第8話 先輩で後輩な同輩ができました




 特別クラスの教室は、本校舎とは違う場所にある別棟にあるようです。

 アルシエルの後に付いて向かった先は、魔法学園の敷地内にある塔のような建物でした。


 塔の中に入ると、階段を数段登った先に人が乗れるほど大きな円盤がありました。

 その円盤に乗ってアルシエルが呪文を唱えると、円盤は瞬く間に上昇。

 魔法を使ったエレベーターのようです。



「さあ、ここが君のクラスだよ」



 魔法エレベーターから降りると、すぐ目の前に扉がありました。

 アルシエルに促されて扉を潜ると、そこには可愛らしい少女が一人。


 ウルフカットの青い髪と黄金の瞳が印象的な、華奢で小柄な体躯の美少女です。

 ローブの下にはへそ出しのタンクトップを着ており、大胆に太ももを露出したホットパンツと長いソックスを履いています。


 おや、この人は……。



「あっれぇー? アル先生、もしかしてその人が新しい特級クラスの生徒ですかぁー?」


「そうだよぉ。仲良くしてあげてね、ルネ」



 アルシエルにルネと呼ばれた生徒は、俺の方に駆け寄ってきて顔をじーっと見つめてきました。

 上目遣いが可愛いですね。

 しばらく見つめ合っていると、ルネはどこか嬉しそうに微笑み、少し高い声で俺の腕に抱き着いてきました。



「やった♪ 結構なイケメンじゃん♪ 僕はルネ、お隣のシルベリアン帝国から留学してきたんだ♪ お兄さん、カノジョとかいるー?」


「ジオルグと申します。残念ながら良縁に恵まれず、今までそういった経験はありません」


「えー♪ ちょった意外かも♪ じゃあ僕、お兄さんのカノジョに立候補しちゃおっかなー? なーんてね♪」


「ああ、冗談ですか。よかったです、男性から好意を寄せられるのは初めてなのでどうしようかと」


「……は?」



 俺の一言でルネの表情がピシッと凍りつき、顔色が悪くなりました。



「な、なんで僕が男だって分かったの?」


「いえ、最初は分かりませんでした。ただうっすらとですが、喉仏がありましたので。そこに気付いたら骨格も女性らしくないなと」


「まじかよ。初対面で見破られたの初めてなんだけど」


「ところで、何故そのような格好を?」



 ふとした俺の疑問にルネはニヤニヤと笑いながら答えました。

 底意地の悪そうな、可愛らしさの欠片もない笑みです。



「そんなの、男が勘違いして僕に告白してきたらネタバラシして失恋した瞬間の顔を拝むために決まってんじゃん」


「なるほど。ただ性悪なだけでしたか」



 ルネは「つまんなーい」と言って俺から興味を失ったのか、席に着いて顔を突っ伏しました。

 そこにアルシエルが一言。



「あ、ルネ。言い忘れてたけど、その人マギルークの王子様だから無礼な真似はしないようにね」


「もー、アル先生!! そういう大事なことは先に言ってよー!! 王子様とか超狙い目じゃん!! ねぇねぇ、王子様!! 僕、男だけどそういうテクとか自信あるよ!! 僕と付き合っちゃおうよ!!」


「性悪は遠慮しておきます。ちなみに王子とは言いますが、先日まで魔法が使えなかったせいで王位継承権もなかった名ばかり王子ですよ」


「ちっ。なんだよ、期待させやがって」


「ここまで清々しいクズだと接しやすくて助かりますね。改めてよろしくお願いします、ルネ」


「はいはい、よろしくよろしくー」



 俺の方を見ないで手をひらひらとさせるルネ。


 ……そう言えば、俺はバベックとの王位継承権を賭けた決闘で勝利していました。

 その後すぐ国王に呼ばれて有耶無耶になってしまいましたが、王位継承権はどうなっているのでしょうか。

 まあ、あの決闘は舐められないようにするためのものでしたし、別に要らないのですが。


 

「じゃあ、ルネとジオルグが仲良くなったところで――今日は自習ね」


「おや、授業はないのですか?」


「ごめんねぇ。国からの依頼で辺境に魔物退治に赴かなくちゃいけなくて。なんなら帰っちゃっていいからさ。また明日ねー」



 そう言い残してアルシエルは特級クラスの教室から出て行ってしまいました。

 教室には俺とルネの二人のみ。

 何をすればいいのか分からないので、ひとまず席に着いて隣のルネに話しかけます。



「アルシエル先生はいつもこうなのですか?」


「んー、まあね。ゆるーい雰囲気だから分かりにくいけど、アル先生はまじで忙しい人だし。授業だって月に一回受けられればいい方だよ。ま、僕は天才だし? 余裕で成績トップ維持できるし?」


「そうなのですか。……ふむ、困りましたね。魔力操作のコツを教わりたかったのですが」


「は? 魔力操作とか基礎中の基礎っしょ?」


「俺が魔法を使えるようになったのはつい最近でして。そのせいで基礎も疎かなのですよ」


「ぷっ」



 ルネが吹き出し、ニヤニヤと笑います。



「魔力操作もできないとか魔法使いとして終わってんじゃん!! プークスクス!! 今すぐ学園やめて別の道探した方がいいんじゃなーい?」


「終わっているというよりも、ようやく始まったというべきですね。生憎と図書館の魔導書を全て読み漁るまでは在籍しますよ」


「いや、もっと怒れよ。……なんか調子狂うな、この王子様」



 そう言ってルネは頭を掻き、何を思ってか俺に詰め寄ってきました。



「……教えてやるよ」


「はい?」


「だーかーらー!! アル先生がいない時は僕が魔力操作とか色々教えてやるって言ってんの!!」


「それはまた、どういう風の吹き回しで?」


「勘違いすんなよ!! 僕はお前の先輩だから教えてやるってだけだから!! あとアル先生に褒められたいから!! お前は僕の評価を上げるための道具ってこと忘れるなよ、後輩!!」



 よく分かりませんが、ルネは特級クラスでアルシエルに師事してきた生徒です。

 きっと魔法使いとしての技量は俺よりも遙かに上でしょう。


 自習ならば魔法学園の図書館にある魔導書を読み漁ろうと思いましたが、今日は彼に教えてもらうことにしました。



「よろしくお願いします、ルネ先輩」


「ふ、ふーん? 教わる立場ってのをよく分かってんじゃん。じゃあまず、魔力を感じるところからやってみよっか」


「魔力を感じる……?」



 そうしてルネによる授業が始まりました。



「魔力は血管を流れる血液みたいなもので、全身を巡り巡ってる。まずはそれを把握しなきゃ始まらない」


「……ふむ。言われてみれば、たしかに魔力の流れを感じますね」


「ふーん? 筋はいいみたいじゃん」


「ルネ先輩の教え方が上手いお陰ですね」


「まだ何も教えてねーよバカ」



 とはいえ、奇妙な感覚ですね。


 俺の中の魔力はディアベルのものです。

 本来は俺のものではないエネルギーが全身に流れているのですから違和感のようなものがあるのでしょう。

 俺はすぐに身体の中を巡る魔力を感知、認識することができました。



「じゃ、魔力の流れが分かったら次は呪文の詠唱について。ちなみにこの情報はアル先生から教えてもらった最新の知識だから、一言一句聞き逃すなよ」


「はい、ルネ先輩」



 ルネ先輩曰く、呪文の詠唱はそもそも魔法陣を生成するために行うものだそうです。

 その魔法陣に魔力を注ぐことで、人は魔法という不思議現象を引き起こすことができるとのこと。

 初級魔法は魔法陣の起動に必要な魔力量が少ない故に、無意識のうちに注いだ魔力で勝手に発動してしまうそうです。


 今まで何となく詠唱していましたが、そういう理由があるとは。

 言われてみれば、俺は魔法の使い方を知っていても仕組みについてはあまり詳しくありません。

 車の乗り方を知っていても、その構造に詳しくないようなものでしょうか。

 とても勉強になりますね。


 ここで疑問に思ったのは、俺が意識して魔力を注がずとも下級魔法や超級魔法を使えたことです。

 本来、初級魔法以外の魔法はそうしないと不発に終わるらしいのですが、俺は普通に発動しました。

 これは推測ですが、俺に無限の魔力があるせいでしょう。

 初級魔法と同じように意識せずとも発動に必要な魔力が注がれるため、下級魔法や超級魔法を使えたのかもしれません。

 改めてディアベルの魔力の凄まじさが分かりますね。


 しかし、まだ分からないことがあります。

 俺は半壊した王都を修復する時、時間操作の魔法を使いました。

 あの魔法は詠唱をせず、完全にイメージだけで発動させた魔法です。

 自分のやっていることですが、呪文の詠唱や魔法陣の仕組みについて知った後だとどうやって発動したのか不明です。


 俺は分からないことは素直に聞く派なので、ルネに訊ねてみました。

 すると、ルネは「は?」と分かりやすく顔をしかめました。



「王子様、もしかして原初魔法オリジナルが使えるの?」


原初魔法オリジナル?」


「えっと、呪文の詠唱で魔法陣を生成せずに、魔力と想像力だけで無理やり発動する原始的な魔法、みたいな。どこでそんなものを学んだの?」


「王城の地下書庫にあった古い魔導書に書いてあったことを実践しただけですが」


「それ、もしかして大昔のめちゃくちゃ貴重な魔導書なんじゃ……」



 どうやら俺が使った時間操作の魔法は、原理も何もかもが不明な未知のものだったようです。

 しかし、原理が分からなくとも使えるものは使えます。


 そういうものだと思っておきましょう。



「ま、まあ、とにかく。魔法の威力を上げたいなら呪文の詠唱で生成した魔法陣に沢山魔力を注げばいいってコト。魔力操作はそのための必須技能だから、絶対に習得しろよ」


「……ふむ。では逆に魔法の威力を下げるにはどうすればいいのでしょうか?」


「は? うーん、まあ、魔法陣に注ぐ魔力を最小限にすればいいんじゃない? わざわざそんなことする意味、ないと思うけど」


「なるほどなるほど……」



 魔法陣に注ぎ込む魔力を減らせば威力が落ちるのは道理でしょう。

 俺は早速ルネから教わった知識を元に、魔法の威力を抑えられないか試すことに。

 初級魔法の『灯火トーチ』の呪文を詠唱し、出現した魔法陣に注がれる魔力量を、魔法が発動するかしないかの限界まで抑えてみました。



「――灯火トーチ



 ピチュン!!


 次の瞬間、まるでビームを撃ったかのような軽快な音と共に教室の壁にバランスボール程度の大きさの穴が空きました。

 やはり俺とディアベルの魔力の相性がいいからか、火力は相当なものでしたが……。

 今までの灯火トーチより遥かに威力が抑えられています。



「あ、え? は? 何、今の……? 初級魔法?」


「ええ、初級魔法の『灯火トーチ』です。威力を十分の一くらいに抑えられました。ルネのお陰ですね」


「じゅ、十分の一!? 今ので!? ていうか僕の知ってる初級魔法じゃないんだけど!?」



 俺の魔法を見たルネは何かに気付いたようにハッとしました。



「も、もしかしてだけどさ。いや、あるわけないと思うけどさ。昨日、空にいきなり現れていきなり消えた巨大な魔法陣って……」


「ええ、あれは俺が使おうとして途中でキャンセルした超級魔法の『核炎コアフレイム』ですが」


「……パイセンって呼ばせてもらいます」


「え?」



 その日、俺に先輩で後輩な同輩ができました。






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

ルネ

自他共に認める超絶可愛い男の娘だが、とても性格が悪い。あまりの可愛さから幼い頃に男性からも女性からも襲われそうになった経験があり、性格の悪さは人間不信によるもの。本来はかなり面倒見がよくて情に厚い性格。それはそれとして権力者やお金、圧倒的な力を持つ存在には媚びへつらうのでやっぱり性格が終わってる。人をからかいすぎてストーカーが十六人いるが、本人はずぼらな性格なので全く気付いていない。腰の少し上の背骨が性感帯。


性悪な男の娘に暗い過去っていいよね、と思ったら★★★ください。



「男の娘かよ……!!」「迷いなく下手に出てくるの草」「あとがきで笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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