第10話
年が明けて数日後。
近所の商店街はまだ正月飾りが残っていて、人通りもどこかのんびりしている。
俺と凛はいつものように並んで歩いていた。
ただ一つ違うのは――もう「幼馴染」ではなく、「恋人」になったということだ。
「ねえ慎太、今年の抱負は?」
「うーん……とりあえず、凛と喧嘩しないこと」
「ふふっ、それって起きるわけないし低い目標じゃない?」
「いやいや、俺にとっては超重要課題なんだ」
笑い合いながら歩く感覚は、昨日までと変わらない。
でも手を繋いでいるこの温もりが、確かに変わったことを教えてくれる。
学校が始まってからも、俺たちは特に隠すことなく一緒に過ごした。
クラスメイトからは「ついに!」「やっぱりね!」と茶化される。
橘にまで「おめでとう、二人とも」と爽やかに言われ、俺は頭をかいた。
凛はそんな時でも堂々としていた。
「ありがとう。みんな、ちょっと慎太、そんな照れないで。」
「お前な……」
教室のざわめきが心地よく感じるなんて、昔の俺じゃ考えられなかった。
放課後、二人で寄り道をした。
凛が「行きたい」と言ったのは、近くの図書館だった。
「なんでまた本?」
「来年の文化祭、またやりたいねって言ったでしょ。その時のアイデア探し」
「気が早すぎだろ」
「慎太は計画性ないんだから、私がやらなきゃ」
こういうやり取りが、妙に嬉しい。
これからも一緒に未来を考えていけるんだと思うと、胸が温かくなる。
図書館を出ると、夕焼けが空を赤く染めていた。
凛は立ち止まり、空を見上げて小さく息を吐く。
「ねえ、慎太」
「ん?」
「私ね、アイドルとかヒロインとか、そういうのじゃなくていいんだ」
「……?」
「ただの幼馴染でも、なんならただの女の子でもいい。でもね――ずっと慎太の隣がいい」
それは告白をもう一度繰り返すような言葉だった。
胸が熱くなり、自然と口角が上がる。
「安心しろ。俺も凛の隣以外、考えられないから」
そう言うと、凛は照れくさそうに笑い、俺の肩に頭を預けてきた。
夜。
帰り道の商店街は、正月飾りの代わりにいつもの街灯が灯っていた。
人々のざわめき、夕飯の香り、冬の冷たい空気。
そのすべてが、これから二人で過ごしていく日常の一部になる。
凛が小さくつぶやいた。
「ねえ慎太、来年も、再来年も、その先も……一緒にいようね」
「当たり前だろ。俺たちはもう、幼馴染じゃなくて――恋人なんだから」
手を繋ぐ力が、少し強くなる。
その温もりを確かめながら、俺は思った。
――これからもずっと、この日常を守っていこう。
そして物語は、日常へと戻っていく。
ただし昨日までとは違う。
互いの想いを知り、恋人として歩み出した俺たちの新しい毎日が、ここから始まるのだから。
学校ではアイドル、家ではジャージ姿――そんな幼馴染が隣にいます 長晴 @Hjip
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます