第4話 死にゲー廃人、地下遺跡を出る
「なるほど。じゃあ、さっさと外に出てみるか」
「レッツゴーですにゃ!」
ふさふさの尻尾を揺らしながら、ミーミは先に進めと促す。
「とりあえず装備を全部脱いで……」
「にゃにゃ!? なんで急に装備を脱いでるにゃ!? ナギ様は実は変態さんなのにゃ!?」
俺が装備を外し始めるとミーミは目を丸くして驚いた。
別にそれほど驚くことでもないだろう。
「こんな布切れ、装備してたところで変わらないだろ?」
「それはナギ様がボロ装備の流浪人を選んだからで……」
「なんか言ったか?」
「な、何も言ってないですにゃ! それでも着ないよりはマシだと思うにゃん!」
確かにステータスを見てみれば耐久力が13から6まで落ちている。
けど別に俺にはそんなこと些細なことでしかない。
「ミーミ。このゲームは重量によって動きやすさが変わるよな?」
「変わるけどそれがどうしたにゃ?」
最近のフルダイブ型のゲームでは大体取り入れられている重量の法則。
軽いほど動きやすく、回避などの無敵時間が延長される。
「なら俺は忍耐力より回避力を優先する。出来るだけ動きやすい装備にするのが俺のスタンスだからな」
死にゲーをこれまで何千時間とやってきて、色々な装備を試してきた。
ゴリゴリに重い装備を全身に装備した重量装備や、一切装備をつけない裸装備。
そして最終的にたどり着いた結論はこうだ。
――攻撃なんて食らわなければよくね?
そのため俺は重量の軽い軽装備にすることが多かった。
そうすれば体も動かしやすく、無駄にステータスポイントを振る必要もない。
「なるほど……でも不死の開拓者様から見ても、この世界の住人から見ても、今のナギ様の姿はかなりヤバイにゃ」
「やばいって……」
ミーミに冷たい視線で見られた俺は自分自身に視線を移す。
するとそこには現実の自分の顔をした真っ裸の変態の姿が映った。
下半身のある場所にはモザイク処理がかかっているが、それでも感想は変わらない。
これまではソロで誰にも反応されることなかったため、感覚が麻痺していたのだろう。
確かにこれは通報されてもおかしくない姿だ。
「……じゃあズボンだけ履いとくよ」
俺は仕方なく脚だけ装備する。上半身は裸でも問題ないだろう。
するとミーミはどこか引いているような表情で俺に言ってくる。
「早く、ナギ様が軽くていい装備を見つけれるようミーミも頑張るにゃ……」
「お、おう……」
ゲーム内でこんな反応をされたのは初めてだったため俺もぎこちない返事をする。
これまでは一人だったから良かったが、これはMMOだ。
うん、身なりも少しは気をつけよう。
「ってことで気を取り直して出発にゃ!」
「おおぉー」
それから俺はミーミに基本操作を教わりながら地下遺跡を進んでいった。
道中でスライムやスケルトンなどのモンスターも現れたが、当然、チュートリアルなので苦戦することなく指示通り討伐した。
そしてしばらく地下遺跡を歩いていると。
「あれ、ここは行き止まりか?」
俺は正面に壁のある行き止まりの場所についてしまった。
「少し前の分かれ道で左を行くのが正解だったにゃ」
「こっちには何もないのか?」
「見た感じ何もなさそうにゃんね」
ミーミの言う通り周囲には特にこれといったギミックや抜け道はなさそうだった。
アイテムが周囲にある様子もない。
先ほどの分かれ道でハズレの方を引いてしまったのだろう。
ただ、念には念をだ。
「おらっ!」
俺は木の棒を勢いよく正面の壁にたたきつけた。
カコンッと乾いた音が地下遺跡に鳴り響く。
「にゃ!? 急に壁を殴ってどうしたにゃ!?」
「いや、道があるかなって」
「エクリプスはそんなバグみたいな仕様ないにゃ!? 壁殴ったら実は道があるなんてどんな鬼畜ゲーにゃ!? 初見で分かるはずないにゃ!?」
「まぁ普通はそう思うよな……」
これまで遊んできた死にゲーには幻の壁などという触れたら消える壁が何度も出てきた。
そのためこどうしても怪しい壁を見ると殴ってしまうのだ。
それから再び地下遺跡を進んでいると、道の奥に古びた鉄の扉が見えた。
扉を開いて中に入ってみると、そこは小さな円形の部屋になっており、中央には錆びついたエレベーターのような台座があった。
「これで上に行くのか?」
「そうにゃ! チュートリアルを終えたプレイヤーを外に送り出す遺跡の昇降機にゃ!」
俺はさっそく乗り込み、中央の台座の上に乗ると、台座がボタンのように踏み込まれ、重厚な音を立てながら昇降機が上昇していく。
やがて眩しい光が差し込み、昇降機が地上に到着した。
俺は外に出るなり振り返り、再び一瞬だけ台座の上に乗って昇降機を下の地下遺跡へと戻す。
そんな俺の様子を見ていたミーミは素っ頓狂な声を上げていた。
「にゃ!? なんでわざわざ戻すにゃ!?」
「いや、次に死んだとき、すぐここから上がって来られるだろ?」
「にゃにゃにゃっ!? 死ぬ前提で動いてるのナギ様だけにゃ! しかもエクリプスのエレベーターは勝手に元の位置に戻る仕様だから、その操作いらないにゃ!」
「マジかよ……」
どうやら俺の死にゲー脳はまだ抜けきれていないらしい。
そんな小さなやり取りを終えて、改めて目の前に広がる景色へ視線を向ける。
「これは……」
――圧倒された。
地上に出た瞬間、漆黒の夜空が視界いっぱいに広がった。
空には満天の星が瞬き、けれど太陽の欠けた残滓のように赤黒い光を放つ月が、世界を不気味に照らしている。
まるで欠けた太陽がそのまま夜空へ堕ちてしまったかのようだった。
平原には青白い月光が降り注ぎ、小川は鏡のように夜空を映していた。
遠くに見える巨大な山脈は星明かりに照らされて輪郭だけを浮かび上がらせている。
それは現実では到底見られない、幻想的で美しい光景だった。
「……すげぇ」
自然とそんな言葉が漏れる。
心臓が高鳴る。
未知の世界に足を踏み入れた冒険者として、ここから自分の物語が始まるんだという実感がこみあげてくる。
「ん? あれは……」
そんな感じで夜の景色を堪能していると、少し離れた丘の上に一人の人影を見つけた。
頭上にはプレイヤーネームの表記がないため、どうやらNPCのようだ。
死にゲーに限らず、どのゲームにも共通するあるある。最初にいろいろと教えてくれる初めてのNPCってやつだろう。
「とりあえず話しかけてみよっと」
俺は夜風に揺れる草を踏み分けながら、しっかりと木の棒を握り締めてNPCのもとへと向かったのだった。
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