老年法
エリー
第1話
「今日までなら何をやっても少年法で守られる。」
誕生日前日に子どもは時々こういうことを言う。実際には何をやってもOKというほど甘くはないが、確かに成人になってから罪を犯すよりは今やる方が罰が軽いだろう。まだ若いんだから更生させた方が社会の為でもある。だから少年法というものが出来たのだ。そもそも子どもはまだまだ未完成な生き物で、善悪を判断する能力が欠けているんだから大目に見てやってくれという話だ。
私からすると幼稚園児は確かにまだ何もわからない赤ちゃんと同じような存在に思えるが、じゃあ10歳くらいならどうだろう? 自分の昔を思い出しても結構ちゃんと考えて生きていたと思う。善悪の判断くらいつくんじゃないだろうか。店でお金を払わずに商品を盗んだらダメ、クラスメイトを殴っちゃダメ、修学旅行で女風呂を覗いちゃダメ……。ダメなことは分かっていた。分かっていながらやっていたこともある。そんな立場でどの面下げて言うんだとは思われるだろうが、やっぱり子どもだからといって罰がないのは良くないと思う。今は13歳以下の子どもには刑罰がない。罰がないのにやるなと言われておとなしく従うだろうか? 法律があるから、罰があるから、何とか社会が成り立っているんだ。刑事責任能力がないなんて、年齢で区切っていいのだろうか? 2000年に刑事処分可能年齢を16歳から14歳に引き下げる法改正が行われたが、まだまだ引き下げるべきだろうと思う。年齢が一桁のうちだけ、少年法で守ればいいと。政府は子どもを侮りすぎだ。
逆に最近の政府は高齢者も侮っている。“老年法”が4月から施行されるそうだ。高齢者には何も判断できないとでも? もうボケちゃってるんです。お店でお金を払ってないことを忘れちゃってたんです。ってそんなこと、ある? ……あるのかも知れない。正直10歳の私がそれを忘れることはなかったと思うが、今ならうっかり色んなことを忘れているものな。うっかりうっかり、色んなことをやっちゃって。その度に罰金払わされたら破産しちゃうよな。家族にも迷惑がかかる。
4月から老人は子どもと同じように刑事責任能力がないと判断されて、罰を受けないで済むようになる。いったいどんな社会になるんだろう? 明日は私の86歳の誕生日だ。
老年法 エリー @meron-pa
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