第14話 反いくら丼の紋章と野望


 黒いローブの集団が月明かりに浮かび上がると、その胸に刻まれた紋章がはっきりと見えた。いくら丼を逆さにしたような邪悪なマークだった。


 「反いくら丼教団...」


 ガレンが歯ぎしりする。


 ローブの男たちのリーダーらしき人物が前に出てきた。痩せた体に鋭い目つき、薄気味悪い笑みを浮かべている。


 「ほう、我々の計画を邪魔する者がいるとは」


 男が嘲笑うように言う。


 「君たちが例の【いくら丼信者】どもか」


 「貴様らがツノ熊に毒を盛ったのか!」


 クロエが怒りを込めて叫ぶ。


 「ふふふ、正解だ。この地域の平和を乱し、人々を絶望に陥れる。それが我々の第一段階よ」


 リーダーが不気味に笑う。


 「第一段階だと?」


 リナが魔法を唱えながら問い返す。


 「そうだ。まずは小さな混乱から始める。牧場を荒らし、人々の心を不安で満たす」


 男が語り続ける。


 「やがて人々は絶望し、我々の教えに縋るようになる。『いくら丼などという偽りの希望は捨てろ』とな」


 『なんと愚かな』


 フェンガルが憤怒の表情を見せる。


 『真のいくら丼は生命の源。それを否定するなど』


 「生命の源? ばかばかしい」


 リーダーが鼻で笑う。


 「我々は【破壊の丼】を完成させる。全ての生命を無に帰す、究極の破滅料理をな」


 三人の血の気が引いた。


 「破壊の丼...そんなものを作るつもりか」


 ガレンが震え声で言う。


 「そのためには、まず真のいくら丼の在り処を探り出さねばならん。君たちのような純粋な探求者を追跡すれば、必ずナンミョウにたどり着ける」


 男の目が邪悪に光る。


 「つまり、俺たちは利用されていたのか」


 クロエが悔しそうに拳を握る。


 「まさにその通り。ツノ熊の件は君たちを試すためのテストでもあったのだ」


 その時、リナの魔法が効果を現し始めた。ツノ熊の目から充血が消え、正常な理性が戻ってきた。


 「な、なんだと?」


 リーダーが驚く。


 毒が抜けたツノ熊は、混乱したように周りを見回した後、反いくら丼教団の面々を見つめて低くうなった。


 どうやら、自分に毒を盛った相手が誰かを理解したようだった。


 「しまった、計画が狂った」


 教団員たちが慌て始める。


 「撤退だ! 今度は別の手を使う」


 リーダーが指示を出すと、一同は黒い煙と共に姿を消した。


 後には、正気を取り戻したツノ熊と、呆然とする三人だけが残された。


 ツノ熊は申し訳なさそうに三人を見つめると、深く頭を下げて森の奥へと去っていった。

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