2-9.自らの手で発売中止に追い込んでしまった、哀れな男の物語? 前編
「やっちまった···」
「何をやってしまったんですか?これはとんでもないものを発見してしまいましたけどね」
「思ってたよりもヤバイっすよ···?これ、どうするんすか···?」
アカン···。楽しみにしていたヌード肖像画集は発売中止に
その日の午後一で、7丁目にある『スケスケ出版社』に
まぁ、『完全受注生産』って書いてあったから、明日予約しても大丈夫だろう!『限定○○部!』って書いてなかったからな!それだったら予約開始日前日の深夜から並ぶけどな!某逆三角形の建物がある巨大会場で、夏と冬に徹夜で徘徊して始発組よりも先に並んだ経験があるオレにとっては無理難題では決してないからな!みんなはやっちゃダメだぞ!
「こんにちは~!城北税務署で~っす!税務調査に伺いました~!」
「はい。お待ちしておりました。書類一式はすべて会議室に用意しておりますので、どうぞこちらへ」
「失礼するっすよ~」
このスケスケ出版社、さすがに新聞広告を出すだけあってそこそこ大きな会社さんのようだ。
1階は倉庫兼印刷所となっていて、所狭しと印刷用魔道具が置かれていた。魔道具といっても簡単な作りのもののようだけどな。見た目は大きなコピー機のような形をしているのは偶然か···?
2階は案内された会議室のほかに事務所や編集専門の部屋、学校の美術室のようにデッサンをしているような部屋があった。かなりの大人数が働いているようだったな。ここは自営で印刷もやってる出版社なんだなぁ~。
「どうぞ、こちらです。事前に伺っていました過去5年分の取引の書類になります」
「おお~!ちゃんとしてるっすね~!これだったら早めに調査を終えられそうっすよ~!」
「そう言っていただけると経理担当が喜びますよ。そうそう、申し遅れました。私は社長のエーロと申します。何かありましたら事務所に声をかけていただけますか?」
「了解っす!それじゃあさっそくとりかからせてもらうっすね~!」
あの紳士的な対応をした人、社長だったのか···。なんか出版社って言ったら某週刊雑誌の会社みたいに机の上が書類とかで山積みになってて、耳に鉛筆をかけつつ24時間365日仕事している不夜城のイメージだったんだけど、ここはちゃんと整理整頓されてるわ···。清掃も行き届いているし、雰囲気としては超優良企業とみて間違いないだろうな!
こんな環境で製作されるんだ!ヌード肖像画集もさぞかし素晴らしい出来なんだろうなぁ~!早く買って夜が楽しみになっちゃうぜ!
···え?何に使うのかって?言ったらこの作品が消滅するが、それでいいんだな?読者もわかってるクセに···。お主も悪よのぉ~。
「さ~て!さっさと調べるっすよ~!」
「おう!···って、何を調べてるんだ?」
「署長···。知らないで来たんすか?なんで一緒について来たんすか···?」
「いや···、どんなかんじでベクトさんが仕事してるのかなぁ~?って興味本位で···(ヌード肖像画集予約しに来たって言えんしなぁ~)」
「うわぁ···。マジで邪魔っすね···」
「手は出さないから、手伝えそうなことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「ベクト。署長の言う通りです。遠慮なくこき使いなさい」
「は、はぁ···」
「おい、スタイア?その表現はあんまりだぞ?」
「署長がベクトの邪魔して時間が余計にかかったら
「···なるべく頑張ります」
そう。スタイアはそう脅しにかかるが、これは事実だったと先日明らかになったのだ···。総務部のおばちゃんはめっちゃ怖かったのだ!
あれは先月のことだったなぁ~。ノックもなしに署長室に怒鳴り込んできたんだよ···。それはもう激おこさんでした···。
「(バーーーーン!!)おいゴルァ!!署長ーー!!」
「ヒエッ!?ポ、ポーストさん!?い、いきなりなんですか!?」
「この前の経費精算書!あれを経費で落としたいだとぉ!?てめぇ!なめてんのかぁ!?」
「えっ!?あ、あれってなんですか!?」
「『コスチューム代』の37500ジール!いったい税務署のなんの活動に使ったんだい!?」
「そ!?それはぁ···、そのぉ···」
いかん!ついいつもの書類と同様に先日のスラム防衛線で戦隊ものの変装の代金を経費で出しちゃってたわ···。そりゃ、説明できんでしょ···。
「ごめんなさい!
「間違ってただとぉ!?ウソついてんじゃねえよ!!てめぇ!税務署を私物化してるだろぉ!?領収書の宛名に『城北税務署』ってちゃんと書かれてるぞ!
「うっ!?ごめんなさいごめんなさい!もうしませんから!許して!」
「覚えておきな!てめぇの給料も、こうした経費も!すべては王国民たちの
「ポーストさんのおっしゃるとおりです!今後はこのような事がないようにしますから!」
「『このような事がないように』だぁ?当たり前だろうが!!···次はわかってるんだろうね?」
「ヒエッ!?わ···、わかっております···」
「ふんっ!!(バーーーーン!!)」
ポーストさんは総務部での一番の古株だ。序列としては総務部長の方が上なんだが、誰も逆らえないのだ···。ガタイのいい大男よりもさらにガタイが良くて顔もヒゲが生えた男顔なんだが、三つ編みのポニーテールで首元にリボンをつけているオシャレな
これ、小説だから文字で書いてるけど、絵になったらお子さんだったら間違いなく泣くな。オレも最初に総務部にあいさつに行った時は思わず逃げ出したくなってしまったぐらいだ。
さて話は戻そうか。思い出しただけでやる気なくしちまうしな···。
ベクトさんは順調に帳簿を精査していた。オレとスタイアは暇を持て余していた。って、会議室にあったマガジンラックの雑誌を読みたいんだけどなぁ~。結構際どいお姉ちゃんの絵が表紙だから、気が気でないんだよ。
しかし、横にはスタイアがいる!あぁ···、もしかしたらスタイアはこうなることを見越していたんだろうなぁ~。
「どうしたんですか?チラチラと私を見て」
「えっ!?い、いや!なんでもないよ」
「そうですか。しかし署長は何もしてませんね?サボるために来たんですか?」
「そ!?そんな事はないぞ!?」
「思えば今日の署長はおかしいですね。いつもおかしいですが、何かあるのですか?特にここについて」
「何もねえよ!ちょっとトイレ行ってくる!トイレにはついてくんなよ!」
「当たり前です。逆やったら命はないですよ?」
まったく···。秘書だからって常時ついてこられるのもなぁ~。まぁ秘書ってそういう仕事だけどさ。なんだか最近母親のような行動をしてないか?オレはガキじゃねえよ!
さてと。ちょっとお手洗い行って、ここの社長さんとお話でもしてみようかな?今ならヌード肖像画集の予約できるかもな!···あれ?トイレってどこだ?ちょっと聞いてみるか!オレは通りすがりの社員さんに聞いてみた。
「すいませ~ん!お手洗いってどこです?」
「通路の一番奥ですよ~!」
···ふぅ~。すっきりしたぜ。さて、手を洗って事務所に行ってみようかな?そう思って洗面所で手を洗おうとした時に、ふと目の前の鏡が気になった。
「···ん?なんだこれ?」
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