7話目『お菓子を欲しがる季節』
「どうすっかな……」
撮影再開までの空き時間、スタジオのロビーにいたクゥルフはスマホの画面を見つめ悩んでいた。
「あの、その、クゥルフさん」
その声に顔を上げるとルゾックが怯えつつ立っている。
「おっ、ルゾックじゃねぇか。撮影か?」
「はい。そう、なんですけども……」
口を濁す彼を見てクゥルフは尋ねた。
「何かあったのか?」
「その、実は――『ピーター・パン』の子役達からハロウィンに手作りのお菓子が欲しいと言われまして……」
「菓子か。俺食うのは好きだが作るのはダメなんだよな」
それを聞いたルゾックは肩を落とした。
明らかに落ち込んでいる彼にクゥルフは慌てて言う。
「そんな顔すんなよ。俺には無理だけど妖鬼とか――あっ、マラミーが料理得意そうだから聞いてみようぜ?」
するとルゾックはたちまち笑顔になった。
「ありがとうございます!」
「い、いいってことよ」
クゥルフは早速マラミーと連絡を取ろうとした。しかし彼女の連絡先を聞いていないことに気づく。もしや妖鬼なら知っているかもしれないと思い連絡するも、彼から良い返事は来なかった。
「仕方ねぇな。こうなったらババアのとこ行くか」
その旨を妖鬼にも共有し、三人で訪ねることにした。
撮影終了後、クゥルフはスタジオのロビーにてルゾックと待ち合わせた。その後道中で妖鬼とも合流する。
「あの、ウィチカさんのお家ってどんな感じなんですか?」
「どんな感じって訊かれても」
「説明すんのは難しいな……」
そんな会話をしつつ三人が縦一列に歩いていると、後ろから二つの小さな影が彼等を追い越した。
「おばば〜!」
「おやつ〜!」
少年と少女は小屋の戸を叩きながらそう叫ぶ。すると程なくして戸が開き、ウィチカが出てきた。
「おやつはおぬし等じゃあっ!」
「わーっ!」
「きゃーっ!」
彼女の言葉に二人は笑顔で逃げ惑う。
微笑ましくも異様な光景に、クゥルフが口を開いた。
「何してんだババア」
ウィチカは少年少女を追いかけていた足を止め、三人を見遣る。
「おぉ、おぬし等か。何ってハロウィンじゃが?」
「我々の知るハロウィンと違うぞ」
「それにハロウィンは今日ではありませんし」
妖鬼とルゾックの言葉に少年と少女も同意する。
「おばば、これハロウィンじゃないよ!」
「おばば、ハロウィンはまだまだ先よ?」
「そうなのか!知らなかったわい」
そう言って高笑いするウィチカにルゾックは声をかけた。
「あの」
「なんじゃ?」
「僕を弟子にしてください!」
突然の弟子入り志願にクゥルフと妖鬼は驚いた。一方ウィチカは不敵な笑みを浮かべる。
「ほぉ、アタシの修行は厳しいぞ?」
「覚悟の上です」
「じゃあ早速掃除から――」
「おい待てババア」
ルゾックに指示を出そうとしたウィチカに、クゥルフがすぐに待ったをかけた。その横から妖鬼が尋ねる。
「ルゾック、君はお菓子作りについて教わりたいんだよな?」
「はい!妖鬼さん」
「なんじゃそっちか」
ウィチカは残念そうに呟くも、すぐに笑みを浮かべた。
「まぁ別に構わぬぞ」
「ありがとうございます!」
彼女の言葉にルゾックは笑顔で礼を言った。
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