いつかを憂う
夢を見ていた。
彼が殺してきた者達が、一斉に手を伸ばして深い闇へと引きずり込もうとする夢。それに気付いてないかのように周りの仲間達は話しかけてくる。
誰かが傷ついて汚れるのなら、自分がそうである方が良いと、自分が誰かを守るのだと、そうやって自分の行為を正当化してきた。それが酷く自分勝手なことだとわかっていながら。
そんな事で背負った罪が無くなるわけでは無い。何人もの人を殺し、この手で切り裂いてきた。
いつか、彼に最も親しい彼女が「自分が造った武器で人が殺されているのだから、私も相当な悪人だよね」と苦笑しながら呟いていた。
そう、思わせてしまっていた。
罪を背負うのは自分だけで良いのだ。いつか罰が下るときも、自分だけで良い。普通なら死んでしまう目に遭わされてもなぜか意地汚く生きていたのだ。もう悔いは無い。
ただ、自らの復讐を終え、地面に伏して意識が途絶えるその瞬間。
あれほどに死ぬことを悔い、恐怖した瞬間は無かった。
◇◆◇
目を開けた彼の視界に飛び込んできたのは、まず誰よりも見知った顔だった。
体を起こそうにも、上手く力が入らない。無意味に身じろぐ事しかできなかった。思い通りにならない不快感の上に、更に唐突な衝撃が襲った。
「がっ!?」
「生きてたよぉおおおおおおおお!!」
今度は耳を苛む叫び声が頭の隣から聞こえてくる。段々と感覚と冴えを取り戻してきた。
「まぁ、そう簡単に死ねるタマじゃないしねコイツは」
「このままなんとも暗い雰囲気で過ごすのは私的には無理でしたしねぇ、丁度良かったです」
「ア、アメリアさん? ラリーさんも病人なんですから安静に……」
声がした方向に顔を向けると、そこにはここ数週間でやたら親しくなった奴らがいた。
テミスがラリーに抱きつくアメリアを引っ剥がして、椅子に座らせる。重みの無くなったラリーは、全身に力を込めてなんとか上半身を起こした。
生きている。
確実に、実感があった。
「おや、泣くほど嬉しかったのかい?」
「ああ?」
泣いてなど居ないはずなのだが、とラリーが頬に指を滑らせると、その指には水の玉が張り付いていた。
思わず、苦笑する。
「ああ、そうかもな。嬉しいさ。んで、どうなったんだよ、結局。俺は何日間寝てたんだ」
「そう一気に質問しないでくれよ。急かさなくても話すからさ」
テミスが、ラリーの言葉に答える。さっきまであれほどうるさかったアメリアは今は椅子に座ってグスングスンと涙を溢しては拭いていた。
「さて、まずアンタは丸一日、いやそれ以上は寝ていたね。その間に何があったかだけ話しておこうか」
足を組みながら、テミスが言葉を探るように話していく。
「革命は一応成功だよ。といっても、表向きはまだここはドルトニアの物って事になってるけどね。ただ、ここに居る兵士達ではもう反乱は不可能だよ。外部に情報が漏れたら危ないけど生き残った奴らはみんな牢獄にぶち込んでるし」
「そうか……」
やったんだな、と続けながらラリーは天井を見上げる。
遂に手に入れた安息。いつか壊れてしまうであろう酷く儚いそれが、これ以上無いほどに大切に思えた。
そうして、ラリーはアメリアへと顔を向け、二人の目が合う。
涙を拭いて健気に笑うアメリアに、ラリーはやっと、影の無い笑みを向けることができた。
炎上 西野 内斗 @MX-WELL
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