2-16.租税回避

「いらっしゃ〜い!」


「おぉ!?いいパンの香りだなぁ〜!」


「ありがとう〜!よかったらいっぱい買っていってね〜」


「そうさせてもらうぜ!」



 行商人の会話から聞いたパン屋さんにやってきた。もう店の外までパンの香りがしていたなぁ〜。これはおいしそうだろうな!


 というわけでおいしそうなパンをいろんな種類買ってみた。何の肉かわからないカツサンドなんかは昼食にはよさそうだな!



「ありがとうございました!ここらへんでは見ない方ですね〜」


「ああ。城北地区に住んでるんだよ」


「そんな遠いところから来てくれたんですか!?嬉しいです〜!」


「ははは!いや、近くまで来る用事があったんでな。その時にここのお店の話を小耳に挟んだんでな。それで来たってわけさ」


「そうなんですね!よければ城北地区でもいいウワサ広めて下さいね〜!」


「ああ!まぁ、ちょっと遠すぎるから期待はするなよ?」


「いえいえ!口コミって案外強いんですよ?回り回ってうちにお客さんが増えると思います!」


「さすがは商売上手だな〜!近くに来たらまた来るわ」


「はい!またのお越しをお待ちしてますね〜!」



 商魂たくましい子だったなぁ〜!そりゃ人気も出るわ。どれどれ〜?ハムッ!···んっ!?



「うまぁああーーい!!」



 なんだこの菓子パン!?元の世界でもこんなおいしいパン食ったことねえぞ!?小麦が元の世界と違うからか?農薬使ってないからなのか!?よくわからんが、うまいことには変わりないっ!!


 はい、信者が1人増えました。また来た時はここに来ようっと!



 さてと。今日はちょっと気になることがあったので壁の外に通じる門に行ってみよう。


 気になるってのは壁の外のスラムの事だ。話によればうちの国でスラムは国内ではうちの地区に1か所と壁の外にある。


 壁の外は主に国外からうちへ避難して来た人たちだが、着の身着のままでお金がなくて入国できないのだ。昨日話があったように入国税が大幅値上げだから、なおさら入れなくなってしまうな。


 でも、これは仕方ない。無制限に受け入れてしまえば国自体がもたないからな。


 というわけで門にやってきた。めっちゃ荷馬車と人いるわ···。まさに朝の通勤ラッシュみたいな混雑ぶりだ。


 ってか、こんなに行商人が隣の国からやって来てるのか?それにしては多すぎるぞ?こんなに行き交ってたらとんでもない入国税になっちまうけどな。これでなんで西城イワイ署はワーストなんだよ?よくわかんねえなぁ~。


 まぁいいか。とりあえず列に並んで外にちょっとだけ出てみよう。そしてスラムをちらっとだけ見たら中に戻ればいいか!



 1時間後···。



「お待たせしました!え~っと···、その格好で本当に外に出るんです?」



 やっとオレの番がやってきた···。窓口はいっぱいあるんだけどさ。荷馬車の積荷検査で時間がどうしてもかかってしまうからめっちゃ待たされたぞ···。まぁ元の世界の外国の空港の入国審査場でも時間かかるところあったけどさ···。


 そして審査官がオレの軽装を見てびっくりしていたな。そりゃ、ショルダーバック1個だけだもんな。怪しむのもわかるぜ。



「外に出るだけだ。ちょっと散歩してすぐに戻るからさ」


「外に出るったって、魔獣いるしスラムがあるから危険ですよ?すぐに金品巻き上げられるかもしれませんよ?一応注意しましたからね」


「ありがとな。通っていいか?」


「はい。本当に気をつけてくださいよ」



 というわけで外に出た。さすがに門の近くにはスラムはなかったが、少し離れた場所からテントっぽいのが見えた。


 ただ、思ってた以上に困窮はしてなさそうだぞ···?うちの地区みたいにボロボロって感じでもないな。誰かが支援してるのか···?そんな話は聞いたことねえけどな。



 オレは街道から離れた位置に立って様子を見ていたが、審査官が言うように襲われるような感じは一切なかった。話が違うけど、どういうことだ?


 一方の行商人たちは街道をちょっと進んだ先で荷馬車を停めていた。そこはちょっとした広場になっていて、多くの荷馬車が停まっている。


 なんですぐに出発せずにここにいるんだ?さっさと行かないと隣国に着くまでに夜になっちまうだろう?


 ちょっと気になったので様子を伺っていると···、荷馬車同士で荷物の受け渡しをやっていた。···ん?どういうことだ?そんなのは出発する前にやっとけば···!?


 そ、そうか!国の外だから売上税関係ないわ!!国際空港で出国審査を終えたら外国扱いで免税店だらけなのと一緒だ!


 さらに荷物を受け渡しを終えた荷馬車が今度は入国審査の列に戻っていった!さっき出国したばっかなのにもう入国している!



 ···そういう事か!謎は全て解けた!


 これは『租税回避』、いわゆるタックスヘイブンだ!



  『租税回避』とは、税法が定めていない行為を行って、合法的に税負担を軽減することを指す言葉だ。


 売上税は国内・・での売上に対して課税だ。だから壁の外では課税対象外だ。


 そして入国税は国外の人間が入国する際に発生する。王国民に対しては課税されない。余計な人間を入れないためだからだ。


 つまり国内で販売する品をいったん壁の外に出して行商人に販売する。この時点で売上税は課税されない。


 そして国外の行商人は国内の業者から買い取った商品を入国して売りさばく。入国税は一定金額だし関税は特に食料品だと無税だし、よほどの貴金属とかでないとかからない。一方で売り飛ばした国内の業者は王国民だから入国税がかからない。持ち込むお金に対しても課税がない。


 こうすることで、本来国内の業者が販売することによって得られるはずだった売上税は課税されることもなく、割安な入国税だけで販売できるから安くできるって事か···。元の世界でも免税店で購入した品を高く売り飛ばすなんて違法手段もあったな。


 となるとだ···。行商人は国外の商品と言ってるが、実際には国内の商品って可能性が非常に高いな。しかもちょっと割高ってことは···、行商人へのマージンとかいろいろ暴利をむさぼっていそうだわ···。もしかしたら、スラムがボロボロでないってのもこれが一枚噛んでそうだな。


 これは西城イワイ署だけではどうにもならんわ。こんなに大規模にやられてたら、本来取れるはずの税金が取れないもんな。しかも合法ときたもんだ···。わざわざ門からよく見える場所でこんな大それたことを堂々とやってる時点で合法的嫌がらせ・・・・・・・だわなぁ~。そりゃ入国税大幅値上げも理解できるわ。


 どこの世界にもルールの網の目を潜り抜けるヤツがいるもんだな···。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る