3-3.スタンピードが来た!?
カンカンカン!カンカンカン!
···なんだよ?こんな夜明け前に避難警報···?
この国ではこうやって鐘の音で市民に情報を伝達している。連続で鐘が鳴るのは緊急事態って事だそうだ。
だいたいが魔獣絡みだな。もしかして、門を突破されたのか?
とりあえず着替えて非常用持ち出しリュックを背負って指定避難場所へ向かった。
準備いいって?そりゃクーデターが起こるかも?って事で事前に準備してたからな。署員のみんなにも準備しておくよう指示しておいたし。
そして避難場所に着くと、結構着のみ着のままの市民が多かった。オレみたいに準備してたのはほんのわずかだったな。
「署長」
「スタイア。みんなは?」
「集まってますが、あと数人ですね」
「よし。ところでなにがあったか知ってるか?」
「どうもスタンピードのようですね」
「···マジかよ?」
スタンピード···。ゲームでもよく聞く用語だ。魔獣が大集団を形成して一気に襲いかかってくるというものだ。まるで土石流のように町をあっという間に飲み込んでしまうというものだ。
ゲームなら集団で討伐するか逃げるイベントなんだが、こうしてリアルにやられると恐怖を感じるな···。
先日西城地区の行商人から聞いたウワサは本当だったってわけか。完全にフラグだったなぁ〜。
しかし情報が少ないなぁ〜。この世界だと情報伝達速度が非常に遅いから、今どうなってるかがさっぱりわからんのよね。元の世界のように情報化社会じゃねえからなぁ〜。
でも、スタイアはどこで情報を仕入れたんだ?
「おい、スタイア。それってどこ情報よ?」
「王国軍からです。ここの避難場所にいる者が大声で言ってましたよ」
「ほかの情報源ってある?」
「いいえ」
「そっか〜。ベクトさんは避難してきてる?」
「いますけど、なにさせる気ですか?」
「いや、ちょっと壁の様子を···」
「今は非常時ですが?業務外の事はさせないでください。家族も一緒なんですから」
「それもそうだな···」
さすがに興味本位で部下を危険には
そして、夜が明けた···。
周囲が明るくなってきた。ぼちぼち冬が近くなってきたから朝はちょっと冷え込むんだ。着のみ着のままの市民たちは震えていたな。避難場所なのに屋外だし、せめて屋根あって毛布ぐらいは用意しとけよ?オレらは羽織るものも一応用意してたけどな。
壁の方を見ると、あちこちで煙が上がっていた。激しい戦闘が行われてるのだろうか?
避難場所の横を重装備の王国軍が慌ただしく通り過ぎていった。増援がほかの地区から来てくれてるんだろう。
これはもはや戦争だ。
相手は人じゃねえけどな。これが···、この世界での脅威なんだ。
こういう状況をリアルに見ると、防衛費を大幅に上げたいってのはわかるぜ。こういった兵士たちが文字通り命がけで守ってくれてるってことがわかるからな。
うちの署員は全員安否確認が完了した。全員無事だったのでよかったよ。最後に避難してきたのはヴェロッタだった。予想通り道に迷って憲兵に連れてこられてたよ。って、なんで両手とも手をつないでるんだよ?まるで捕まえられた宇宙人のような感じになってるぞ?
さて···、朝になったが食事はどうするんだ?炊き出しとかはあるのか?
「スタイア。避難ってしょっちゅうあるのか?」
「年に1度あるかないかですね」
「その時って炊き出しとかは?」
「ないですね」
「マジかよ···!?」
って事は、避難場所だけ用意したってことかよ!?トイレもねえし屋根もねえ。毛布も食事もねえってオレこんな避難所ヤダ〜!
生き抜いて帰ったら、にゃんこ亭でおいしい食事食べるんだ···。ビール付きでな···。あはは···。
そして昼になった···。
メシは出ねえからおなか空いてきたなぁ〜。一応非常食はみんな持ってるんだけど、今この場で食べるわけにはいかない。略奪されるからだ。
それだけみんな気が立ってきた。ロクに情報もないものだから、いつ帰れるのかの
そして夕方前になり···。
「スタンピードは何とか対処できました!しかし、町中にも魔獣が入り込んで暴れたため、多少の被害が出てます!ご了承いただきたい!今をもって避難命令は解除します!ただし、当面は魔獣処理のため、北門は封鎖します!」
やれやれ···。なんとかなったか。壁を突破されて国が滅ぶような事はなくて良かったぜ。
「みんなとりあえずお疲れさん。ゆっくり休んでくれ」
税務署チームも解散だ。今日1日仕事できなかったなぁ〜。
家に帰ってきた。さて、腹減ったし夕食にするか!
そして玄関に着くと、異状を発見した。
「···え?ドアノブが···?まさか!?」
そう、ドアノブがなかった···。いや、壊されていた!
中に入ると思いっきり荒らされていた!!
「やられた!火事場泥棒かよ!?」
とりあえず整理し始めると、ご近所さんからも『サイフがねえ!!』『大事にとっておいた指輪がぁ〜〜!?』『ワシのよそ行きのカツラがぁ!?』『メガネ〜!メガネ〜!(ゴンッ!)』『あたちのくまごろーのぬいぐるみが〜〜!!』
ご近所さんもやられたのかよ···。ってか、全員避難させといて憲兵は巡回してなかったのかよ!?大規模にやられてるじゃんか!?
翌日···。
うちは盗られたものは幸いにもなかった。サイフは持ってたし、大して金目のものはないからな。大事なエロ本もちゃんと残ってたし、荒らされた程度で済んだ。
ところが、税務署に着いたら···、
「署長!大変です!」
「どうしたの?タックさん?また新聞記事?」
「違いますよ!税金入れてた金庫が···、こじ開けられて···」
「ここもかよ!?」
税務署まで襲撃って···。これ単独犯じゃねえぞ!?明らかに組織的にやられたぞ!!
オレの署長室も荒らされていた···。重要書類はすべてカギのかかってる棚に入れてるから無事だったが、こじ開けようとしたキズがいっぱいついていた。
タックさんには憲兵を呼んでもらったけど、全員出動していてもぬけの殻だったらしい。そりゃこんなに大規模にやられたら手が足らんよなぁ〜。
とりあえずタックさんには金庫前は封鎖して証拠保全をするように伝え、みんなには通常業務をお願いしたんだが···。
「うちも入られちゃって···」
「うちもやられた!」
「クソッタレ!犯人見つけたら首を引きちぎってやる!ただじゃおかねえぞ!!」
全員やられてた···。ちなみに最後はポーストさんだ。ポーストさんなら首をひきちぎるなんて簡単にやっちゃいそうだからなおさら怖いわ···。
しかし、全員がやられたってどういう事だ?さすがに盗賊団にしては規模がデカ過ぎるぞ···?ちょっと国に救済策示してもらわんと、うちの地区がクーデター起こしかねんぞ?
「とりあえず今日は集金日だ。金庫破られてるから無一文で行くことになるが、なにか国が救済策を考えるように言ってみる」
「それは区役所の仕事ですよ?税務署の仕事ではないです」
「うちも役所の一つだ。税収取り戻すための策って言えばなんとかなるだろ?うちは言ってみれば国のサイフなんだ。サイフがないと一大事だろ?」
「確かにそうですが···」
「そんじゃあ行ってくる」
しかし、現実は非情だった!
「城北地区で大規模窃盗があったと聞いてますが、だからといって猶予や免除はできません」
「ちょっとカインさん!?いくらなんでもあんまりでしょう!?」
「王国内で生活する以上、納税義務が生じます。自然災害ならまだしも、窃盗で猶予や免除されるなら、皆さん喜んで盗賊とグルになるじゃないですか?」
「確かにそうですけど···」
「今回は税務署まで襲われてるとは、どういうセキュリティだったんです?」
「避難命令出たから施錠して出たんです!できるだけやってましたよ!」
「最近成績良かったのに、残念ですよ···」
「じゃあ、うちの地区の皆さんは···」
「救済などありません」
「それじゃあさらに治安悪化しますって!」
「王国軍や憲兵がいます。そのための軍ですから」
「···わかった」
「コウさん?変な気を起こさないでくださいよ?」
本気で変な気を起こしたくなってきた!救済策なしで自己責任だから問答無用で払え!だなんて狂ってやがる!
確かにカインさんの言う通りでもある。例外を認めたらそれを悪用してくるのは間違いない。
だからといってルールを厳格に運用しすぎると、想定外の事態に対処できん!だからこそ法律なんてのは結構グレーで書かれるんだ。
ルールってのは正しい知識と柔軟な運用で行われるべきものなんだ。って、そんなのは元の世界でも同じなんだけどな。
失意のまま税務署に戻ってきた。
国庫担当のカインさんはああいった見解だったけど、この国の税法で適用できそうな条文はないだろうか?解釈をこじつけて救済策は提案できないだろうか?
タックさんは法律に詳しいから相談してみるか!
そう思ったその時だった!
「犯人はスラムの連中だーー!!」
外から聞き捨てならない声が聞こえてきた!!
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