概要
あなたの二枚舌、全て正確に訳します
「王女への口説きは外交だ。君は黙って、聞こえのいいように訳していればいい」
条約調印の式典を前に、婚約者の外交官ゲレオンはそう言った。両国の言葉を九年間運んできた王宮の首席通訳官イルメラ、三十一歳は、静かに頷く。
「承知しました。では式典では、わたくしの言葉は一言も差し挟みませんわ」
式典の壇上。彼が隣国の王女に囁いた南の言葉の甘言を、イルメラは一語違えず北の言葉に訳した。凍りつく自国の重鎮たち。あわてて取り繕う彼の言い訳を、今度は一語違えず南の言葉に訳した。扇を閉じる王女。
訳すたびに、会場の温度が一段ずつ下がっていく。
進退きわまった彼は、ついに叫ぶ。「通訳が違えたのです」と。
――お生憎さま。この式典の言葉は、すべて両国の記録に残っておりますの。
「あなたの二枚舌、両方とも正確
条約調印の式典を前に、婚約者の外交官ゲレオンはそう言った。両国の言葉を九年間運んできた王宮の首席通訳官イルメラ、三十一歳は、静かに頷く。
「承知しました。では式典では、わたくしの言葉は一言も差し挟みませんわ」
式典の壇上。彼が隣国の王女に囁いた南の言葉の甘言を、イルメラは一語違えず北の言葉に訳した。凍りつく自国の重鎮たち。あわてて取り繕う彼の言い訳を、今度は一語違えず南の言葉に訳した。扇を閉じる王女。
訳すたびに、会場の温度が一段ずつ下がっていく。
進退きわまった彼は、ついに叫ぶ。「通訳が違えたのです」と。
――お生憎さま。この式典の言葉は、すべて両国の記録に残っておりますの。
「あなたの二枚舌、両方とも正確
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