義姉災来襲、猥雑労働②
3
三回ヤった。静香のこと、玲奈さんにいつも通りお預けを食らったことと、色々と溜め込むことが重なって、紫音とのセックスは簡単には終わらせなかった。ベッドの中で、僕に触れられてよがる紫音を見て、また欲情が募り、ということを繰り返していたら、気付けば朝の四時になっていた。情事を終え、シャワーを浴びる元気もなく、うとうとする紫音の肌に触れながら、セックス中は考えなくて良かった静香のことを思い出した。そのことに、げんなりする。全く、女の子を相手にしながら他の女のことを考えるなんて最悪だ。
玲奈さんの家から紫音に電話をかけて待ち合わせ場所に向かい、待ち合わせの時間になっても、紫音からは連絡が返ってこなかった時は、当てが外れたかと思って大きく溜息をつき、諦めて帰ろうと思っていた。ところに彼女が現れた時は、自然に笑みが溢れた。はじめのうちは目がかなり泳いでいたし、来るかどうか直前まで迷っていたのかもしれない。大学のこともあるし、流石に家には一度帰らないとまずいのだが、女の子との待合せは速攻が信条のボクだが、静香と顔を合わせることだけは意地でも先延ばしにしたかった。
「あの、この間は、どうも」
ボクの誘導に従って助手席に座った紫音はオドオドとしながら、ボクの顔を見ずに頭を下げた。服は体のラインがわかりづらいワンピースで、髪の毛も後ろで止めているくらい。だいぶ気弱なタイプか。うーん、と紫音の様子を隅々まで観察しつつ、ボクは首を捻った。
「その服、可愛いね」
「え、あ」
紫音は窓の外に目を向けながら、自分の髪を弄った。
「お気に入りなんです」
「そっか、それは嬉しいな」
「嬉しい?」
「会ってくれるのに、ちゃんと選んでくれたってことでしょ」
今後の付き合いは考えるとしても、彼女の可愛らしい丸顔はかなり好みだった。何より、流石にもう夜も遅くなる。彼女を逃してしまうと、今日はもうすぐ誘える子が思いつかない。行きつけのバーとか、飲み友達と会うことも考えたが、ここまで来たなら突っ走る方向に思考をシフトした。
──というわけで、ボクは彼女と話し合って近くの映画館でレイトショー上映をしている映画を観て、それから今夜のことを考えるつもりで劇場に向かった。元々、紫音がサブスクで映画を観ていたところを誘ったのだし、何か観たい映画があればチケット代は奢るからを映画館に行こうと伝えたら、首を縦に振ってくれたからだ。車は劇場近くのコインパーキングに置かせてもらった。アルコールを飲みたかったからだ。紫音もボクも鑑賞中の飲み物にビールを頼み、シアターに向かった。最近話題の劇場版アニメだった。映画を見終わった後、テレビシリーズを見直したいとボクが話すと、紫音が小さな声で「それなら、あたしの家で」と言ってくれたので、ボクは嬉しさを最大限に示す笑顔を作り、コンビニによってお酒を買ってから、彼女の家にお邪魔した。それからお酒を飲みながらテレビシリーズの最初の何話を観て、ボクは彼女の体に手を伸ばした。
「この間みたいにしても?」
抵抗しない紫音に尋ねると、彼女は顔を真っ赤にして頷いた。良かったとボクはホッと一息ついた。このままアニメ鑑賞が続いたらどうしようかと思っていたところだ。ボクはそのまま紫音に玲奈さんにしたのと同じようなマッサージを丹念に施して唇に吸い付き、そのまま一緒に裸になって布団の上に彼女を押し倒した。
ボクも多分にして、紫音と観た作品のテレビシリーズはしっかり視聴している。だからアニメ鑑賞が続くなら、それはそれでも良かった。このまま観ても一夜じゃ全話観れないし、次に紫音に会うための布石にもなる。ボクは話題の作品には出来るだけ目を通す主義だ。女の子との話題に困らない。というのもあるがボク自身、女の子と会う時間以外は映画を観たり、本を読むことはそれなりに好きだ。大学でも文芸サークルに所属している。他のサークルにも女の子目当てで兼属しているが、文芸サークルの方は飲み会の幹事をやったり、サークル誌に自分でも文章を載せてもいる。そこまでしたのはボクとしては珍しく、それなりに本気でモノにしようと狙っていた女が文芸サークルに所属していたからだ。ただ、彼女はボクの先輩で既に大学を卒業しており、それに今は結婚までしていることをボクは知っている。
──クソッ。また嫌なことを思い出したな。
「ねえ、どこか触ってほしいところ……」
ボクは紫音の首筋を舐めるのを止めて彼女の顔を見る。紫音は目をつぶってだらしなく口を開けていた。眠ったか。ボクは紫音の頭を枕に乗せてやり、身体を毛布でくるむ。それから、コンビニで買ったものの、まだ開けていなかった缶チューハイのタブを開けて、中身をぐいっと喉に通した。
ボクが狙っていたのは、文芸サークルの副部長をやっていた女だった。結局、彼女とは一度もヤれていない。ボクだって、狙った女の子全員とヤるわけじゃない。当然、紫音みたいに思惑通りベッドで脱がせて、セックスをするまでの仲になる方が少数だ。
「結婚……」
正直なところ、ボクにその二文字は全くと言って良いほどピンと来ない。まだ二十代も半ば。考えている方が少数派か。ボクの場合、まだまだ遊びたい子が多すぎるて、一人に絞るようなことはあまり想像できない。それでもたまに、本当にごく稀にだが、この人であれば、他の女の子と遊ぶのは止めても良いかもしれないと思えることがある。文芸サークルの副部長がそうだった。
──けれど、そんな女に限って、ボクは手を出すことができないまま、誰かのモノになってしまう。
静香もそうだった。高校入学と同時に付き合い始めたボクと静香は、ちゃんと互いに惹かれ合う仲だったと思う。ただ、彼女にとってボクはそこまで大事な相手でも、生涯を共にするに相応しい相手でもなかったらしいと今となってら推察するけれど。
「太陽、昇ってきてんなあ」
ボクはカーテンの隙間から漏れてくる光の筋を見て、ぽつりとつぶやいた。ベッドの上では、紫音が気持ち良さそうに眠っている。ボクと体を重ね合って、それで満足してくれているというのであれば嬉しいことだ。ボクはスマホのメッセージアプリを開く。今日は一日、静香からの通知が表示されないように設定で切っていたので、彼女からメッセージが来ても気付かない。ただ、彼女のことだから何か
「嘉納、静香」
その名前の響きに、ボクはまだ慣れない。静香が結婚してもう、三年以上経つと言うのに。そういえば、静香の夫の方はどうしたんだ。妻が義弟の家に転がり込んできたことについて、何も言ってこないのか。ボクは彼の連絡先を知らない。だから、彼に事情を聞きたいのであれば結局、静香と話す他ないのだ。
「くっそダリい」
ボクは思わず舌打ちをして、悪態を吐く。こういう時、タバコでも吸えたら気が紛れたんだろうか。昔は挑戦してみようと思ったこともあったけれど、周りを見ていても若い女の子にはウケが悪いことが多いし、タバコに金をかけるくらいなら女の子に飯でも奢った方が有意義だ。静香と話すくらいなら、夫と話して事情を把握できるならその方が良かったのに。ただ、静香程ではないとは言え、ボクは彼のこともあまり得意じゃない。尊敬する大人の一人として参考にさせてもらっている静香の実兄とは違う。ああ、和希なら嘉納家の連絡先を知ってるか。じゃあ、和希に電話して──。いや、それもそれで嫌だな。
「しばらく起きそうにないよな、この子」
ボクは紫音の年齢を思い出そうとする。大学生と言っていたから、ボクと同年代だ。いや、酒の席で聞いた年齢なんて信用するもんじゃないけれど。紫音との最初のセックスの際も、ボクは誰とも付き合う気はないと話していた。そんなことは言っても、女の子は執着する。だから、言ったところで無意味なことも多いのだが、これはあくまでボクの中のケジメだ。
「んー、午前中の講義はブッチするか?」
ボクが言ってもあまり説得力はないのは自覚しているが、ボクは割と真面目な大学生だ。もう三年の春、後数ヶ月で所属研究室を決めて、卒論にも手をつけなくちゃいけないが、ここまで単位を落としたことはないし、ゼミでの評価もまあまあ高い。できることなら、講義は休みたくないというのが正直なところではあるが。
「……いや、やっぱ大学にはちゃんと行くか」
少しでも、静香が原因で大学に行く気になれなかったなんて言い訳をしたくない。ボクは重い腰を上げて、ベッドの周りに散らばった服を拾って身につける。それからコンビニで酒やつまみと一緒に買った卵とウインナー、それにパンを手にして、無断で台所を借りる。生活空間が侵されることを嫌がる女の子もいるけど、大抵の子は許してくれるものだ。ボクはフライパンを探して火にかけて、フライパンの上に卵を落とす。菜箸で卵をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。焦げ付きがなく、卵もこびりつかない。部屋が整っているのを見た時も思ったが、紫音は生活空間は綺麗にしておくタイプだろう。フライパンも良い物を使ってる。トースターがあったのでパンも焼き、良い具合に焦げ目のついたスクランブルエッグと焼いたウインナーを挟んで冷蔵庫にあったケチャップとマヨネーズをかけ、軽く手で押し付ける。今日みたいに、ボクや女の子が疲れてしまって寝てしまった時に作る簡単な朝ごはんメニューの一つだ。基本的に、朝ごはんは作っておいた方が良い。次に顔を合わせた時に嫌がっていそうなら止めるが。
「紫音ちゃん? 紫音ちゃーん」
作り終えたウインナーエッグトーストをラップに包み、適当なお皿に乗せて、ボクは紫音をもう一度起こしに行った。
「うー」
紫音は目を瞑って体をモゾモゾと動かした後、布団を顔に被ってしまった。寝起きは良くない方らしい。
「ボク、もう帰るからさ。トースト焼いたから、良かったら食べて。ここ置いとく」
言ってボクは朝食を乗せた皿をチェストの上に置く。それから紫音の耳元に口を寄せた。
「じゃあ、またね」
紫音の耳元でそう囁く。紫音はより深く布団を被った。拒絶というより、羞恥かな、これは。ボクは自分の荷物をまとめて、紫音の家を後にした。昨日車を停めたコインパーキングに小走りで向かう。朝のジョギングは日課だ。忙しい時も、こういうところでノルマをこなすことにしている。ボクは車に乗り込んで、エンジンをかけようとして、手を止めた。今は意識もはっきりしてるけど、流石に仮眠しとくか。もうちょっと紫音のベッドで横になっていても良かったかな、と少しだけ後悔しつつ運転席のリクライニングレバーを握る。スマホのタイマーを20分にセット。助手席のグローブボックスからアイマスクを取り出して装着する。ボクは頭を座席の背もたれにあずけ、そのまま浅い眠りについた。
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