2-17.湖のほとりにあった喫茶店

 国の外で大規模な租税回避の状況を確認したのち、オレは入国審査の列に並んで入国した。


 西城イワイ署には悪いけど、合法である以上はオレではなんともできんからな。そもそも所轄違うし。国に働きかけてなんとかしてくれってしか言えんよ。


 さて、西城地区を昼前に出て次は南に向かった。


 城南地区はこの国の中枢部とも言える地区だ。王国の官公庁があるし、国の中で一番栄えている場所だ。当然税収はトップだ。


 西城地区も賑やかだったが、やはりこっちの方が発展具合がすごいな!道も石畳で整備されて荷馬車が4台横に並んでも問題ないほどゆったりとした広さがあった。


 あと、こっちが城の正門があるんだ。だから門の前は公園が整備されていて広々としていた。なにか催し物をやってるようだな?ちょっと見ていくか!


 そして催し物がやっているテントにやってきた。どうも演劇団のようだな。え〜っと、劇団名は···『ツーデン劇団』?


 へぇ〜。演劇なんて元の世界でもあんまり見たことないんだけどな。上演時間は···、夕方からか。先にチケット買って、宿を確保してから来るか!


 しかし、窓口っぽいところに人がいなかった。あれ?今日は休演かな?


 いや、そうではなかった。『完売御礼』の札がかかっていたんだ。


 どうやら遅かったようだ。まぁ確かに元の世界に比べてこの世界には娯楽が非常に少ない。


 そりゃ魔獣なんてヤツが国の外にウロウロしてやがるんだ。娯楽なんてのは生活に余裕がないとできないもんだからな。数少ない娯楽に人が集まるのは当然か。


 まぁ見れないものは仕方ない。さっそく宿へ向かうか!


 そうして公園近くの宿にやって来たのだが···。入口に『本日は満室です』の看板が···。


 もしかして、あの演劇目当ての客か?まぁ、ここだけじゃないだろうから、ほかを当たってみるか!



「今日は満室だよ」


「ここもか···。今日ってなにかあるのか?」


「どうも公園でやってる演劇目当てみたいだぞ?おれもよく知らんのだが、かなり質が高いらしくて、ファンが多いんだとさ。なかには隣国からやって来たのもいるらしいぞ」


「へぇ〜!そりゃすげえな〜」


「ほんと、熱烈だよなぁ〜!さすがに国の外までは行けないよなぁ〜」



 いわゆる追っかけだな。この世界にもいたんだなぁ〜。元の世界だとタカラ○カ歌劇団みたいだぞ。よっぽど裕福じゃないとそんな事できねえだろ?


 まぁ金持ちにはいっぱいお金を使ってもらうに越したことはない。でないと元の世界のように経済が回らんからな。


 しかし···、宿がないと厳しいぞ?ほかにも空いてる宿がないかを探してみると、どこもダメだった···。


 こりゃどうにもならんわ。とりあえずここにいてもどうしようもないな。帰るとするか!官公庁があるし、仕事で来ることもあるだろうから、その時にのんびりしたらいいしな。



 そうして夕暮れを過ぎて夜になった。当然街灯なんてのは存在しないから非常に暗い。一応魔法の明かりはあるんだけどな。


 夜にこうして町の外を歩くのは非常に危ない。盗賊がいるかもしれないしな。とりあえず城東地区までたどり着ければいいんだが···。


 今歩いているのは大きな湖のほとりだ。遊歩道が整備されているらしく、歩きやすいのは助かるな。しかし腹減ったぞ···。


 そう思っていると、湖の近くに家があった。近くに行くと、どうやら喫茶店のようだ。湖の近くにある喫茶店かぁ~。環境はいいんだろうけど、そんなに客は来そうにもないと思うんだけどな。


 通り過ぎようとしたその時だった。喫茶店の扉が開いた。



「おや?こんな夜更けに1人かい?」


「ん?オレの事か?」


「あんた以外にいないじゃろ?それとも···、見えない誰か・・・・・・がいるのかい?」


「怖い事言うなよ!?オレそういうの苦手なんだからぁ!」


「ははは!これは失礼した。で?どうしてこんな夜に人もいない場所に?」


「宿が満室でな。仕方ねえから城東地区まで行くんだよ」


「だったら道が違うぞ?この先に行っても湖をぐるっと回るだけだ」


「マジかよ!?」


「どうやら道中の案内看板を見落としたな?仕方ないの。うちで休んでいきなさい。寝床は用意できんが、地べたで寝るよりはマシだろう?」


「···いいのかよ?見ず知らずの人を中に入れて」


「ほっほっほ!ワシはこう見えても人を見る目があるんでなぁ。ワシを襲わないと確信しておるぞ」


「だから声かけたのかよ···。もしオレが襲ったらどうすんだよ?」


「その時はその時じゃな」


「まぁやらんけどな。お言葉に甘えさせてもらうぜ」



 まさか泊まらせてもらえるとは思わなかったな。中に入ると、テーブル席とカウンター席があった。30人くらいの小さい店内だな。


 適当に座ってると、さっきのじいさんが温かい飲み物を持ってきた。



「ほれ。ホットミルクだ。寝る前に飲んでおくといい」


「ありがとな。なんで声かけたんだよ?」


「こんな夜遅くにここに来るのはほとんどが入水自殺志願者じゃからな〜。朝起きて湖に遺体が浮かんでたら、気分滅入るじゃろ?」


「確かになぁ〜。でも盗賊とかだったらどうすんだよ?」


「その時は仕方ないの。こんな寂れた喫茶店なんぞに金などそんなにないけどのぉ〜。そんなわけで、人を見かけたらとりあえず話を聞いとるんじゃ」


「へぇ〜。なかなかできんぞ?そんな事」


「ほっほっほ!テーブルとイスは出ていく前に元に戻してくれたらいいのでな。ゆっくり休みなさい。ワシも2階で寝るでな」


「ありがとな!それじゃあ寝させてもらうわ」



 自殺ねぇ~。世界が変わっても人のやることは変わらんか···。いや、元の世界よりもセーフティネットないからなおさらハードだろうしなぁ〜。


 ここのじいさんはすごいな。ちゃんと人を見る目があったからこういった事ができるんだろう。オレにはムリな芸当だ。


 さてと···。イスを3個2列で6つ並べて横にならせてもらった。元の世界でも夜勤でこうやって職場で寝てたから慣れたもんだ···。



 翌日···。


 やっぱ身体が痛いわ···。ベッドじゃねえから仕方ねえけどな。


 じいさんはまだ起きてないようだ。起きたらあいさつして出発するか!


 使ったイスを片付けて、昨日買ったパンを食べてから感謝の意味を込めて掃除をしておいた。


 じいさん1人だけなのか、結構ホコリ溜まってたな。まぁこれだけきれいにしておいたら喜んでくれるだろうな!



 1時間以上経った。じいさんはまだ起きてこない。···どうしたんだ?なにかあったのか?


 気になったので、じいさんの居室がある2階へ上がった。階段は厨房の奥にあった。



「じいさん?起きてるか〜?世話になったな!これで失礼するぜ!」



 階段を上がったところの扉で大声で呼びかけた。しかし、へんじがない···?



「おーい、じいさん?居るんだろ?」



 ノブを回すとカギはかかっておらず、中に入れた。



「じいさん?」



 ダイニングはホコリまみれだった。明らかにここ最近誰も入った形跡がないぞ?


 そして···、寝室に行くと···、じいさんがいた。



「ちょ!?マジかよ···!?」



 じいさんはいた。白骨化した状態・・・・・・・で···。



「···じいさん。もしかして、あんたはこの状態であの世へ行こうとする人を説得してたのかよ···?」



 リアルに『へんじがない ただの しかばねのようだ』だった。



「じいさん···。ありがとな」



 オレは店の裏側の木の根元にちょっとした墓を作って埋葬しておいた。そして、店内を軽くではあるが清掃しておいた。


 後日聞いた話だと、じいさんはこの喫茶店の店主だったそうだ。奥さんと一緒で経営していたそうだが、ある日自殺志願者を発見した奥さんが止めようとしたら巻き添えを食って亡くなってしまったらしい。


 以降、じいさんは自殺志願者を説得するようになったそうだ。最近でも救われたって話があったそうで、死んでからもやってたんだな···。


 オレが供養してからはじいさんを見かけなくなったそうだ。もう十分やったから、あの世で奥さんと一緒になったのかもな。


 ホラー苦手なオレだったけど、今回は平気だったぜ。リアルに助けてもらったからな!


 ちなみにこの話を署のみんなにしたら、最も怖がったのはヴェロッタだった。


 勇猛果敢に見えても女性だったということか。


 そうそう、この喫茶店はその後に若い夫婦が買い取って近日中に営業を再開するそうだ。また近くを通ったら寄ってみるのもいいな。



   第2章    完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る