5話目『継母の悩みごと』

 ウィチカの空間移動魔法により現れた女性は、自らをマラミーと名乗った。

「悪役演者として皆様とぜひ仲良くなりたいと思いまして、お近づきの印に差し入れさせていただきましたの」

「それで何故アップルパイとカボチャの煮付けに?」

 妖鬼からの素朴な質問にも彼女は笑顔で答える。

「それは私が継母の演者だからです。なので今回のお料理は『白雪姫』と『シンデレラ』を意識して作らせていただきましたわ」

「なるほど。非常に美味でしたよ」

「ありがとうございます!」

「妖鬼、てめぇよく普通に納得できるな……」

 クゥルフは困惑していた。


「マラミーとは昨日『ヘンゼルとグレーテル』のキービジュアル撮影で一緒になったんじゃ。なぁ?」

「はい!」

 ウィチカの言葉にマラミーは頷く。

「わたくし、なかなか他の悪役演者さんと話す機会がなかったので嬉しかったんです。それでウィチカさんからお二方のことも聞きましたの」

「ほほぅ、そういうことでしたか」

「まぁ仲良くしない理由はねぇな」

「我々で良ければぜひ仲良くしましょう」

 クゥルフと妖鬼の言葉に彼女は目を輝かせて礼を言った。

「ありがとうございます!では早速、悪役演者の皆様に一つ聞いて欲しいことがありますの」


 マラミーの言葉に他の三人は顔を一度見合わせた。代表してウィチカが尋ねる。

「聞いて欲しいこと、とな?」

「はい。実はわたくし、悪役演者として一つ悩みがありまして」

 先程までとは一転、マラミーの顔には不安の表情が浮かんでいた。

「悩み、ですか」

「まぁ、俺達で良いなら聞くぜ?」

「ありがとうございます」

 お礼を言ったマラミーはひと呼吸置くと、悩みを口にした。

「こう見えてわたくし、毎度共演した子役さんのファンになってしまいますの。要するに彼等を『推し』として見てしまうのです」

 衝撃的な内容に、三人は呆気にとられた。


 声もなく目を点にしている彼等の反応をよそに彼女の言葉は続く。

「きらびやかなあの子達を堂々と推したいけれど、わたくしは継母として意地悪なことをしなければならない。常にその葛藤に追われているのです!」

「……まぁ、確かに悪役やってると公言できねぇよな。主人公役のファンだってこと」

 最初に口を開いたのはクゥルフだった。

「俺も好きな子がいるんだけど本人に嫌われちまったから余計に言えなくてさぁ……!」

「なんと!心情お察ししますわ!」

 手を取り意気投合する彼等を見つつウィチカが冷静に一言。

「おぬし未練がましいの」


「なんだとババア!」

「抑えろクゥルフ!マラミーさんの前だぞ!」

 堪忍袋の尾が切れたクゥルフを妖鬼が背後から拘束した。しかし今度は怒りの矛先が彼に向く。

「てか妖鬼!てめぇさっきからわかりやすく紳士アピールすんな!狙ってんのか!」

「それは否定しない」

「えっ!?」

「なっ……」

 予想外の発言に驚くマラミー。クゥルフも一瞬絶句するがすぐに我に返る。

「いやそこは嘘でも否定しろ!?」

「人妻役ばかりしていますが、それでも良ければ!」

「てめぇもてめぇでその気になってんじゃねぇ!」

 こうして彼等はマラミーと親しくなった。

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