3-2.大増税のウワサ

「それではただいまより税務署長会議を始めます。まずは前月の税収の報告ですね」



 カインさんが司会をしつつ、国からの通達や情報を口頭で伝え始めた。


 税収は毎月変動するが、順位の変動はない。月によって納税してもらう税金の種類が変わってるだけだ。


 通達は税金の値上げだ。先日西城地区で見かけた租税回避を狙い撃ちのような内容だな。



「行商人の数が減らなければ相当な金額になります。東西南北の各署では現金輸送に厳重に警戒して下さい」


「しかし、よく考えたものだなぁ〜。こんな方法で売上税を逃れるとは···」


「法なんてどうしてもザルにならざるを得ないわ。網目を細かくしても、誰も理解できないわよ」


「これについても対策されそうですよね。うちはなにかおかしな行動がないか、気をつけておきますよ」


「············」



 ベスケッタさんとマリアットさんが感想を述べたあとにオレも感想を言った。ダンマリをしてるのは西城イワイ署のフォロスさんだった。



「フォロス?どうしたのだ?」


「···いや」


「どちらかといえば、あなたの地区の税収が大幅に上がるわ。ワースト1脱出できるんじゃないかしら?」


「···だといいが」



 ベスケッタさんとマリアットさんが声をかけたが、フォロスさんは楽観してないようだった。


 気持ちはわかるぜ。おそらくすぐに対策されるだろう。一時的に税収が回復するだけだからな。



「さて、次の話ですが···。これは機密の高い話です。口外は厳禁とさせていただきたい」



 カインさんが神妙な顔と声色で話し始める。いったい何だろうか?



「実は、来年度からすべての税を大幅に上げたいという議題が上がっています···」


「···はぁ?いったい何に使うというのだ?」



 ベスケッタさんが呆れながらカインさんに問いただした。



「主に防衛費とのことです。今、各省庁から来年度予算の概算要求が出されているのですが、王国軍からの要求が大幅に上がってるのです」


「内容は?」


「武器防具の新調、そして外壁の拡張とのことです」


「拡張?まだ土地に余裕はあるのにか?」


「ええ。主に西城地区を広げる予定とのことでした」


「フォロス?お前さん、なにか知っとるか?」


「···いいや。初耳だ」


「どういう意図が軍にあるのだ···?」



 税金大幅値上げねぇ~。本当に必要なのか?壁の拡張なんて大規模工事だ。やる根拠が見えねえけどな···。


 それに西城地区だと?あそこって壁の外にスラムあるじゃん。···スラムを取り込むってか?



「カインさん?それって、壁の外のスラムが国内になっちゃいますけど?王国民として迎え入れるって事です?」


「いや、そんな話は聞いてないです。でも···、確かにそうなりますね···」


「ちょっと意図がわからん状態だと、みんな納得しないと思うんですけどねぇ〜。決定権はうちらにはないですけど、希望だけ言っておきますよ」


「そうですね。私自身も意見を言える立場ではありません。ですが、もし増税となった場合にその矢面に立つのは皆さんですからね。とりあえず心構えだけしておいて下さい」



 そのほかの議題はなかったので、これでお開きとなった。さて帰ろうかな?と思い席を立つと、ベスケッタさんから声がかかった。



「坊や。ちょっといいかの?」


「ベスケッタさん?なにか?」


「ちょいと坊やに聞きたいことがあったのでな」


「いいですよ」



 会議が終わったその部屋で、オレはベスケッタさんと話をすることになった。



「悪いの〜」


「いえ。聞きたいことって?」


「坊や、どうやってスラムを懐柔させたんだい?」


「···は?」


「とぼけんでもいいぞ。ちょいと調べさせてもらったんでな。ここ最近税収が大幅に上がったのは、スラムからの納税だとな」


「あ〜。簡単に言えば仕事を斡旋しただけですよ?」


「それだけか?」


「ええ。まぁ人材派遣会社を形式上設立してもらって、アドバイス・・・・・をしてる程度しか関与してませんよ」


「それにしちゃとんでもねえよなぁ~。スラムって言ったら犯罪の温床だぞ?それが品行方正なヤツになってるってどういうことだよ?まるで生まれ変わったみたいじゃないか?」


「それをオレに言われてもねぇ~。人材派遣会社の手腕がすごいんじゃないんですかね?それに犯罪の温床って、犯罪しないと食うに困るからがほとんどですよ。自分の力で食えるってわかれば自信にもつながるんじゃないです?」


「まぁその通りだな。···気をつけろよ?」


「へ···?スラムがですか?」


「そうじゃない。スラムに対してよく思ってない連中・・・・・・・・・にだ」


「え?どういうことです?」


「犯罪があれば悪と断じていろいろと動きやすくなる。ところが犯罪がなければそういった連中は身動きが取りづらくなる。合法で・・・暴力を振るえなくなるってことだ。そういった連中に逆恨みされる可能性が出てくるぞ?」


「あ~、そういうことですね。わかりました。肝に銘じておきますよ」



 ベスケッタさんの話はあり得る話だな。王国軍も憲兵も、何かと理由をつけてスラムを敵視していたからな。先日は事故で・・・引き揚げてもらったけど、税務署うちに対してもいい感情がないんだろうなぁ~。


 連中、敵がいなかったら存在意義を失うって考えてそうだ。力を持ってしまうと振るいたくなってしまうのが人間ってやつだ。だからこそ敵対する組織が必要なんだろうなぁ~。


 その敵対する組織が更生しちゃったものだから、振るう先がない。だから今度は国を悪役に仕立て上げてクーデターを起こして力を振るいたいんだろう。


 どんどんきな臭くなってきたなぁ~。

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