六話 今度は負けない
「アウルさん下がってください! ここはわたしが何とかします!」
踏み込み、ココアは感覚的に魔法を理解する。詠唱はイメージを膨らませるのに最適だ。ココアが『勝つ自分』をイメージすればするほど、強い魔法をイメージできる。だから、
「──顕現せよ、《氷剣》!」
あの時痛い思いをした分まで、ココアはモンスターにやり返してやりたい。そんな思いで、ココアは手のひらから魔力を放出させ、氷の剣へと変貌させる。
「ココアちゃん、僕の魔法で魔物の殺人衝動は抑えてあるけど、それでも魔物の本質は変わらない! 油断したら、酷い目に遭う!」
「承知しています! 前回、本当に酷かったので!」
今思えば、アウルは何回かブローチを触媒に魔法を使っていた。ココアがモンスターに痛めつけられているのを見て、それを何とかしようとしてくれていたのだ。自分が魔法を使ってみて初めてわかるけれど、これは完全にひとりで戦う時に強い。人質が取られている状態ではそれを巻き込む可能性が非常に高いのだ。
「アウルさん、アウルさんはなんの魔法が使えますか!?」
叫びながら、ココアは氷剣でモンスターの腕を切り落とす。不快な叫び声が耳を突くが、前回ほどの脅威は感じられない。きっと、目の前の存在は『得体の知れないもの』から『モンスター』と名のつくものに変わったからだろう。
「僕の魔法は戦闘向きじゃないんだ! それに、夜しか魔法が使えない!」
「それは……すごく、大変ですね! わたしが必ず護ってみせますよ!」
「ありがとう! でも、気をつけて!」
「はい!」
足に魔力を纏い、モンスターに重い一撃をお見舞いすれば、喉が潰れたような声が漏れ、触手を乱雑に振り回してくる。
が、所詮モンスターには人間ほどの賢さはない。前に見た動きと同じだ。その上、ココアには抵抗する手段がある。前と同じにはならない。
「は──ぁっ!」
氷剣を触手に刺し、残った片手に魔力を集中させる。詠唱を省略すると少しだけ威力が落ちるが、時間稼ぎくらいなら簡単に出来る。脅威となりうる爪をへし折り、攻撃力を削ぐ。
「よし、これで攻撃手段は減ったはずです。あとは──」
モンスターから少しだけ距離を取り、両手に魔力を集中させる。頭の中でイメージを膨らませて、詠唱を考える。
「──凍て爆ぜろ、《アイス・ダイナマイト》!」
言い終わり、ココアは膨張寸前の魔力をモンスターに思いっきりぶつける。白と青の光が交差し、モンスターの悲鳴が氷の亀裂音に紛れて聞こえた。氷によって身動きが取れず、凍傷に蝕まれるモンスターに、ココアは最後の一撃で引導を渡す。
「──えいっ!」
モンスターの心臓に向かって氷の破片を投げる。魔力で補佐をしているココアの腕力と無詠唱とはいえ風魔法で威力を増したその破片は、しっかりとモンスターの心臓を貫き──、
「────────!!!」
「きゃっ、うるさいっ」
禍々しい怨嗟の声と共に、そのおぞましい命に終わりをつけたのだった。
「──一応、確認」
モンスターの亡骸に駆け寄れば、光の粒子へと変わっていくのが見える。
「何これ……」
「ココアちゃん、大丈夫? 怪我は──」
「ありませんよ! あと、アウルさん、これは?」
「ああ、そうか……うん、魔物を倒したし、ちょっと長いけど、魔法についての説明をするね」
「はい!」
本当は道中でアウルはココアにその説明をしようとしていたのだが、ココアが突っ走った上にアウルは使えない時間帯に無理して魔法を使っていたため、完全に頭からすっぽ抜けていたのだ。
「えっと、まず、魔力っていうのは全ての生物の魂から漏れ出す光の粒子のことなんだ。大地にも空にも水にも夜空にもそれは満ちてて、それを呼吸のように取り込んで魔法に変える──もちろん、魔法の強さは本人の適性と想像力によるものなんだけど」
「光の粒子……なら、このモンスターから出ているのもそれですか?」
「うん。死んだ時に魂の中から大量の魔力が放出されるんだ。この国では、『神からお借りした魔力を神にお返しする』なんて言い方をするけど」
少しづつ噛み砕いて説明してくれるアウルに感謝しながら、ココアは頷く。つまりは、魔力はそこら中にあって、死んだ時に魂からそれが出ていくのだ。
「前に話してくれた、穢れた魔力も、ここに関係しますか?」
「うん。魔法は要するに魔力の塊なんだ。触媒を通じてそれを出しているなら、然るべき処理をしないと魔力が穢れ、滞る。ここら辺の説明は難しいから、ふわっと分かっていたらいいよ」
「──うん、何となくわかりました!」
つまり、排気ガスみたいなものだ。そう思おう。うん。
「それで、穢れた魔力は魔物を産む。そして、魔物は魔力の高いものを狙う。この話はしたよね?」
「はい! 何となく理解しました!」
「次は魔法についてかな。基本的に、想像力が豊かな人ほど魔法も強い。詠唱とイメージ、それから触媒が揃えば魔法が成立する」
「でもわたし、詠唱なしでも魔法使えました」
「普通はあんなに無詠唱で強い魔法は出せないんだよ。魔力がバラバラになって、弱い魔法しか使えなくなるんだけど……」
「何ででしょう……?」
イメージは確かにしっかりとしていた。
が、無詠唱でもそこまで問題なく魔法を出せていた。もちろん、詠唱ありの方が上手くイメージできて強い魔法が出せたが。
「うーん……君の場合は触媒も手のひら──体かな? みたいだし……他の魔法使いとは少し違うね」
多分、ココアが違うのは元々猫だったことと、異世界転生したことが理由だろう。だが、さすがのアウルでもそれを言われたら戸惑うだろうし、下手なことは言えない。
「ほ、他に魔法についての知識知りたいです!」
「? そうだね、まあ、大体はさっきの続きになるんだけど」
アウルはローブに付けていたブローチを取り、こちらに見せる。
「詠唱とイメージは魔法を安定させるためのもの。触媒は、魂とイメージを繋ぐためのものなんだ。杖、指輪──色んな触媒があるね」
ココアはそれが手のひらや体になっているということだそうだ。極論、イメージと魔力のゴリ押しで何とかなりそう。
「魔法の系統は前に話したかな? 他に話すことは特にないかな……話すとキリがないからね」
「なるほど……何となくわかりました!」
「うん、よろしい。じゃあこの先は──」
立ち上がり、アウルはココアに手を伸ばす。
「脅威は消え去ったし、君の探し人を探そうか」
「──! はいっ!」
満面の笑みでココアは立ち上がる。きっと、カオルを見つけてみせると。
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