義姉災来襲、猥雑労働①
1
「それで結局、家帰ってないんだ」
「まあ、はい」
ボクはスポーティなインナー姿でマットレスにうつ伏せになる
「金元には絶対にお姉さんいるとは思ってたけど、なるほどね」
「なるほどってなんすか、それ」
玲奈さんには、自分には歳の離れた実姉と歳の近い義姉がいること、その義姉が急に連絡をしてきて、家に泊めるよう言ってきたので、自分には行く場所がないんだというようなことを言った。
「玲奈さん、この家の部屋貸してくださいよ」
「仕事中は社長って呼べー。今週は無理。人呼ぶ予定あるから」
「そっすか」
玲奈さんは、個人事業主として海外雑貨のバイヤーをやっている。自宅がそのまま仕事場で、概ねリモートで取引先とのやり取りをして、それ以外にも株式投資はもちろん、Webデザイン会社の仲介など、手広くやっている実業家。都内の三回建てのこの家も、二十代のうちに現金で支払って建てたそうだ。そんなバイタリティ溢れる玲奈さんは、仕事以外の身の回りの世話は全て外注しており、ボクは週2で玲奈さんの自宅兼仕事場を訪れて、バイトとして彼女の飼っている猫の世話なども含めた雑用をやらせてもらっている。リモート会議で疲れた玲奈さんの身体を隅々までマッサージするのも、ボクの仕事だ。
「あン、そこ良い」
「ここですか?」
両手を重ねて腰の凹んだ部分を押したのがちょうど気持ちの良かったらしい。ボクは力を込めて、自分の体重を乗せて玲奈さんの身体を押す。
「あー、そうそう。そこだ。いやー、金元はマッサージも上手いよな」
「そしたら、今夜はどうです?」
「明日早いから却下。めげないね、君も」
「玲奈さんの身体、好きですから」
「社長な?」
ボクの懇意にしている女性の中では珍しく、玲奈さんとは片手で数えるくらいしかセックスをしていない。玲奈さんの、歳下男子の扱いが一枚上手というか、雑務もマッサージも「バイトだ」と一線を引いているから、こちらからプライベートに持ち込みにくい。とは言え、こうして彼女の身体を揉みしだいて気持ちよくする、よがらせることには成功しているのであり、ボクとしてはそれも悪くないと思っている。
「脚の付け根の部分もいきますよ」
「頼むー」
玲奈さんが間の抜けた調子で両脚を開く。ボクは玲奈さんの股関節の辺りに腕を入れて、彼女の腿を力強く押していく。
「はー、気持ち良い」
玲奈さんの脱力した声が、吐息と共に漏れた。このまま性感マッサージもいきたいところだが、玲奈さんの気分でない以上、女性器周りには手を出さない──。
「──こっちもいきます?」
ボクはうつ伏せの玲奈さんのお腹の辺りに手を滑り込ませて、下腹部を撫でた。提案するのはこちらの自由だ。
「んー、そうだなー。まあ、今日はもう後、特に人と話すような仕事もないし」
玲奈さんはむくりと身体を持ち上げて、膝立ちになる。それから火照った悪戯な顔でボクを流し目で見て、ボクの体に背中から寄りかかる。
「お願い、しようか」
「──喜んで」
良かった。ボクも玲奈さんのスケジュールはちゃんと確認している。タイミングを間違えると、「お前がヤりたいならお前が金を出すのが筋だろ。それとも減給か?」などと言われる始末だ。玲奈さんと初めてセックスをしたのは、大学の先輩に連れていってもらったパーティで彼女と知り合って、酔った彼女の介抱を買って出てホテルに行った時だが、その時を除いて、玲奈さんはボクとの関係をあくまでビジネスとして割り切っている。彼女がその気なら、ボクも雑用もこなす男娼役を引き受けるだけだ。それに、玲奈さんのところでのバイト代は他の女の子と遊ぶ際にかなり足しになっているのもかなりありがたい。
「それじゃあ、いきますよ」
ボクは玲奈さんの背中を指先でつうとなぞり、彼女の身につけているスポーツブラを脱がせる。彼女の弾けるような胸が露わになった。毎週ジム通いをしている玲奈さんの身体は、肩から脚まで全身が引き締まっていて格好いい。己の稼ぎで全身脱毛をしている彼女の肌は、普段隠している部分も含めて吸い付くように柔らかい。
「いつも通り、ゆっくりです」
ボクは両手を使って彼女を抱きしめるような形で、彼女の首筋から胸にかけての肌を指先でなぞる。触るか触らないかくらいの距離。玲奈さんが、荒く息を吐く。肺が持ち上がるのに合わせて、ボクの指も振動する。
「さっきのと同じように、入念に、やりますから」
今度は指を肌に沈ませる。充分な時間をかけ、そうやって声をかけながら、ボクは彼女の胸の肉をほぐしていく。
「……頼む」
「もちろん」
玲奈さんの合図に合わせて、彼女の柔肌につうと指先を這わせた。そうして彼女の身体がビクリと跳ねるのを確認して、片手で彼女の胸を弄りながら、判断側の手でショーツの方にも手をかける。玲奈さんは腰を上げてボクがショーツを脱がしやすいようにする。ショーツを腿の辺りまで脱がせると、そこから先は玲奈さんが自分で脚を動かして器用に脚を下着から外していき、マットレスの外に蹴り捨てた。何も身につけていない、白い素肌だけになった彼女を見て、ボクもシャツを脱ぐ。玲奈さんもボクも、ここまでの執拗なスキンシップで、全身汗で濡れていて、二人の汗の匂いがツンと鼻を刺激した。
「そろそろ、激しくします」
ボクは玲奈さんの耳元で囁き、脇の下から手を潜り込ませて、身体を密着させながら両手で彼女を弄った。玲奈さんの息も更に乱れていく。玲奈さんの背中が反り上がり、身体がビクビクと震えた。──ここでまず一区切り。
「社長。次はどこ、行きます?」
ボクは玲奈さんの耳元で囁き続ける。そのまま、また彼女の体に指を這わせると、玲奈さんは首をこちらに向けた。ボクは近づいてくる彼女と唇を合わせる。その間もボクは決して手を休ませず、彼女の望むまま彼女に触れた──。
2
「今日も挿れなくて良いんですか」
マッサージを終えて、熱いコーヒーを淹れて玲奈さんに渡す時に、ボクは尋ねた。玲奈さんは裸のままマットレスの上で胡座をかいた姿勢でコーヒーを受け取る。
「お前の指と舌で充分」
玲奈さんは大きく欠伸をして、コーヒーを啜った。
「そもそもセックスに対価出すのは違法だ。そっちは間に合ってるから良い。ん? したい?」
「いえ。玲奈さんが気持ち良ければ、ボクは満足なので」
しまったな。ボクは失言を軽く撤回した。下手したら、また減給を言い渡される流れだ。普段だったらもっと気をつけるのに、と玲奈さんに聞こえないよう、ボクは小さく唸った。
「社長な。えっと、ちょっと待て」
玲奈さんはコーヒーを床に置いてゆっくりと立ち上がると、仕事用のデスクまで歩いていき、引き出しを開ける。そして中から封筒を取り出して、中を確認すると、大きく伸びをしながらボクに近づき、封筒を差し出した。
「ほい」
「ありがとうございます」
ボクは小さく頭を下げてから玲奈さんから封筒を受け取り、中身を確認する。今日の分を含めたバイト代だ。一万円札が十枚入っている。ボクは封筒を玲奈さんの方に掲げてから、改めて頭を下げた。
「助かります。玲奈さん──いえ社長、さっきの話なんですが、泊めてもらっても?」
「ダメだと言っとろうが」
玲奈さんはピシャリとボクの頭を平手で弱めに叩いた。
「姉さんに顔見せてやれよ」
「そうするしかないですかね……」
ボクは思わず溜息をつく。ああもう、玲奈さんの前では気をつけていたのに。玲奈さんも、そんなボクの異様さに気づいたのか、愉快そうに鼻で笑った。
「どうした? 稀代の遊び人、金元もお姉さんには頭が上がらんか」
「そういうことで良いですよ」
ボクは玲奈さんが脱ぎ捨てた下着を拾って、彼女に差し出したが、玲奈さんは首を横に振った。
「良い。このままシャワーするから」
「そうですか」
「金元、先入ってて良いぞ」
「んじゃ、お言葉に甘えて」
ボクはまた玲奈さんに頭を下げて、浴室に向かった。この家の三階にある玲奈さん家の浴室は大理石で装飾されていて、ガラス張りの壁で外が一望できる。あの風呂を好きに使えるのは、美人女社長の雑用係としての特権だ。ただ、あそこを借りた場合、休日に風呂掃除をするのも、ボクの役目なのだが。
「はあ」
脱衣所で下着を脱いで、ボクは蛇口を捻ってシャワーを全身に浴びた。自分の家の風呂と違って、シャワーはすぐに適温に整えられて身体に当たる。ボクは自分の男性器を見下ろす。玲奈さんの身体を弄っていた時には勃っていたそれも、今はしゅんと下を向いている。──とは言え、射精欲はある。今だと、誰に連絡したら良いかな、とボクは真琴と祐実の顔を思い浮かべた。いや、あの二人はボクから連絡しなくても向こうから会いたい時は言ってくる。昨日会ったばかりだし、こちらから自分と会う機会を安売りすることはない。ああ、そういえば──。
ボクは汗を洗い流した後、身体を拭いて脱衣所の棚の中にある服を手に取る。シャツや下着など、何枚か自分の服はここに置かせてもらっている。というか、玲奈さんが「楽だろ?」と勝手に買ってきた。他の女の子なら「気持ちだけ受け取っておくよ」とでも言うところだが、玲奈さん相手の場合はこの手の施しは積極的に受けることにしている。他の女の子の場合はプレゼントは借りになってしまうが、玲奈さんの場合は逆に受け取らないと借りになるからな──。
「社長ー、出ましたよー」
「おー、仕事終わってるし今は玲奈さんで良いぞー」
玲奈さんは服も着ないまま、ハイボールを片手にスマホでYouTubeを観ていた。……自由だな。この辺り、静香とも似たところがあるかもしれないなんて思う。
「で、結局どうすんの?」
「とりあえず別の女の子のところに」
「帰れよアホ」
玲奈さんはくつくつとした笑い声をあげる。それからスマホの電源を切ってボクに投げた。充電しておけ、ということだろう。
「じゃあ金元はもう帰っていいから」
「髪乾かしてからにします」
「好きにしろー」
玲奈さんはまた大きく欠伸をして、ハイボールをボクに手渡した。
「残ったの飲んで良いぞ」
「車なんで無理です」
「あ、そういやそうか。んじゃ、捨てといて」
玲奈さんは恥じらう様子もなく、素っ裸のまま階段を上がっていく。ここまでいつものことだ。上階に消えていく玲奈さんを見送り、スマホの充電とハイボールの片付けをしてから、リビングにあるドライヤーを借りて髪の毛を乾かす。ドライヤーを起動させながら、ボクは自分のスマホを鞄の中から取り出した。
「えっと、あの子名前なんだっけ」
ボクは連絡先からこの間、行きつけの店で知り合った女の子の番号を開く。彼女がバーのカラオケで歌った曲のチョイスがボク好みで、印象に残ったのを覚えている。うん、そうだ、
「もしもし? 紫音ちゃん?」
──急に会いたくなった、なんて軽い言葉を口にして、ボクは彼女の予定を聞く。家で何もせずにただダラダラと映画やアニメを観ていた、なんて話をするので、自分も行って良いか尋ねる。紫音は少し悩むように唸った。
「また、この間みたいにさ?」
「……わかった」
ボクがそう言うと掠れた声で返事をして、ボクのスマホが震える。紫音から、自宅近くのものと思しき駅の位置情報が送られてきた。ここなら30分かけずに行けるな。
「じゃあ、先行って待ってるから」
ボクはそれだけ言って、紫音との通話を切る。よし、大丈夫。いつもの調子が戻ってきた。ボクは玲奈さんのスマホに「上がります」と連絡を送ってから、玄関の外に出る。オートロックの扉がガチャリと閉まる音を聞いてから、ボクはガレージの車に乗り込み、紫音から送られてきた駅に向かって車を走らせた。
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