災禍
「よし、やるか。全員武器の用意をしろ」
コナーが周りの兵士達に言った。宴が行われている大食堂の扉、その付近に立っている兵士達が、気を引き締める様に銃を構え直す。それを一瞥したコナーは、腰に下げていたボールのようなものを3つ、左手で取り外した。
携帯型破片榴弾、略して破片榴弾。それはそう呼ばれていた。
コナーが小銃を持ったままの右手で、器用に扉を開けた。それと同時に、左手に持っていた破片榴弾のピンを噛んで引っこ抜く。
その摩擦によって、内部の導火線が点火された。程なくして爆発するであろうそれを、コナーは奥に向かって、各隊の隊長や、更には国王が座っている所に向かって投げる。
━━投げ返す時間は無い!
そう考えたマカロフは、自分が座っていた椅子を蹴り飛ばす様に机の下に伏せた。
瞬間、放物線を描いていた破片榴弾が、3つ同時に炸裂した。内部からのエネルギーを受けて、亜音速で飛び交う。
周りにいた人間達は、マカロフの一瞬遅く反応していた。が、その一瞬が命取りになった。
頸動脈が切り裂かれ、机の上の料理にソースの様に血が降りかかって、彩りを添える。頭蓋骨を貫いて内部が滅茶苦茶になり、できた穴から鮮血と共に脳味噌をボタボタと落とす。全身をズタズタに貫かれ、踊り狂うように歩いて、そして絶命する。腹部を裂かれ、はらわたを垂らしながら助けを求める。
一瞬で、そんな阿鼻叫喚の光景が広がった。
他の兵士達も、反撃しようと武器を取る。が、次々と入ってくる第四部隊の兵士達に、ろくな反撃もできないまま、命を落としていく。
目を撃たれて、その衝撃が脳に及ぶ。虚ろになった穴から、涙の様に血を流す。銃身に当たってひしゃげ、暴発して破片が身を襲う。胸を撃たれて、口から真っ赤な泡を垂らして痙攣して、動かなくなる。たった一瞬、その一瞬でいくつもの命が無くなっていく。
伏せていたマカロフも、目の前に転がっているまだ血で湿気っていない小銃を拾い上げて立ち上がり、弾倉に詰まっていた6発を乱射した。一発は逸れて当たらなかったが、他の五発は正確に頭部を捉えた。その衝撃を受けて、脳漿がぶちまけられる。
それに気づいた兵士達が即座にマカロフに向かって発砲した。爆発によって加速された弾丸が、左肩を捉えた。
マカロフがその痛みに一瞬怯み、その拍子に足元の血で滑った。背中から受け身を取れずに落ちたため、その痛みに顔をしかめる。服が血に染まり、その視界にその血が流れた元であろう死体が目に入った。顎から上が無くなっているそれは、国王の服を着ていた。
「……もういい。全員死んだだろう。第五小隊以外は城内にのこれ。使用人共を捉えるぞ。第五小隊は、城門を開けにいけ」
コナーが、兵士達に指示を出す。
━━仲間達は全員殺されたか。クソッ。ここで立ち上がっても無駄死にするだけだ。
マカロフは、心の中で毒づきながら歯ぎしりをした。あまりの悔しさからか、固く拳が握りしめられている。
その言葉通りに、兵士達が散開していった。足音が消えて、扉が閉められてから、マカロフが立ち上がる。
その顔に浮かぶのは、純然たる怒りだった。血みどろの大男が鬼気迫る表情で歩くのは、凄まじい威圧感がある。
「お前らが何をしでかしたか……解らせてやる」
そう呟いて、マカロフは右手で腰から大振りのナイフを抜き去った。
「ふぅ……あいつらもう酔いつぶれてねぇよな……」
そして、中では地獄のようになっているとはつゆ知らず、ラリーが城内へと入っていった。
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