2-6.シマを荒らすヤツにはお仕置きだべ〜!

 税務署うちとスラムのギャング団『勝ち組』との共同事業である人材派遣会社はその後も順調に業績を伸ばしていった。


 やっぱり評判がいい。『見た目はアレだけど、誠実に仕事に取り組んでくれて大助かりだ!』との声が多いな。派遣先のお店では売上が上がったそうで、うちとしても売上税の増収は嬉しいものだ。


 ···でもな?それってスタイアとヴェロッタのしつけ・・・···、ゲフンゲフン!教育・・の賜物だな。ちなみにこの二人、ノリノリでやってるそうだわ。


 なんで聞いたような感想なんだ?って?かつてVIPルームでの惨事が忘れられないからだよ!あれとほぼ同等の教育をやって矯正してるらしいからな。見に行ったらオレ自身が精神的に参ってしまうわ···。



 順風満帆なように思えたが、レイ組長が言ってたように妨害と思われる連中がスラムに入り込んできてるとのことだ。


 まったく···。オレらが考案した事業に手を出そうとは···。あくまで税収アップのための事業なんだぞ?いわゆる公共事業・・・・だぞ?税務署の仕事じゃねえって意見は締め切ってるから受け付けんぞ!


 とりあえずシマ・・を荒らす連中の身元を調べないとな···。というわけで今日はこの人の出番です!



「署長···?やっぱやるんすか?税務署の仕事じゃないっしょ?」


「ベクトさん。あなたの情報収集能力を見込んでお願いしたいんですよ。シマ荒らされたら税収減っちゃうんで!」


「はぁ〜。まぁいいですけど?今度メシおごってくださいよ?」


「わかったって!···最高級の料理とお酒以外で」


「先に釘刺さないで下さいよぉ〜。じゃあ、行ってきますね」


「気を付けてな!」



 うちの署員にはいろんなスキルを持ったやつがいる。ベクトさんは情報収集のスペシャリストだ。


 脱税などのウワサがあれば、すぐに裏取りしてきてくれる。情報の確度に応じて税務調査をするかの判断材料をオレに提供してくれるんだ。


 このベクトさんは潜入任務も得意なんだよ。普段は影薄いから、いるのかいないのかよくわからん時もあるぐらいなんだ。


 ···段ボール箱渡したら最強かもな。この世界に段ボールないけど。



 オレは任務をベクトさんに任せて税務署に戻った。オレの仕事も溜まってるからな!副業で忙しかったし、スタイアとヴェロッタが人材派遣会社で大暴れして税務署にいる時間が短いのでその分もオレが処理するハメになったんだよ···。



 その日の夕方···。



「署長の読み通りでしたよ。ただ、複数の部署からのちょっかいっすね」


「どこの部署だ?」


「王国軍第4部隊、憲兵城北署、そして···、西城せいじょうイワイ税務署っすね」


「···はぁ?軍と憲兵はわかるけど、なんで所轄外の西城せいじょうイワイが出しゃばってんの?」


「わかんねえっす···。今日はどこの連中で何やってるかしかわかんないもんで···」


「まぁ、それはおいおい調査したらわかるか···。で、連中なにやってたんだよ?」


「軍と憲兵はスラムの状況確認っすね。先日軍の金庫が盗まれたってニュースになってましたんで、『勝ち組』の仕業って思ってるかもしれないっす。憲兵は今、『犯罪一掃キャンペーン期間中』なんで、犯罪だらけのスラムで一斉検挙を目論んでるっぽいっすね。西城せいじょうイワイはよくわかんないっす」


「おいおい···。うちから集金できんからって、軍の金庫に手を付けたんかい!?まぁ、レイなら知ってる範疇はんちゅうになるのか?それよりもなんだ?憲兵の『犯罪一掃キャンペーン』って?」


「この時期になると、検挙ノルマ達成できてない所轄でやるんすよ。でっち上げて捕まえて検挙率上げて、あとで『手違いだった』って事にして釈放してたんすよ。だからこの時期に泥酔して外で寝るといいカモになって検挙されるから、飲んだくれが減るっすね」


「それ職権濫用!!」


「うちも人のこと言えないっすけどね」


「うちは合法!ちゃんと手続きして正式に事業化してるし、税収増えた!収入のないスラムのみんなに収入をあげてる!福祉の面もあるんだぞ?理論武装は完璧だ!」


「もしかすると、西城せいじょうイワイ署はそれを参考に税収上げるために調査しに来たかもしれないっすね」



 その可能性もあるかもな···。ってか、それなら署長会議の時に聞いたら教えてやるのに。


 一応月に1回、王城で8か所ある税務署の署長会議があるんだよ。そこでいろんな署の状況を聞いたりできるんだけどな。


 うちはやり方が特殊だから、ちょっと毛嫌いされちゃったわ。まぁ、付き合う必要も特にないからいいけどな。


 さてどうするか···。王国軍と憲兵とまともにやり合うわけにはいかんしなぁ〜。かといってこのまま無視は勝ち組との信用に関わる。


 せっかくここまで良好な関係になったんだ。どっちに付くかは言うまでもないよな?



「よし!防衛を手伝うぞ」


「マジっすか!?相手は身内の公務員っすよ!?」


「身内でも筋の通らない行為はダメだ。それに検挙とかされたら人材派遣会社が傾く!税収が落ちるだろうが!」


「バレたら全員クビっすよ!?」


「大丈夫だ!問題ない!とっておきのアレ・・を使うからな!」


「アレ···?なんすか?」


「フッフッフ···。心配は無用だ。ベクトさんは通常勤務でいいから。あっ!西城せいじょうイワイ署は調べてくれる?あと決行日も」


「クビだけは避けてくださいよ···?住宅ローンまだ残ってるっすから···」



 というわけで署長室で悪巧み···、ゲフンゲフン!税収維持作戦・・・・・・を打ち合わせたのだった。


 メンバーはスタイアとヴェロッタだ。二人に事情を話したら激おこになったわ。



「許しがたい行為ですね。証拠もなしに攻め入ろうだなんて、公務員の風上にも置けぬ所業です」


「せっかく楽しい遊び・・ができたのに、それをなしにするだと!?許せるわけねえだろうが!」


「二人とも落ち着いて。だからこそ防衛するんだよ」


「でも署長?我々は結構素性が知られています。この税務署が取り潰しになりかねません。それでもやるのですね?」


「ちゃんと対策してるって!これだ!」


「え?これって仮面?」


「そうだ、ヴェロッタ。これを着用して軍と憲兵に襲いかかれば正体はバレない!ちなみにオレは赤色にするからな」


「私は青ですか」


「あたいは黄色?これ、ものすごく目立つぞ?」


「本当は緑とピンクもいるんだけどな。3人戦隊ならこれがセオリーだ」


「よくわかりませんが、いいでしょう。手加減なしでよろしいですね?」


「ああ。こっちは3人で多数を相手にするからな。ありとあらゆる手段を許可する」


「わかりました。ちなみに···、残業代コストがかからないように勤務時間内でやりますよ」


「···そういうところはちゃっかりしてるのね?」


「当たり前です。残業発生事由に『スラム防衛のため』と書くわけにいきませんし、それでバレます」


「いや、ウソ事由書けばいいじゃん···。承認するのオレだし···」



 さて準備は整った!お仕置きの時間だべ〜!

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