3-9.襲撃のはずが···?

 翌日、オレが西城地区の襲撃を準備···、と言っても武器じゃなくてエロ本をかき集めてるだけだが、事態は急展開を迎えた!



「署長、王城から招集がかかりました」


「···は?スタイア、どういう事?」


「どういう事もなにも、言った通りですが?もう耳が遠くなったのですか?」


「そういう事じゃねえよ!状況わかってんだろ?敵からお呼びがかかったってことだぞ?」


「そうですね。チャンスでしょう」


「へ?チャンスって?」


「直接王の首チョンパできますよ」


「物騒な事言うんじゃねえよ!?しねえよ!?」


「そうですか。歴史上、クーデターが発生したら前の王は公開処刑されてますから、署長もやるものだと」


「やらんわ!まぁ、状況にもよるがな···」



 いったいどういうつもりだよ?王国軍は今やうちの地区に落ちたというのもあるけど、その情報は少なからず城に行ってるはずだ。


 言い換えれば王城内を守護する親衛隊以外は敵になっちまってんだよ。そのうえでオレを城に呼ぶなんて、自殺行為に等しいぞ···?


 でも、確かにスタイアの言う通りチャンスでもある。首都全域を手中に収めて王城をリアルに『四面楚歌』状態にしてやるつもりだったけど、手間が省けそうだな。···せっかく歌う曲も考えてたのに、そっちはパァになったわ。



「とりあえず行くか。スタイアはここにいろ」


「いいえ、ついていきますよ」


「死ぬかもしれんぞ?」


「その時は署長を盾にしますから」


「ヒデェ!」



 コイツの行動はよくわからん···。死ぬかもしれん場所へ行くってのにオレを守るためかと思えばコレだよ···。


 そして税務署の裏に来ていた迎えは、いつもの2人だった。



「おっ!?行くんだな?道中襲われるだろうと思って楽しみにしていた・・・・・・・・のに、なにもなくて拍子抜けだったぜ!はっはっは!」


「今回は城へのクレイジーな行程かと思ったら税務署行きがクレイジーとは思わなかったですよ〜!久々にスリルあって楽しかったですよ!」


「···おたくら、タフだなぁ〜」



 城側からすれば今のうちは無法地帯の超危険地帯だからな。そんなところに迎えで来てくれるなんて、この2人だけだわな。軍馬もクレイジーなヤツだし···。



 馬車はいつもよりも速度を落としてゆっくり城に向かっていた。どうも、襲撃を期待・・・・・してる雰囲気だった···。それも承知しているこの軍馬も大概だわ···。



「クーデターが起きたと聞いて、相当荒れてると思ってたが、普段と変わらねえな〜」


「この地区としちゃ、城の馬車なんて敵のはずなんですけどねぇ〜」


「まぁ、王国軍がオレたちに下っただけだからな。今反撃に出ても痛い目見るのは確定だしなぁ〜」


「そうそう!どうやって少ない手勢で王国軍を掌握したんだ?無血開城らしいって聞いてるぞ?」


「作戦がうまくいって大将を降伏させただけだ。抵抗もなかったしな」


「だとしても、こんなあっさりと陥落するような軍とは思えなかったんだがなぁ〜。あんたにできるんだったら、オレがカチコミしたらどうなってただろうなぁ〜!?はっはっは!」


「真正面からやったら多勢に無勢だぞ?うちはいろいろハメただけだしな。城も軍の状況はわかってんだろ?」


「もちろん!最近たるんどるとは聞いてたしなぁ〜。いくら予算が削減されてヒーヒー言ってるとは言え、体力つけたり武術を極めようというのはそこまで金はかからん。装備に頼りすぎとるとは思っておったからな。いい薬になったのではないか?」


「結構内情知ってるんだな?」


「そりゃ、オレは元王国軍大佐だったしな!」


「···は?」



 ···え?この護衛のおっさん、王国軍トップだったの?そうしたら御者がこう言った。



「本当ですよ〜。私も元王国軍の参謀でしたしね〜。2人で親衛隊を倒してしまったから、スカウトされたんですよ〜」


「···マジっすか?」



 この護衛···、とんでもない連中だと思ったら、親衛隊倒したんかい!?



「ははは!懐かしいなぁ〜!まぁ、今は定年直前だからこういう仕事をやってるだけだ」


「とは言っても現役にはまだまだ負けませんよ〜!」


「ははは···」



 これ、今の状態でもヤバくね?もしかして処刑されてから城に入る事になるの?


 そんな疑問を抱いてる間に馬車は城に着いた。今回はそのまま正門まで行った。こっちは初めてだわ···。


 そして馬車を降りると、顔が青ざめたカインさんとあきれ顔のベスケッタさんがいた。



「コウさん···。とんでもない事しでかしましたね···?」


「まさかこんなだいそれた事やるとはなぁ〜」


「カインさん、ベスケッタさん?どうして?」


「私が案内役を申し付けられたからですよ···。王の間へ案内しますから」


「ワシは付き添いじゃ。坊やが次はなにをしでかすかをこの目で見ようと思ってな」


「はぁ···」



 ということで、4人で王の間へ向かう。


 いつもは城の行政区画で会議だのやってるので、こういった表側は来たことがなかった。


 そこそこ立派な内装だ。客人をもてなす場合はこういった場所へ案内して、国力の高さを見せつけて脅しや信用を得るためって聞いたことあるな。


 金を持ってない中小企業の社長が高級車を使ってるのも『金払いがいい』って見せつけて信用してもらうためって聞いたことあるぞ。


 そして道が1本道だ···。これも某マンガであったな。侵入者に対して挟み撃ちにして殲滅するためらしいんだよな···。今ならやられてもおかしくないはずだが、そんな雰囲気はまったくなかった。


 そして王の間へ着いた。



「コウさん、ここからはあなただけで行ってください。陛下がお待ちです」


「は、はぁ···」



 まさかこんなにあっさりと来ちゃうとは思わなかったなぁ〜。てっきり血で血を洗うような戦場の末にたどり着いた的な感じだと想定していたんだが···。


 そうして王の間の両開きの扉が開いた。赤じゅうたんが中央に敷かれて、段の低いひな壇の上にある玉座に···、金髪碧眼の『いかにも王だ!』って雰囲気のじいさんがいた。オレ自身も王様は初めて見たな···。


 まぁ、礼儀作法なんざ知らんから、失礼のない程度で接するとするか···。


 あれ···?おかしいぞ?よくあるお話だと、王様の近くには側近がいて、重装備の親衛隊も何人かいるもんだろ?王様以外は誰もいないって、どういう事だよ?



「ようやく来たな···。待っておったぞ」


「お初にお目にかかります。クーデター実行犯のコウと言います」


「ははは!堂々としとるの」


「オレをこうして呼ぶとは、どういったご用件ですか?見たところ、側近も近衛兵もおらず、人払いしてるようですけど?」


「その通りじゃ。さすがにこうしないといけない事情があったのでね」


「事情···?よくわかりませんけど?」


「コウ。お主はクーデターを起こして、王国軍を掌握した。その手腕は見事じゃ。そこでじゃ。わしに代わってこの国を治めてみないか?」



 ···は?王様が本気で譲位するの?それって某竜退治の3作目と同じじゃんか!?

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