第9話 家族に害をなす者は誰であろうと許しません




「まったく!! 試験が終わったならさっさと我を迎えに来ないか!! この馬鹿者!! 置いて行かれたのかと思って焦ったのだぞ!!」


「すみません、すっかり忘れていました」



 魔法学園での初日が終わり、帰り際にディアベルを預けていたことを思い出した俺は、彼を引き取って日本の自宅に帰ってきました。

 扉を潜ると、碧と沙織が出迎えてくれました。

 家に帰ると家族が待っているというのは、言い表せない幸福を感じます。



「おかえり、お兄ちゃん!!」


「ただいま帰りました」


「今日は湊くんの大好きな唐揚げよ!! もうすぐ揚げ上がるから待っててね!!」



 キッチンの方からお腹が空いてくる香ばしい匂いがします。

 やりました、唐揚げです。

 俺はウキウキしながら唐揚げが完成するのを待ちました。


 しかし、ここで思わぬ事件が起こります。



「お兄ちゃん、一大事だよ!! マヨネーズが切れてる!!」


「……要りますか?」


「要るよ!! 唐揚げはマヨネーズがあってこそ完成するんだよ!! レモン派のお兄ちゃんには分からないだろうけどね!!」



 そう言えば、うちの妹はマヨラーでした。

 ちなみに沙織はソース派で、亡き父は塩コショウ派です。

 家族全員好みが違うというのは、中々珍しいのではないでしょうか。



「うぅ、今からスーパー行って間に合うかなー」


「コンビニなら売っているのでは?」


「それだ!! ちょっと今から行ってくる!!」


「もうお外は真っ暗だし、一人は危ないわよ?」


「ヘイ、お兄ちゃん!! プリン奢るから一緒に行こ!!」


「分かりました」



 俺は碧と二人でコンビニに向かいます。

 流石にこちらの世界でディアベルを見られると大騒ぎになると思うので、彼はお留守番です。

 もっとも、彼は碧が録画している深夜アニメを観賞するのに夢中で誘っても来なかったと思いますが。


 人通りの少ない夜道を二人で歩いていると、不意に碧が笑いました。



「ふふっ」


「急にどうしました?」


「ううん、お兄ちゃんが死んじゃう前はたまにこうやって夜中のコンビニにカップ麺とか買いに行ってたなーって」



 二人で思い出話を語るうちに、コンビニに到着してしまいました。

 あっという間ですね。

 碧がマヨネーズとプリンのついでにいくつかのお菓子を買い、コンビニから出ました。

 すると、コンビニに入る時はいなかった集団がコンビニ前でたむろしています。



「ねぇねぇ、君!! 高校生? 可愛いね!!」


「お兄さんたちと遊ぼうよ」


「大丈夫大丈夫、何もしないから!!」


「や、やめてください、迷惑なんで……」



 どうやら三人の青年が一人の少女をナンパしているようです。

 ああいうのは無視しましょう。

 助けたところで何の見返りもないですし、顔も知らない誰かを助けるほど、俺はお人好しではありません。

 しかし、ここで迷わず少女を助けようとする人物がいました。


 碧です。



「ちょっと!! 嫌がってるんだからナンパやめなさいよ!!」


「は? いきなり何偉そうに――って、めっちゃかわいいじゃん!!」


「君もオレらと遊ぼうよ!!」



 青年が碧に手を伸ばした瞬間でした。

 碧は青年の手首を掴み、軽々と背負い投げしてしまったのです。

 青年は何が起こったのか分からず、硬いアスファルトの上に尻餅をついて悶絶していました。



「え? は?」


「な、なんだ、何をされたんだ?」



 困惑する青年たち。


 兄の贔屓目を差し引いても碧は天才です。ついでに言えば努力家でもあります。

 サッカーやバスケ、バレーなどのスポーツは始めて一ヶ月足らずで成績を残し、空手、柔道、剣道、総合格闘技などでは初めて臨む試合で優勝したりします。


 それに加え、学校のテストでは常に一位。

 趣味のラノベ漁りやアニメ観賞を欠かしていないのですから、人間か疑わしくなります。

 ただ思ったことを口にしてしまうコミュニケーション能力の低さと、何でもかんでもネットに投稿しようとするネットリテラシーの低さが碧のよさを打ち消してしまうわけですが。


 もしその二つの欠点がなかったら、碧は今頃男女からモテモテの学校生活だったと思います。

 実際、俺とは違って迷わず困っている人を助けようとする善良さもあるわけですし。


 碧は青年たちをじっと見つめながら一言。



「まだやります? お兄さんたちより私の方が強いですけど」


「ひっ、お、おい、行くぞ!!」


「あ、ああ!!」


「お、おい!! 置いてくなよ!!」



 青年たちは蜘蛛の子を散らすように、尻尾を巻いて逃げ出しました。

 その後ろ姿を見送った碧は、絡まれていた少女に優しく笑顔で話しかけます。



「大丈夫でしたか? って、上坂うえさかさん!?」


「え、鈴木さん!?」



 どうやらナンパされていた少女は碧の知り合いだったようです。

 聞けば碧の同級生だそうです。

 髪を白と黒のツートンカラーに染めており、ギャルっぽい見た目をしているのでとても中学生には見えません。


 というか、中学生なのに髪を染めてもいいのでしょうか。

 もしかして不良なのでしょうか。

 あまり妹の交友関係に口を出すのはよくないと思いますが、兄として少し心配になります。


 上坂は碧を見るなり顔を真っ赤にして、明らかに動揺していました。

 視線を彷徨わせた末、碧の隣にいた俺と目が合ってしまいます。


 俺を見た瞬間、上坂の目からスッとハイライトが消えます。



「ね、ねぇ、鈴木さん。そっちの男の人は? も、もしかして、彼氏とか?」


「え、違うよ!? 私のお兄ちゃんだよ!!」


「お兄さん? でも鈴木さん、先月お兄さんが亡くなったって……」


「あっ、いや、えっと!! お兄ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんの友だち、みたいな……」


「つまり、ただの他人ってこと?」



 上坂は俺を睨み、ボソッと一言。



「鈴木さんはお兄さんを亡くして傷心してたんです。もしそこに付け込もうとしてるなら私が許さないので」


「なるほど、分かりました」



 少し見た目に威圧感があるだけで、友だち思いないい子だったようです。

 人を見た目で判断するのはよくないですね。

 それから碧と少し話した後、上坂はまた明日学校でと言って去って行きました。



「碧、ああいう友だちは大切にしてくださいね」


「言われなくてもそうしてるよ? でも上坂さん、たまに私のこと怖い目で見てくるからなー。嫌われてるのかな?」


「あれは嫌われているというか……いえ、俺が言うのは野暮ですね」


「え、何? 何のこと!?」



 俺たちは自宅に戻り、出来立ての唐揚げを美味しくいただきました。



「んー!! やっぱ唐揚げにはマヨネーズだよね!!」


「ソースの方が美味しいわよ?」


「シンプルにさっぱりしたレモンが一番です」


「我はケチャップだな。程よい酸味が唐揚げの油くどさを中和して肉本来の旨みが伝わってくる」



 と、その時でした。


 庭の方で我が家の番犬シヴァが低く唸り、吠える声が聞こえてきたのです。



「何かしら? シヴァがあそこまで吠えるなんて珍しいわね」


「……俺が見てきましょう。ご飯が足りなくて怒ってるのかもしれません」


「あら。じゃあお願いね、湊くん」



 俺は玄関から外に出て、庭にいる侵入者どもの会話に聞き耳を立てます。



「ま、まじでやるのかよ?」


「舐められたままで終われるかよ!! なーに、どんなに強くてもナイフで脅しちまえば女なんてビビって何もできねーよ。ぶち犯してやる」


「で、でもバレたら逮捕じゃ済まないだろうし」


「へーきへーき。オレの親父、警察にもコネがある暴力団の幹部だからよ。バレても揉み消してもらえるって」


「そ、そうは言っても……」


「つーかこの犬うるせーな。先にこの犬からぶっ殺しちまうか?」


「お、おい、やめろよ。オレ、昔犬飼ってたから犬だけは傷付けないって決めてんだ」


「お前もゴチャゴチャうるせーな!! じゃあお前は帰れよ!! あ、サツにチクったらお前も殺すからな!!」



 ああ、やっぱり彼らでしたか。

 我が家の庭にいたのは、先ほどコンビニで上坂をナンパして碧が撃退した青年たちでした。

 青年たち三人のうち二人はナイフを持っており、物騒な会話をしています。


 ナイフを持って家に押し入り、あまつさえ俺の妹を犯すなどと豪語するとは。

 とても日本という法治国家で生まれ育った人間とは思えません。



「君たち」


「「「!?」」」


「今すぐ引き返すなら、何もしません。早くお帰りください」


「ぷっ、くっくっくっ」



 俺が静かにそう告げると、ナイフを持った二人の青年がニヤニヤと笑いました。



「おいおい。こいつ、ナイフコレが見えてねーのか?」


「大人しくしろよ、騒いだらテメーからぶっ殺す」


「……残念です」



 俺は呪文を詠唱し、ナイフを持った二人を転移魔法で別の場所に飛ばしました。

 その場に残ったのはシヴァを傷付けることに反対した青年だけです。


 青年は二人が忽然と姿を消したことに腰を抜かしてしまい、怯えた目で俺を見つめています。



「君はどうしますか? これから心を入れ換えて悪さをしないなら、見逃してあげますよ」


「か、かかか帰ります!! 心を入れ換えて真面目に生きます!!」


「そうですか、それは何よりです。ああ、ここで起こったことは内密に。もし話そうものなら――あとは分かりますね?」


「ひいっ、す、すみませんでした!!」



 青年は腰を抜かしたまま、這ってその場から慌てて逃げ出しました。

 きっと彼には俺が人ではない『何か』に見えたことでしょう。


 それでいいのです。

 彼は金輪際、俺を恐れて悪さをしようとは思わないでしょう。

 まあ、仮にまた悪さをするとしても、その矛先が碧や沙織に向かないのであれば構いません。


 青年を見送った後、俺は強制転移させた二人の青年の元へ向かいました。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

その後、犬好きの青年はたまに誰かに見られているような気がして不眠症になるも、真面目に就職して両親に親孝行しながら平和に暮らした。後に執筆した『世の中には触れてはならない神がいる』がベストセラーに。めでたしめでたし。


碧ちゃんが色々な意味で強すぎる、と思ったら★★★ください。


「唐揚げに何かけるかで意見分かれすぎ」「上坂ちゃん碧に惚れてるやろ」「容赦ない笑」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る