第5話 鉄牙狼と従魔契約


 老人の話を胸に、三人は東の森へと向かった。昼間とはいえ、うっそうと茂る木々の間は薄暗く、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。


 「静かすぎるな。鳥の鳴き声すら聞こえない」


 ガレンが剣の柄に手をかけながら呟く。


 その時、茂みから低いうなり声が響いた。


 「来たわね」


 リナが魔法の杖を構える。


 現れたのは一匹の巨大な鉄牙狼だった。体長は普通の狼の倍はあり、鋼鉄のような牙が月光のように鈍く光っていた。


 「おかしいな。群れで行動するはずなのに一匹だけか?」


 クロエが困惑する。


 鉄牙狼は三人を見つめていたが、なぜか攻撃してこない。それどころか、まるで何かを訴えかけるような目をしていた。


 「待って」


 リナが仲間を制止する。


 「この子、敵意がないわ。何かを伝えようとしている」


 鉄牙狼がゆっくりと近づいてくる。ガレンが身構えたが、狼は三人の前で座り込んだ。


 そして突然、頭の中に声が響いた。


 『君たち...いくら丼を求める者たちか?』


 三人は驚いて顔を見合わせた。


 「テレパシー? 魔物が話しかけてくる?」


 『我の名はフェンガル。長い間、真の【いくら丼】を求める者を待っていた』


 鉄牙狼...フェンガルが続ける。


 『君たちの熱意を感じる。その想いは偽りではない』


 リナが恐る恐る尋ねた。


 「あなたも、いくら丼のことを知っているの?」


 『知っている。そして君たちの旅路がいかに困難かも。だからこそ、力を貸したい』


 フェンガルの目が真剣に光る。


 『従魔契約を結ばないか? 我が君たちと共に【ナンミョウ】を目指そう』


 ガレンが戸惑った。


 「魔物と契約だと? そんなことができるのか?」


 『いくら丼への情熱が我々を結ぶ。これも運命というものだろう』


 三人は顔を見合わせた。確かにフェンガルからは敵意ではなく、同じ目標を持つ仲間の気配を感じた。


 「分かった。一緒に行こう、フェンガル」


 リナが手を差し出すと、フェンガルがそっと鼻を押し当てた。


 その瞬間、温かい光が三人とフェンガルを包み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る