6話目『賊頭は辛いけど』
森の中を散歩していたクゥルフは、突如誰かが隠れている気配を感じ取った。彼は得意げな笑みを浮かべて口にする。
「おい、いるんだろ?気配で丸わかりだぜ、妖鬼」
その直後、木陰から妖鬼が現れた。
「やはりバレたか」
「あと木の上にババアもいるだろ」
その直後、ウィチカが木から降りてくる。
「遅い、三点」
「採点すんな」
「まぁまぁ」
宥められたクゥルフは気持ちを切り換え辺りを見回した。
「あともう一人いるっぽいが、マラミーか?」
「む?彼女は推し活に専念するから一日家を出ないらしいぞ」
「じゃあ誰だよ?」
二人は答えなかった。
クゥルフは気配の主に声をかけようとしたが、相手が出てくる方が早かった。
「かっ、金目のもの寄越せやゴラァ!」
男は剣を手に脅しをかけるが、三人には全く効いていない。それどころか何食わぬ顔で妖鬼に尋ねられる。
「君はいったい?」
「おっ、俺様は賊だ!凄いんだぞ!強いんだぞ!他の悪役なんかよりずっと!」
その言葉はまるで鋏のように三人の理性の糸をぷつりと切った。一方それに気づいていない男は彼等が黙ったことに嬉しそうな声を上げる。
「よっ、よし!わかったら金目のものを――へ?」
彼は妖鬼に首根っこを持ち上げられた。
男は混乱しつつも暴れる。
「はっ、放せ!おっ、俺様は賊なんだぞ!?」
対するクゥルフ、妖鬼、ウィチカは彼に恐怖を植え付けるかのように正体を明かす。
「あ?こちとら狼だぞ」
「私は鬼だな、一応」
「アタシは魔女じゃ」
三人の言葉に男は一瞬固まると、涙目で謝罪した。
「すみません許してください!」
「いや切り換え早過ぎだろ」
クゥルフが呆れる横でウィチカが叫ぶ。
「いいや許さぬぞ!」
「君は痛いのと痛くないのどっちがいいかい?」
「だ、だったら痛くない方が……」
「ウィチカ、毒を」
「おう、ちょっと待ってな」
男の顔は青ざめた。
「いっ、嫌だ!まだ生きていたい!」
彼は必死に喚いている。その姿を見たクゥルフは妖鬼達に言った。
「そろそろ止めようぜ。なんか可哀想に見えてきた」
「それもそうだな」
妖鬼が男を地面に下ろすと、彼は安堵の息をついた。そこへウィチカが再び恐怖に陥れようとする。
「うぅむ、生きたまま魔法薬の実験体にするのも良さそうかのぉ」
「ひぇぇっ……」
「おい止まれババア」
「アタシ等を本気で怒らせると怖いと、こやつに教えておかねばならんじゃろ」
「も、もうしませんから……」
男はそう言って土下座した。
「本当にすみませんでした!」
男は自らをルゾックと名乗り、過去を話し始めた。
「俺様――僕は弱い自分を変えたくて役者になったんだ。それで賊頭の役に通ったまでは良かったけど、リアルはずっとこんな感じで……」
「なるほどなぁ」
「苦労してきたんじゃな」
「ピーター・パン役の子には変な絡まれ方されるし、僕に役者は向いてないのかなぁ」
「……ルゾック」
ずっと黙っていた妖鬼が口を開く。
「君は役者になって後悔しているかい?」
ルゾックは首を横に振った。
「いいや。賊頭を演じること自体はとても楽しいんだ」
「それなら充分向いているよ」
妖鬼は微笑みかけた。
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