第7話 変態的な格好の学園長はかつての魔法の先生でした
「が、学園長!?」
「……学園長?」
野生の痴幼女の正体はマギルーク王国魔法学園の学園長だったようです。
人を見た目で判断するのはよくないですね。
そうです、もしかしたら何か理由があってローブの下にマイクロビキニという変態的な格好をしているのかも知れません。
自分の考えを改めて再び学園長の方を見ると、学園長もまた俺の方を見ていました。
そして、学園長は可愛らしく首を傾げて男性教師に声をかけます。
「んん? なんでジオルグ王子がいるんだい?」
「え? ジ、ジオルグ王子? この者は編入試験を受けに来た平民では……」
「君は何を言っているの、ラザール。この方はマギルーク王国の第二王子、ジオルグ・フォン・マギルーク王子だよ」
「俺のことをご存知なのですね」
国王から学園長の方に話は行っていると思うので知っていて当然かと思いますが、今のは俺の顔を見て気付いたようでした。
俺は今まで全く公の場に出ておらず、平民にすら顔を知られていないはずなのですが……。
正直、びっくりてす。
「むふふ、忘れるわけがないよ。ジオルグ王子が小さい頃に魔法を教えたのはお姉さんだからねぇ」
そこまで言われてから思い出しました。
俺がまだ幼い頃、魔法が全く使えなくて困っていたところに国王が一人の魔法使いを雇って寄越したのです。
その魔法使いはたしかローブの下に裸同然の格好をした変わった人だったと記憶しています。
そして、俺の身体に魔力がない故に魔法が使えないことを解明した人物でした。
「お姉さん?」
「おっと。どう見てもお姉さんには見えないと思っただろうけど、君よりずっと年上だよ? 昔も話したけど、忘れちゃったかな?」
「……いえ、覚えています」
俺に魔力がないことが判明するまで、彼女は根気よく魔法を教えてくれました。
魔法を好きになったのも、使いたいと思ったのも彼女の影響が少なからずあると思います。
ただ一つ、どうしても目の前の痴幼女に謝らねばならないことがあります。
名前を忘れてしまったのです。
かと言って名前を聞いたら忘れていると気付かれてしまいます。
こうなったら仕方ありません。
こちらから改めて自己紹介して、向こうにも名乗ってもらいましょう。
「では改めてご挨拶を。ジオルグ・フォン・マギルークと申します。これからお世話になります」
すると、おそらく学園長は俺が名前をド忘れしてしまっていることに気付いたのでしょう。
くすっと笑い、その格好からは想像できないほど優雅な一礼をしました。
ギャップが凄まじいですね。
「私は賢者の弟子、アルシエル・グリモワール。虹の魔女とも呼ばれております。改めて、ジオルグ王子にご挨拶申し上げます」
「よろしくお願いします、グリモワール先生」
「堅苦しいねぇ、気軽にアルシエルでいいよ。じゃ、お姉さんはジオルグ王子の案内をするから、ラザールは編入試験を受けに来た子を迎えに行ってあげてね」
「は、はっ!! 承知しました!!」
「ああ、あと王子に無礼な態度を取ったから反省文千枚を明日までに書いてね。書けなかったらお給金を八割カットするから」
「は、はい、学園長!! ……え、千枚を明日までに!? 書けなかったら八割カット!?」
学園長改め、アルシエルの厳しい罰にラザールは顔を青くしていた。
俺が身分を明かしていたらラザールはあそこまで無礼な態度を取らなかったでしょう。
そこは流石に可哀想だったので、アルシエルに事情を説明したところ……。
「気にしなくていいよぉ。ラザールは仕事もきっちりこなすし、悪い子じゃないけど、選民思想が強いからたまにはああやって絞らないと」
「なるほど、それもそうですね」
たしかに平民だと思って相手を見下していたラザールが悪いのです。
俺が気を遣ってあげる必要など微塵もないので、俺も気にしないことにしました。
「ところで、さっきの魔法はジオルグ王子が放ったのかな?」
「はい、そうです。ご迷惑をおかけました」
「いやいや、いいよいいよぉ。生徒は先生に迷惑をかけて然るものだからねぇ。……そっか。そっかそっか。さっきの魔法は本当にジオルグ王子が……」
前を歩いていたアルシエルがふとこちらに振り向いて、可憐に微笑みました。
格好が格好でなければドキッとしていたかもしれません。
何事かと思って首を傾げていると、学園長は俺の方に近づいてきて、背伸びしながら頭を優しく撫でてきました。
「どうやって魔力を得たのかは分からないけど、よかったねぇ。魔法が大好きだった君に魔法を使わせてあげられなかったことが、ここ百年でお姉さんの唯一の心残りだったんだ。本当によかった。お姉さんがよしよししてあげるねぇ」
「……俺が魔法を好きになった、使えるようになりたいと思ったのは、アルシエル先生のお陰ですよ」
「そう言われると先生冥利に尽きるねぇ」
穏やかな会話が続き、アルシエルは俺に学園を案内してくれました。
各教室や食堂、その他にも魔法生物の飼育小屋や図書館を見学することができました。
「じゃあここまでで何か質問はあるかな?」
「はい」
「はい、ジオルグ君」
「どうしてアルシエル先生は痴女のような格好をしていらっしゃるのでしょうか?」
「むふふ、いい質問だねぇ。これは肌面積を広くすることで効率的に大気中の魔力を吸収するために着てるんだよ」
アルシエルはどこか自慢気に言いました。
大気中に微少な魔力が含まれているというのは、魔法使いの常識です。
どうやらアルシエルのローブの下にマイクロビキニという変態的な格好は、その魔力を効率的に吸収するためだったようです。
ボソッと「半分は趣味だけどねぇ」と言ったような気がしましたが、王国随一の魔法使いに限って変態的な嗜好があるとは思えないので気のせいでしょう。
「他に質問は?」
「はい。俺はどのクラスに入るのでしょうか?」
案内してもらったクラスは全部で三つです。
まずは三級クラス。
ラザールが言っていたように、魔法学園に入る貴族はすでに下級魔法を習得しています。
しかし、同じ貴族でも男爵と公爵では雇った家庭教師の質が違うため、その習熟度に大きな差異が出てしまいます。
三級クラスではそういう基礎が疎かな生徒を一から鍛え直し、魔力操作のコツを教えてより完璧に初級魔法と下級魔法を扱えるようにさせるそうです。
次に二級クラス。
やることは三級クラスと打って変わって、中級魔法の習得と魔力操作の応用を教えるそうです。
魔法学園に在籍する生徒の半分近くがこの二級クラスに在籍しており、魔法の研究に進みたい生徒が多いのだとか。
最後に一級クラスです。
上級魔法の習得と魔法を用いた戦闘技術を叩き込むためのクラスで、将来騎士団に入りたい者が多く在籍しています。
特別な試験を受けないと入れないクラスらしく、その在籍人数はわずか二桁だとか。
要するにエリートの中のエリートですね。
どのクラスにも興味はありますが、俺は魔力を手に入れたばかりでロクに扱うことができません。
そういう意味では、初歩の初歩を叩き込む三級クラスに入りたいところですが……。
「あ。言ってなかったけど、君はお姉さんの受け持ちのクラスだよ」
「アルシエル先生の? ということは……」
「そ、君は特級クラスだよ」
驚きです。
「ラザール先生が魔法学園の生徒たちは皆特別クラス入りを目指していると言っていましたが、いきなり俺がそこに入ってもいいのでしょうか?」
「そりゃあ、初級魔法で王都を半壊させちゃった挙げ句、既存の魔法理論では不可能な時間の操作もしちゃうような子に下手なことは教えられないからねぇ」
「……」
俺は思わず言葉を詰まらせました。
ディアベルが封印された禁書を燃やし、無限の魔力を手にした夜。
たしかに俺は初級魔法を使い、うっかり王都を半壊させてしまいました。
しかし、時間そのものを巻き戻してなかったことにしたので誰もそのことを知らないはずです。
流石は魔法学園の学園長と言うべきでしょうか。
「……学園生活がとても楽しくなりそうです」
「それはいいことだねぇ。じゃ、早速お姉さんのクラスに行ってみようか。生徒は君以外に一人しかいないけど、いい子だからすぐ仲良くなると思うよ」
「楽しみですね」
俺はアルシエルの後ろに続いて、特級クラスの教室へ向かいました。
……それにしても、何か大事なものを忘れている気がします。
まあ、忘れてしまうほどのことなので、きっと大したものではないでしょう。
◆
一方その頃。
魔法学園のとある教室、使い魔を預けておくための部屋にて一匹の邪竜が静かに窓の外を眺めていた。
「……早く帰って、夕方の教育番組が見たいのだがな。もう編入試験は終わったはずだが、ジオルグはいつ我を迎えに来るのだろうか……」
ジオルグがディアベルのことを思い出して迎えに来たのは、その日の夕方だった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
アルシエル・グリモワール
三百年の時を生きる魔女。齢十歳にして不老の魔法を習得した天才であり、各地を転々としながら魔法の研究をしていた。ある時、国王の命令で魔法を使えないジオルグに魔法を教えることになり、全く魔法が使えないことに興味を持って研究した結果、魔力がないことを突き止めた。教育方針は『来る者拒まず、去る者逃がさず』。実は魔法を平民でも使える世の中になるよう画策しているが、不老なので気長に計画を進行している。ちょっと露出癖がある。
ディアベルが忘れられてて草、と思ったら★★★ください。
「八割カットはえぐい」「ディアベル忘れられてて草」「来る者拒まず、去る者逃がさずで笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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