第12話 牧場とアカウシとほっこり気分


 昼過ぎに、一行は緑豊かな丘陵地帯にある【オンジ牧場】にたどり着いた。木製の柵で囲まれた広い草原に、赤毛の美しい牛たちがのんびりと草を食んでいる。


 「あれがアカウシか」


 ガレンが感心したように眺める。


 普通の牛よりも一回り小さいが、艶やかな赤茶色の毛並みが陽光に美しく輝いていた。のんびりとした表情で、とても人懐っこそうだ。


 「可愛いわね」


 リナが目を細める。


 牧場の家から、白髪の優しそうな老人が手を振りながら近づいてきた。


 「マリアンヌ様からお話は伺っております。私がオンジです」


 老人が丁寧にお辞儀をする。


 「あなたたちがツノ熊を退治してくださるのですね。本当にありがたい」


 「こちらこそ、お世話になります」


 ガレンが礼を返す。


 オンジが牧場を案内してくれながら説明した。


 「アカウシは元々おとなしい性格でして、人にもよく懐くんですよ」


 一頭の若い雌牛が、クロエの近くまでやってきて鼻を擦り付けた。


 「おお、人懐っこいな」


 クロエが優しく頭を撫でてやる。牛は嬉しそうに尻尾を振った。


 『動物は純粋な心を持つ者を見分けるものだ』


 フェンガルが感心したように言う。


 「オンジさん、アカウシの肉はどんな味がするんですか?」


 リナが興味深そうに尋ねる。


 「それはもう、絶品ですよ。柔らかくて、甘みがあって、口の中でとろけるような食感です」


 オンジの目が輝く。


 「特に【すき焼き】にすると最高なんです」


 「すき焼き?」


 三人が首をかしげる。


 「薄く切った肉を、甘辛いタレで煮た料理です。アカウシ肉との相性は抜群ですよ」


 「それも丼にできそうですね」


 ガレンがひらめいたように言う。


 「【すき焼き丼】か、美味しそうだな」


 その時、牧場の奥から不安そうな鳴き声が聞こえてきた。


 「ああ、また怯えているのですね」


 オンジが心配そうに顔を曇らせる。


 「ツノ熊のせいで、アカウシたちも落ち着かないのです。夜になると特に酷くて」


 フェンガルが警戒するように耳を立てた。


 『近くに魔物の気配がする。おそらくツノ熊だろう』


 「分かりました。今夜、必ず退治します」


 ガレンが力強く宣言した。


 夕暮れ時、オンジの家で温かい夕食をご馳走になりながら、三人は作戦を練った。穏やかな牧場の風景を見ていると、心が和んでくる。


 このほっこりとした気分を守るためにも、ツノ熊は必ず倒さなければならなかった。

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