第9話
大晦日。
実家で年越しそばを食べながら、俺は落ち着かない気持ちで時計を見ていた。
理由は単純。
凛と一緒に初詣へ行く約束をしていたからだ。
除夜の鐘が鳴り響くころ、凛から「着いたよ」とメッセージが届く。
玄関を開けると、黒いコートに真新しい赤いマフラーを巻いた凛が立っていた。
寒さで頬を赤くしながらも、相変わらずの笑顔。
「遅くなってごめん。じゃあ、行こうか」
「うん!」
年が明けたばかりの街は、人々の賑わいと吐く白い息でいっぱいだった。
神社の境内は行列ができていて、焚火の火がぱちぱちと弾けている。
俺と凛は並びながら、屋台で買った甘酒をすすった。
「こうして並ぶの、毎年恒例になってるね」
「そうだな。小学生の頃から、ずっと一緒だ」
「……来年も、その次も。一緒に来たいな」
凛の言葉はさらりとしていたけれど、俺の胸を強く揺さぶった。
やがて順番が来て、鈴を鳴らし、それぞれ願い事をする。
俺が願ったのは――「彼女と、これからも隣にいられますように」。
振り返ると、凛がじっと俺を見ていた。
まるで、同じことを願ったんだと伝えてくるように。
参拝を終え、神社を出る。
まだ夜明けには時間があるが、俺たちはそのまま初日の出が見える丘へ歩いた。
「寒いね……」
凛が小さく肩を震わせる。
俺は持っていたホッカイロを差し出し、さらにマフラーを引き寄せるようにして彼女を覆った。
「ありがとう、慎太」
「……凛こそ、ありがとな」
沈黙が続く。
けれど、不思議と苦しくはなかった。
むしろ、言葉よりも確かなものが、今この空気の中にあった。
やがて東の空が白み始める。
吐く息が朝日に染まり、この時間を新しくする。心構え勇気が心を満たした。
「……凜」
「ん?」
「俺、去年も一昨年も、もっとずっと前から思ってたことがあるんだ」
凛へと振り向く。自分の頬は寒さで赤いのか、恥ずかしさで赤いのか。
「俺さ、凛と一緒にいると安心する。嬉しくて、楽しくて……」
一度息を吸い、彼女はまっすぐに言った。
「だから――好きだ。ずっと前から、凛のこと。」
世界が止まったように感じた。
心臓が喉までせり上がり、緊張で手足が震える。
けれど、ここで言わなきゃ一生後悔すると思った。
「……私も。慎太のことがずっと、好きだった」
その瞬間、東の空から光が差し込んだ。
初日の出が俺たちを照らす。
まるで祝福するように。
凛は小さく笑い、俺の袖をぎゅっと掴んだ。
「やっと言ってくれた。……ほんと、慎太は鈍いんだから」
「悪かった。でも、もう遅れは取らない」
そう言って、俺は凛の手を握った。
冷たいはずのその手は、不思議なくらい温かかった。
新しい年の始まりとともに、俺たちの関係もまた、新しく動き出したのだ。
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