虚無よりも飽和
明鏡止水
第1話
俺は虚無を抱えた人間だ。
仕事は頑張っているし、欲しいものだって買っている。
でも、しにたい、とおもってしまうのだ。
俺の趣味はマンガとアニメ、だとおもう。
でも、一番楽しい時は、思春期にハマった作品のグッズを買っているときだ。
作品を見返したり、マンガを読み返したりしない。
部屋には読んでいない小説、マンガ、一度も再生していない円盤。
休みがないわけじゃない。
ただ、どこから手をつけたらいいのか、わからないのかもしれない。
なにか、やらなければ、と思ったとき……。
おれは、しにたい、とおもうのだ。
こんなに充実しているのに。
どうしてか?
と思うだろう。
ありすぎて飽和状態で酸欠で溺れている。
やらなくちゃ。
そうおもうと、はやくしにたい、とおもってしまう。
これは病気なのかもしれない。
小説も2時間も3時間も読むのが勿体無いと思って読まない。
最新刊が気になっていたはずのマンガもシュリンクをやぶらず表紙はこちらを睨んでいる。
だいすきなものを一生懸命追う自分が、精一杯自分を支えている状態だ。
そのうち、なにかを追うことが目的になってしまったのか。
展示会もイベントもポップアップストアも情報をつかむとうれしいのに。
ひどく落ち込む時がある。
俺は思った。
ひとりだから、さびしいと感じているのではないか。
学生時代は友達と読んだマンガの感想を言い合うのが楽しかった。
テレビでその日に放送していた映画の感想をメールでやりとりするのが楽しかった。
たのしかった。
たのしかったのに。
なみだかでた。
たのしいはずなのに、楽しくない。
たのしみを楽しめない。
楽しもうとしない。
仮に休職したとして時間ができたとしても、俺は部屋にあるものを楽しまないだろう……。
だれか、たすけて。
こんなに楽しいもので溢れていそうでも、孤独な人生があるんだ。恋人とかが欲しいんじゃない。昔の友達と連絡は取れないだろう。
ああ、じぶんは一人なんだ。
一人で楽しむしか、ないんだ……。
次の休日、気晴らしに出かけようかと思ったけれど、どうせまた読みもしない本を買ってしまうだろう……。
映画を見て気持ちをすこし入れ替えようにも、心はこの部屋に帰ってくる。
売ってしまいたいわけじゃない。
ちゃんと、向き合いたい。
エアコンの効いた部屋で、俺は凹んでいた。
クレーンゲームの景品のでっけーぬいぐるみがめについたので抱きしめてみた。
涙が少し落ち着いた。
欲しくて、頑張って取ったんだ。
しんだら、遺品整理で迷惑をかけるだろう。
その前に大切にしたい。
人も物も動物もみんなたいせつな、だいじなものだ。
生まれて一番最初に愛したもの、好きになったものはなんだったんだろう。
デジタル時計で時間を見た。
……今日も眠れなかった……。
どうせ、ねむれないなら、本を一冊でもいいから、読めばよかった。
今からできるのは少しでも寝て、また、起きて、元気に生きること。
生きていれば、大切にできる日が来るだろうから。
未来がまだ、自分にも、ここにあるモノたちにも溢れている。
俺は、スマホを手に取って、お気に入りの曲を流した。全然響かなかった。
また、虚無だ。
幸せってなんだろう。
ちょっとだけ回復。
日付は変わっている。
今日もきっと、いい日にしたい。
虚無よりも飽和 明鏡止水 @miuraharuma30
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