすことで躱した。だが、それによりバランスを崩す。
その兵士の隣の兵士が、こめかみに突きつける様な至近距離でラリーに銃が向ける。その状況に焦ることなく、ラリーは極限まで力を溜めた力を開放して、バランスを崩している兵士に水平斬りを放つ。
脇腹に大剣の衝撃が伝わり、その形が一瞬、窪むように歪んだ。その衝撃に耐えられなくなって、兵士が二、三歩たたらを踏む。そして、隣で銃を構えている兵士にぶつかった。
組み合うようにバランスを崩す二人に、ラリーが全体重をかけた突きを放つ。そのまま、二人は重なるように転がった。そして、ラリーが一人残った兵士へと振り向いた。
突然、ラリーの額から血が吹き出した。そのまま、後ろに倒れていく。
だが、ラリーが倒れることはなかった。左足を咄嗟に後ろに下げて、仰け反った上体を無理矢理支え、引き戻す。左上の額から、ダラダラと血が流れていた。
ラリーがその兵士に突撃する。そこに、兵士が畳み掛ける様に発砲した。
それを、ラリーは大剣を引きつける様に身をひねって躱した。もう一度迫り来る弾丸を、今度は左手で受け止める。手の平の骨でそれは止まり、溢れ出る血で赤く染まった。
ラリーが、明らかに兵士に届かない位置で突きを放った。それは虚しく空を切る。
兵士が、更に引き金を引く。撃鉄により起爆された火薬は、その衝撃を受けて銃から飛び出していく。かに見えた。
ラリーの突きが、小銃の銃口を塞いだのだ。鉄と鉄がぶつかる衝撃が銃身を砕き、銃が使い物にならなくなる。
「もう、観念しろ。知ってることを言……」
ラリーは、その言葉を言い切ることができなかった。暴発し、砕けて不規則に鋭くなった銃身で、兵士が槍のように突いてきたのだ。
咄嗟にそれを大剣で払って、自分に近づくように踏み込む兵士の腹に斬撃を放つ。
その衝撃に一歩下がった兵士の顎に向かって、更に下から大剣をかち上げる。上を向いた兵士の顔面に、トドメと言わんばかりに大上段から大剣を叩きつけた。
明らかに骨が砕けた音がして、兵士が動かなくなる。ラリーは、少し乱れた息を大きく一息吸うことで整えた。
そして、その場に膝を立ててしゃがみ込む。
「すまんな……お前ら。……俺は、お前らのことを信じてるからな。しょうがなくてやったことだと、信じてる」
そう呟いて、そしてまだ尚兵士達を見つめていた。
そして、ラリーが立ち上がった。酷く長い時間が過ぎたように感じられたが、実際はそれほど経ってはいないのだろう。
「……コナーなら、何か知ってるかもな。それとも、俺の部下が裏切ってるって事は…………いや、それは早計だ。たまたま出会ったのがあいつらなのかもしれないしな」
そう言って、何かを決心した瞳で付け加えた。
「……取り敢えず、大食堂に行く必要があるな」
大剣を右肩に担いで、ラリーが歩き出す。その左手は、撃たれたにも関わらず、強く、強く握りしめられていた。
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