「畏まりました。それでは殿下、ごきげんよう」


『国始まって以来の淑女』といわれる皇太子の母親でもある王妃から、直接教えていただいたカテーシーをする。


美しいカテーシーをするために毎日筋トレをしている私の身体は出るところは出て、しまるところは引き締まったまさに美ボディだ。

その身体の全て、指先から頭の先にまで意識を向けるて、美しい姿勢をとる。

こんな時にも関わらず、周囲からどのように見えているかを計算しつくした立ち振る舞いをし、貴族たちに男爵令嬢との差を見せつける。

いや、むしろこんな時だからこそ、これでもかという程美しく見せてやろうと思った。


貴族たちから憧憬の溜め息が漏れる。


幼い頃から妃教育をされてきたこの私と、ぶりぶりぶりっこの男爵令嬢の差をとくと見るがいい。


前を向き、皇太子に微笑みを浮かべた。


皇太子が私に見とれ、ポカンと口を開けていた。真横にいる男爵令嬢の舌打ちには気が付かないようだ。

貴族なら、ましてや皇太子と結婚したいと思っているのならここまで聞こえるような舌打ちなど下賤な行為はするべきではないが、

それすら身に着けていない男爵令嬢にその座を奪われたことにいら立った。

もちろんそんな気配は微塵も見せないが。


Aラインの大きく膨らんだ光沢のあるシルクのドレスを翻し、皇太子に背中を向けた。


髪をアップにしたことによってよく見える細くて長い首筋。

ドレスの開いた背中から見える引き締まった背筋と、適度に筋肉のある肩甲骨は、

「同姓から見ても美しい」

と支度をしてくれた侍女たちに褒められた。


背筋を伸ばし、ゆっくりと出口に向かって進んでいく。


皇太子に捨てられた惨めな姿では絶対にあってはならない。

むしろ、皇太子に後悔させ、周囲の貴族たちに婚約破棄を・・・いや、皇太子の浅慮を問題視させるくらいさせてやる。


その時、

「侯爵令嬢殿」

声を掛けられた。

視線を移すと、そこには王太子の側近でもある公爵様がいた。

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