彼は女性たちから人気のある美男子の公爵家の嫡男だ。


「お手をどうぞ」

と差し出された手に、

「ありがとうございます」

と言って微笑み、公爵様に手に掌を重ねた。


「ほぉ・・・」

「美しい・・・」

会場にいた紳士淑女たちから再び溜息が漏れた。



「皇太子様!見ました?今の顔!」

「へ?」

男爵令嬢が背後で騒いでいる声が聞こえた。

「私たちを馬鹿にするような顔で笑いましたよ!」

「な、何!?」


いいえ。しておりません。


「それに婚約破棄されたばかりなのに公爵様と手を繋いで、はしたないですわ!!」

「お、おお。確かにそうだ」


ええーーーー?

ただのエスコートじゃない!?

そのような言い方は、さすがにエスコートしてくださった公爵様に申し訳ないわ。


私は立ち止まって、横に立つ公爵様を見上げた。

「公爵様、ありがとうございました。ここからは一人で歩けますわ」

と困ったように微笑んで、重ねた手を離し・・・・離そうとしたが、公爵様がキュッと手を握って話してくださらなかった。


「公爵様?」

小首を傾げる。


「男たちと手を繋ぐことはあっても、エスコートを知らないような者の言葉など聞くに足りません。

このまま私に美しく誇り高き姿のあなたをエスコートさせていただきたい」

と、会場中によく響く声でおっしゃった。

男爵令嬢の金切り声が響いた。


あ~あ、いつもしていたぶりぶりぶりっ子が跡形もなく消えていくような悲鳴だ。全くもって残念なことだ。

私を出し抜くならそれなりの気品を持っていただきたいものだわ。


心を声を微塵も見せない表情のまま、

「ありがとうございます。ですが、よろしいのですか?」

と問う。


「もちろん。

あなたのエスコートができるなんて、これほど名誉なことはありませんよ」

「うふふふ。それでは、お願いいたします」

そう言って再び歩き始めた。


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