2-15.税収多いはずなのにワースト1?

 西城地区にやって来たオレは、宿の酒場で食事しつつ行商人たちの話に聞き耳立てて情報収集して部屋に戻ろうとしたら、オレの席の隣に泥酔した西城イワイ署のラスティとやらが来たんだ。


 どうもうちが税収上がった事で相対的に西城イワイ署がワースト1になったらしい。


 しかし、ここは結構賑わっている。店構えもうちの地区よりもしっかりしてるから、ちゃんと税金納めてると思うんだけどなぁ〜?



「ワースト1って言ったな?税務署って単語が出たけど、あんた税務署員なのか?」


「ひっく···。そうだよ」


「なにがワースト1なんだよ?」


「税収さ···。こんなに経済が回ってるってのに、スラムがあるところに負けてるんだぜ···。おかしいだろう!?」


「って事は、納めてない人が多いってこと?」


「そうだよ!」


「なんで納めないんだろうな?」


「国外行商人だよ!あいつら、店に卸すなら店から売上税取れるけど、路上販売やったら課税対象外だから税金払わずに国を出ちまうんだよ!」



 あぁ~、なるほどね〜!売上税は『売上金額に一定の率をかけた金額』が納める金額なんだよ。仕入れとか利益は関係ない。


 となると、利益出すためには支払う売上税もコストになるので、販売価格に上乗せだ。ここが元の世界の消費税と法人税とは異なっている。


 つまり、商品が生産者から消費者へ行くまでに業者を挟めば挟むほど売上税の税金が雪だるま式に増えるって事になる。国としては安く仕入れたいので、中間マージンをできるだけ排除して物価を安くする目的らしいぞ。


 ちなみに国外の行商人が売上税支払わないのは合法だ。とは言っても規模が大きいとかなりの影響が出てしまうな。そう考えると、入国税や関税をあげて代わりに取ってやる!って意思を感じるな。よく考えてるわ。


 今回は行商人が国の店を通さずに直接消費者とやりとりしている。すると、行商人は入国税と関税を払うだけで売上税は払わない。消費者としては安くものを買うことができるってわけだ。


 これってうちも関係あるよな?行商人をあんまり見かけないけど、いるとしたら取れるって事になる。


 ただ、だからといっていきなり税制無視して行商人から巻き上げるってのは無理になっちまうな。やっちゃったら行商人が寄り付かなくなる可能性がある。


 そうなるとトータルで考えたらマイナスになっちまうだろうなぁ〜。



「話はわかった。だが、現状の税制がそうだから静観するしかないよな」


「なんでだよ!?」


「まあまあ落ち着けって!税務署って税制上課税対象に対して税金を納めてもらうための役所なんだ。『あいつら儲かってるから!』って税制を変えてしまうと行商人が寄り付かなくなる可能性が高いし、いくら何でも乱暴すぎる。来なくなってしまった場合、うちの国でまかなえる品ならいいけど、まかなえないとなるとこの町の経済に多大な影響が出ちまうな」


「じゃあどうすんだよ!?」


「オレはこの地区に初めて来たんだけどさ。路上販売って許可とかいるのか?」


「そんなもんはねえよ。あいつら荷馬車を適当なところに停めてその場で商売始めるのさ」


「それって道の通行の邪魔じゃね?」


「人気高いところは荷馬車通れねえよ」


「んじゃあ、市場やればいいんじゃね?」


「へっ?市場?」


「そう、市場。税制いじると大変だから路上販売を国にお願いして禁止にして、その代わりに行商人が売買できる敷地を用意して、そこの場所代を税金代わりにするってのは?」


「なるほどな···。だが税務署だけじゃあムリだな」


「もちろん。さらに管理する人と掃除する人は必要になるけどな。そういう意味では仕事増えるし住民税もちょっとは増えると思うぞ」


「あんた、面白い事考えんだなぁ〜。それに税金も詳しいじゃないか!」


「ははは!仕事柄、そういった知識は必要なんでね〜!」


「もしかしてあんた、別のところの税務署か?」


「いんや。オレは税務署ではないぜ」


「そっか〜!まぁどうでもいいけどな!明日うちの署長に案出してみるわ〜!」


「うまくいくといいな〜!」



 ···署長ねぇ〜。この西城イワイ署の署長って、会議の時に顔合わせはしたものの、あいさつしても無視しやがったし、完全にオレを眼中にないって感じだったからな〜。


 そんな眼中にないヤツに抜かれて激怒しちゃって、さっきの人みたいにキツイノルマを課せられちゃってるんじゃないかな?そんな事したってムダなのにね。


 えっ?うち?ノルマないっすよ?目標もねえよ。


 だってさ?考える時間あったら働いてもらうほうが効率いいって!それに評価するのオレだぜ?超めんどいじゃん!


 元の世界の会社だとよくあるけどさ。まぁ、オレ自身もやってたけどさ。あれめんどいし、やったって評価なんて上がった試しがねえし。『モチベーション上げて成長するため』って会社は言いやがるけど、モチベーション高いやつなんて見たことないから、あれって変なコンサルを鵜呑みにしたんだろうな。


 ちなみにうちの評価はみんなの仕事ぶりを直接見てオレの中で下している。異論があれば『腹を割って話そう!』って事にしている。


 まぁ、オレがこんな性格だから媚びへつらうのは通用しない。まぁ、そんな事するやつはいないけどな。



 さてと!お悩み相談室も終わったことだし、部屋帰って寝ようっと〜!



 翌日···。


 朝食を酒場でいただいてからチェックアウトして、大通りに出た。



「いらっしゃい!いらっしゃい!隣の国で作った丈夫な服よ〜!」


「隣の国でしか作れない干し肉だ!セットにどうだ!?」


「数学が得意な国の本だよ〜!これがあれば計算なんて楽ちんだよ〜!」



 お〜!これが行商人の商売の方法ね〜。荷馬車の骨組みを差し替えて幌を屋根代わりにして、荷馬車以外にも屋根の下に商品を展開させてるわ。


 昔、うちの近くに来ていた移動販売店がそんな事やってたな。もちろんトラックだったけどな。ここではそれが荷馬車になってるってわけだ。短時間でお店を広げることができるから、よく考えてるわ〜。


 金額はちょっと割高だな。おそらく輸送賃が高いからだろうなぁ〜。元の世界と違って魔獣が街道にも出るだろうから、護衛費とかが上乗せされちまうんだろうなぁ~。ちょっと話聞いてみるか!



「おっちゃん!ちょっといいか?」


「いらっしゃい!なんだい?」


「今度行商を始めようと思ってるんだけどさ。大変かい?」


「そりゃ大変だぞ。魔獣に襲われたら命ねえからな!荷馬車一式はもちろん、護衛を雇う必要もあるしな」


「だろうなぁ~。見てたらちょっと高いのは仕方ないよなぁ~。護衛費以外にもいろんな経費かかるんだろ?」


「もちろんだ!馬は生きてるから食べるし飲む。荷馬車だって定期的に車輪や幌を張り替える必要がある。オレらの食い扶持ぶちもあるし税金もあるしな」


「税金かぁ~。結構高いんじゃね?」


「国にもよるな。ここは入国税と関税を支払うだけ・・だからな!」


「え?うちも商売やってるけど、売上税は?」


「定住してねえし短期間だからそんな計算できねえよ。だからこそ入国税と関税がある・・・・・・・・・んだろうからな」


「へぇ~。そういうもんなんだな」


「ちなみにほかの国だったら入国税も関税もないところがあるな。ただ、『商売許可証』っつう高い権利を毎年買う必要あるけどな」


「税金と似たようなもんがあるんだな」


「名前だけさ。どこも取れるところから搾り取ってやろうって魂胆だろ?」


「行商人も大変なんだなぁ~」


「どんな仕事だって大変さ。参考になったか?軽い気持ちでやるならやめとけ。オレらにはオレらなりの苦労があるんだよ」


「外の世界に行ってみたかったって気持ちがあったから行商人を考えたんだよなぁ~。ありがとな!これ買ってくわ!」


「まいど!」



 なるほどねぇ~。そりゃ短期滞在じゃ、計算して税務署に寄ってなんてできねえわな。だから入国税と関税で穴埋めしてるって感じか。それはそれでいいとは思うけどな。

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