第4話 マシガルの幻影


 翌朝、三人が宿屋で出発の準備をしていると、隣のテーブルで朝食を取っていた冒険者たちの会話が聞こえてきた。


 「おい、あそこの三人組、ナンミョウとかいう国を探してるらしいぜ」


 「ナンミョウ? 何それ、聞いたことないな」


 「いくら丼とかいう料理を食いに行くんだとさ」


 ベテラン風の冒険者が鼻で笑った。


 「いくら丼? 何寝ぼけてやがる。そんな料理、この世界のどこにもないぞ」


 「そもそもナンミョウなんて国、存在するわけがないだろ」


 別の冒険者も口を揃えて言う。


 三人は顔を見合わせた。確かに地図にはナンミョウと書かれているのに、なぜみんな知らないのだろうか。


 その時、宿屋の隅に座っていた老人がゆっくりと立ち上がった。白い髭を蓄えた学者風の男性だった。


 「君たち、少し話を聞かせてもらえるかな?」


 老人は三人のテーブルに近づいてきた。


 「私はこの辺りの古い伝承を研究している者でね。興味深い話が聞こえてきたものだから」


 リナが警戒しながらも答える。


 「ナンミョウという国のことですか? 地図にはっきりと記されているのに、誰も知らないようで」


 老人は深く頷いた。


 「ああ、それは【マシガルの幻影】というものだよ」


 「マシガルの幻影?」


 ガレンが首をかしげる。


 「古い魔法の一種でね。実際には存在しないものを、地図や書物に実在するかのように錯覚させる現象なんだ」


 老人は静かに説明を続けた。


 「霧のようなものだと思えばいい。特定の条件を満たした者にだけ見える、幻の情報というわけだ」


 クロエが疑問を口にする。


 「なら、俺たちが見ている地図も偽物だというのか?」


 「そうとも言えるし、そうでないとも言える」


 老人が意味深に微笑む。


 「幻影とはいえ、それを見ることができるということは、君たちに何らかの資質があるということだからね」


 三人は困惑した。自分たちが見ているナンミョウは本当に存在するのだろうか。

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