大怪獣決戦 ④

 パーティ会場は戦場となり、一部の物好き以外はすでにその場から待避していた。

 天井から掛けられたシャンデリアは割れ、白いシーツの掛かったテーブルはひっくり返り、乗っていた料理は無残にも散らかっていた。

 MMとメグは銃痕の残るテーブルに身を隠しながら反撃を続けた。


「黒スーツ軍団だけなら負ける気はしねえが……」


「MM、くるっ」


 フォビアスの操る鋼鉄のワイヤーのような糸がテーブルや会場の壁を引き裂いた。

 フォビアスは体から生える蜘蛛の脚を使い、糸を複数同時に操ることができる。MMもメグも縦横無尽に襲いくるレーザーのような攻撃を躱すので精一杯だった。


「ぎゃあああああっ」


 硬い糸が仲間の黒スーツの体を引き裂いた。


「失礼致しました。が、邪魔だ。巻き込まれたくなければとっとと他の場所に行ってくれ。どうせこいつらは陽動だ」


 フォビアスはどういう訳か自ら孤立しようとしてくる。

 メグは敵同士で会話をしているうちに、ワイヤーをくぐり抜けて接近する。


「ま、待て。くっ――」


 MMは止めることを諦めて、自身も接近攻撃を仕掛ける。

 しかし、二人の体は空中でピタリと停止した。


「暗くてよく見えなかっただろ」


 MMとメグの体は見えない糸で絡め取られていた。

 フォビアスがワイヤーで派手に攻撃したのも、照明を破壊したのも、全てはこの罠のためだった。


「今宵もご馳走にありつけること、感謝致します」


「舐めんなよ!」


 MMがスーパーボールを放つが、フォビアスはそれをあろう事か口で受け止めた。

 当然、頭部は内側から爆発し顔がメチャクチャになる。


「くくくっ……」


 そんな状態になってもフォビアスは笑っていた。

 肥大化した体が裂けたかと思うと、皮を破り中から新しいフォビアスの体が現れた。


「ば、化け物……」


 メグは自信の死さえ愚弄できるその精神に戦慄した。


「お前らここでやられてもアジトに戻るだけだと思ってるだろ?」


「……なぜ、アジトのことを――」


 メグは馬鹿馬鹿しく思って途中で聞くのをやめた。

 答えはひとつしかない。


「ちょうど今頃、お前らの眠っている体を『モルフォナ』の軍隊が銃を持って包囲したと報告がきたぜ」


 新しくきた黒いスーツの男の方を見て言った。


「くっ……」


 MMが苦々しそうに声を漏らす。


「おっと、戻るなよ。その瞬間に発砲する。いいか、お前らが見逃されてたのは、ガキだったのとお嬢様のお友達だったからに過ぎないんだよ。だが、それも今日までだ」


「うおおおおっ!」


 MMが糸を体から生やした刃で切断し、そのままフォビアスに切り掛る。

 フォビアスは難なくその刃を受け止める。

 同時にゴムのような黒く硬い糸が射出され、MMの腹部を貫いた。


「MMっ!」


「いい表情だな……」


 フォビアスは満足そうに歯を剥き出しで笑う。

 そのまま縫い目だらけの顔を蜘蛛のそれに変えて、口を大きく開いた。


「待て……ど、どうしてクラム……子供まで殺した」


 MMは痛みに悶えながら聞いた。

 口元からは血が流れ、バイザーの隙間からは涙がこぼれている。


「あ? ああ、あの子供か。留めは刺さなかったが、死んでしまったのか」


 フォビアスは心底興味なさそうに呟く。


「あの子供は、俺が裏切り者の両親を殺そうとしたときに、突然『顕幻』したイルカと現れて攻撃してきたんだ。両親よりもよほど脅威だった。おれは戦う覚悟を持ったやつには、ちゃんと敬意を払わないといけないと思って――くくくっ……」


 途中から厳正な態度が崩れ、笑いが漏れ出てくる。


「ほんと、あの親子は……余計なことに首を突っ込む馬鹿なとこだけはよく似てたなあ!」


「お前えええええっ!」


 メグは激昂するが、MMはただ項垂れるだけだった。


「ちっ、抵抗もしねえのか。つまんねえな」


 フォビアスはそう吐き捨てて食事を再開した。

 肉と骨の砕ける音が響く。

 肉塊が転がった後、フォビアスは顔が青白くなったメグの方を見て笑った。


「さて、お前ら現実のガキどもを殺せ」


 黒スーツの集団にそう指示し、フォビアスはメグの元に歩み寄った。


「……おれはもう少し楽しんでからいくよ」



――「みなさん、聞いて欲しい話があります」



 そのとき、割れた窓の外、高層ビルの隙間の空に巨大なスクリーンが現れた。

 そこには一人の髪の長い仮面の少女の姿があった。

 フォビアスはそちらに気を取られていたため、自身の背後、捕食したはずのMMの肉片がピクリと動いたことに気付かなかった。

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