第13話 ツノ熊の実態


 夜が更け、牧場に静寂が訪れた頃、三人は柵の近くで待機していた。月明かりが草原を青白く照らし、アカウシたちは小屋の中で不安そうに身を寄せ合っている。


 「来るとしたら、あの森の方角からだろうな」


 ガレンが北の森を見つめながら呟く。


 その時、地面がわずかに振動した。


 『来るぞ』


 フェンガルが身構える。


 森の奥から、重い足音とともに巨大な影が現れた。それがツノ熊だった。


 「でかいな...」


 クロエが息を呑む。


 ツノ熊は普通の熊の倍以上の大きさがあり、額には鋭い角が二本突き出していた。しかし、三人が驚いたのはその外見だけではなかった。


 「あれ、なんだか様子がおかしくない?」


 リナが首をかしげる。


 確かにツノ熊の動きは妙だった。まっすぐ歩けずに、ふらふらとよろめいている。そして時々、苦しそうにうめき声を上げていた。


 「まさか...病気なのか?」


 ガレンが疑問を口にする。


 フェンガルが鼻をひくひくと動かした。


 『違う。これは...毒だ』


 「毒?」


 三人が驚く。


 『何者かに毒を盛られて、正常な判断ができなくなっているのだ』


 よく見ると、ツノ熊の目は充血し、口からよだれを垂らしている。明らかに異常な状態だった。


 「それで牧場を襲っているのか」


 クロエが理解する。


 「本来は大人しい動物なのに、毒のせいで凶暴になっているのね」


 リナが同情の表情を浮かべる。


 ツノ熊がアカウシの小屋に近づこうとする。牛たちの鳴き声が響いた。


 「どうする? このまま倒すのか?」


 ガレンが仲間に問いかける。


 「待って」


 リナが魔法の杖を構える。


 「毒を中和する魔法があるかもしれない。試してみる価値はあるわ」


 『その通りだ。本来の姿に戻してやれば、きっと森に帰っていくだろう』


 フェンガルが同意する。


 「よし、リナに任せる。俺たちは牛を守りながら援護するぞ」


 ガレンが剣を抜く。


 リナが呪文を唱え始めた。青白い光が魔法の杖から放たれ、ツノ熊を包み込む。


 しかし、毒はすぐには抜けないらしい。ツノ熊は苦しみながらも、まだふらついていた。


 「時間がかかりそうだ」


 その時、森の奥から複数の人影が現れた。黒いローブを着た怪しげな集団だった。


 「あいつら...まさか」


 クロエの顔が青ざめる。


 ローブの男たちの胸には、【反いくら丼】の紋章が刻まれていた。

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