第4話 真珠にする?紅玉にする?
「わかりました。なかなか面白いじゃないですか。」
実際、共感できるところが多かった。30歳独身男性の自分には、リア充達がアピール合戦を繰り広げる実名SNSが苦手だった。ザッカーバーグ帝国とやらの管理システムも、どことなくそれに近い雰囲気を感じたのだ。
ウェブという魔法を、国民を管理して統率するためではなく、国民個々が自由に自らの強みを発揮するために使いたい。生まれついた家やその地位、身分に囚われることなく発言できる、自由な言論空間を築くというのがクリス国王の描いたビジョンだった。
そのために、情報システム通信部隊が結成され、理想を実現するための新しいシステムの構築を目指しているのだという。夢のある仕事だと感じた。
「まだ、あなたを採用するって決まったわけじゃないんだからね。」
チラリズムはいつの間にかお目覚めだった。膝をぴったりとくっつけた状態で背筋を伸ばし、高圧的な態度でそう言い放った。パンツは見えない。早くもアイデンティティ崩壊じゃないか。
「ウェブサービスはね、見た目が9割なのよ!」
何を言い出すんだろう。どうせなら10割と言い切って欲しかった。9割と言うところが本気っぽくてやばい。隣のヤンさんも困惑気味に見守っている。
「ただ動けばいいわけじゃないのよ。わかってるの?ユーザー体験のデザインこそが全てなのよ。それがわかってないようじゃ、採用できないわ。」
「はぁ...」
「何よその気の抜けた返事は。あなたの作ったシステムに、デザインあてるのワタシなのよ!そのワタシが認めない限り、絶対採用しないんだから!」
「まぁまぁチラちゃん、落ち着いて...」ヤンさんがなだめながら、こちらに向き直って切り出す。
「それじゃ、実技試験を受けて頂けますか。実際にどれだけできるか見せていただければ、誰も文句ないでしょうから。」
「わかりました、何でもやりますよ。何作ったらいいですか?」
「そうですね、それじゃ簡単な掲示板システムなんかどうでしょう。」
「いいですよ、やりましょう。」
さぁ何で書こうかな、PerlかRubyか。まぁ何でもいいや。掲示板ならDBなくても適当にテキストファイルに出力しとけばいいだろう。早速取り掛かろうとして、ふと気づいた。この部屋には、パソコンらしきものがない。
「えっと、パソコンはどこですか」
「何よそれ。あんた何言ってんの?」チラリズムが割り込んでくる。
「いやだから、掲示板システム作るんだろ、何でコード書けばいいんだよ。」
「パソコンとか、コードとか、何言ってんのよ。」
チラリズムはそう言うと手のひらを開き、2つの宝石を突き出してきた。
「
PerlかRubyかで迷った覚えはあるが、なぜ宝石の種類で選択を迫られてるんだろう。
「あんた、アプリケーションエンジニアなんでしょ。大層な職務経歴みたいだったけど、本当に魔法構築できるのかしら。」
魔法ね。そう言えばそんな話だった。ヤンさんが、テレパシーがどうとか言ってたね。半分寝てたけど。この世界では魔法でシステム構築するのだ。コードが書けたところで、1ミリも役にたたない。
「いやいや、魔法なんか使えるわけないでしょ。こっちの世界の住人じゃないんだから。」
「はぁ?よくそんなんで応募してきたわね!何なのよ、馬鹿にしてんの!?」
ドンと手を机につきながら勢い良く椅子から立ち上がった勢いでふわりとスカートの裾が舞い、ほんの一瞬だけパンツが見えた。ご存知だろうが、ピンク色だ。
「困りましたね...あちらの世界では魔法以外の技術で開発されていたのですか?」
「ええ、パソコンという機械を用いて、プログラミング言語で処理を記述していくんですよ。」
「そうですか...私達の世界では、この宝石に魔法を掛けて任意の処理を命令するんです。」
そう言うとヤンさんはチラリズムから
「プリント・ハロー・ワールド!」
呪文を吸収した
「こうして宝石に魔法をかけて、
「魔法が使えないとなると、困りましたね...」
「クビよクビよ!!!」
いやいや、まだ雇用契約結んでないし。そう突っ込んだところで、事態は変わらない。どうやら俺は、異世界の面接で落とされることになりそうだ。福利厚生のハーレムの話も聞く前に。
この世界のお祈りメールは、どんな形で届くんだろう。そんなことをぼんやり考えていた。
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます