32 すぐに再会、シルフィーナとセラ
ひとまず、何があったかを確認してみようと、音がした所を見に行く。頬を抑えた男性が、気まずそうに建物から出ていった。ビンタでもしたんだろうか。まあ、大体誰がやったかは察するけど……
「あっ、やっぱりシルフィーナさんだ。セラさんも」
「……よく会うわね。用事があるなら、座ってしましょ」
座れる場所なんてあるのか、と見渡してみる。天井が高いからか、中は外から見るよりかなり広く見える。大半の人が掲示板や受付に並んでいるため、談話するスペースにはわりと空きがあった。これに加えて酒場がくっついているんだから、繁盛してるんだろう。
ちょうど4人分、大きなテーブルと椅子があったので、着席した。僕の隣にぴったりくっついてくるザーディスさんが少し怖い。対面の2人も怪訝そうな視線を向けているし。
「昨日ぶりね。そちらの方は、チヨリにお礼したいって言ってた人?」
「そうだ。ザーディスという。冒険者だ」
「あたしはシルフィーナ。で、こっちはセラ。同じく冒険者よ」
どうも、とセラさんは丁寧に頭を下げる。シルフィーナさんはガンガン話すし、ザーディスさんは聞かれたことに淡々と答えるので、会話はこの2人に任せればいいかな、なんて考えていた。
「王都での活躍は耳にしている。まさか仲間を連れていたとは」
「……その言い方、なんか引っかかるわね。この子はまあ、弟子みたいなものよ。危なっかしいから面倒見てるだけ。そうでしょ?」
「危ないのはシルフィーさんの方です! 昨日ここに来てから、もう2回も男の人にビンタしてるんですよ。まあ確かにみなさん態度が悪かったりしつこかったりしましたけど、すぐ手が出るんですから」
「セラ。あれはね、全部向こうが悪いの。こういう所できっちり断らないと、こっちが後悔するだけよ。ちょっとスキルを見せたらすぐ黙るんだから」
賑やかな知り合いだな、と隣のザーディスさんが耳元で話す。頼りになる友人ですよ、と返すと、彼は少し眉をひそめた。なんでだよ。いいじゃないか、頼りになるんだから。
「チヨリはどう? といっても、一晩しか経ってないけど。この人はどんなお礼をしてくれたのよ」
「まあお礼はされたというか、なんというか。……正直に言っていいんですかね?」
「この2人が信用できるのであれば、俺が話そう」
もちろんできますよ、と伝える。ザーディスさんは遠慮なく自分のやろうとしていたことを話していき、序盤から女性陣の顔が歪む。最終的に始末できなかったし帰還の指輪を使わせてもらった、という頃には、対面の2人が頭を抱えていた。シルフィーナさんは片手、セラさんは両手で。
「なんとも言えないけど、色々気を付けなさいよ、アンタ」
「そのつもりです……」
そうとしか言えなかった。向こうが巻き込んでくるんだからどうしようもないと思うけど。
話題を変えよう。会話を2人に任せるのはちょっと危険かもしれない。容赦のなさが掛け算されていく気がする。どうにか話せることはないかと頭を回転させ、ひねり出した言葉がこれだ。
「そういえば。おふたりとも、ちょっと華やかになりましたよね。服装もちょっと明るくなって。すごく似合ってますよ」
そう。言葉通り。白やグレー、ベージュのようなカラーではなく、鮮やかになったというか。派手すぎないが、薄目の緑色や赤色がより存在感を引き立たせているというか。
明るい服が似合うと思っていたから、よかったと考えて言ったのだけど、それで少しの間会話は止まってしまう。向こうの2人はちょっと顔が赤いような。
「えへへ、ありがとうございます。実は、チヨリさんに言われてシエルの町で買ったんです。シルフィーさんが選んでくれたんですけど、アイツの前じゃ絶対着ないって……」
「セラ! 余計なことは言わない! ったく、ちょっと華やかにしたらすぐ討伐だの依頼だのに誘ってくるんだから。こんな格好、今日だけよ。冒険者はそれらしい恰好でいいの」
……失言ではなかったようで安心した。しかし、ほっとした束の間、ザーディスさんが牙をむく。
「俺も明るい服を着ようと思う」
「えっ」
「俺もチヨリ君に褒められたい」
また会話が止まるというか、彼がスキルを使っていないのに場が凍りついたような気もする。僕は「いいと思いますよ」としか返せないが、シルフィーナさんは僕たちの関係が気になったようだ。
「随分と仲が良いのね。出会って一日ぐらいじゃないの」
「俺はチヨリ君には運命を感じている。だが勘違いしないでほしい。これは恋愛的な意味ではない。確かにどちらかの性別が違えば求婚していただろうが、彼は親友だ」
「友達の段階を飛ばしてる……」
セラさんのツッコミが入る。若干変だとは感じていたが、ここまでの感情を向けられるとは。僕は受け止められるのか、なんて考える間もなく、次のパンチが飛ぶ。僕はもう、口を挟むことができない。
「そういう2人こそ、チヨリ君とはどういう関係なんだ。好きなのか」
「はあ!?」
「ええっ!?」
デリカシーというものがないのかこの人は。いや、何かスイッチが入ってしまったのかも。開いた口が塞がらない。本人を前に答えにくいとか、そういうものじゃないのだろう。入っている。ザーディスさんのスイッチが。
「あのねぇ、あたしが? コイツを? ないわ。ない。バカなこと言わないでちょうだい。本当に、たまたま同行しただけ。それ以外のなんでもないの。わかる? わかるわよね。セラ、言ってやりなさい」
「私ですか!? ええっと、その。ちょっと言葉にしづらいというか」
あっ、思ったよりグサっとくるな。いや、確かに恋愛感情はないけど、こうズバズバと言われると複雑というか。……なんて話題にしてくれたんだ。流石に注意しないと、注意を――
「チヨリ君が魅力的じゃないというのか?」
「なんでそうなるのよ!?」
だめだ! はちゃめちゃに面倒くさい男になっている!
流石にストップをかけるため、小さな声で落ち着いてくださいと話す。「俺は冷静だ」と返ってきてから、自分の言語化センスの無さに打ちひしがれた。一体どうすれば。このままじゃ僕がただただダメージを受けただけになる。いやまあそれで済むならいいんだけど。
「ザーディスさん」
「なんだ」
「私はチヨリさんのこと、いいと思いますよ」
「ええ!?」
「はあ!?」
セラさんの発言に、思わず叫んでしまう。ついでにシルフィーナさんも叫んでいる。彼女の発言はどういう意図なんだ。僕はどう反応すればいいんだ。
「私、チヨリさんに3度は助けられました。付き合いもあなたより長いです。運命的なものは、あなたと同じように感じていますが……?」
まっすぐ、かつ真剣な表情で、セラさんはザーディスさんを見つめ返す。
この人、すごいな。僕が好きかどうかの話から、運命を感じるかどうかという所に話をずらしたのか。いいとは言った。好きとは言っていない。この短いやり取りで、彼の手綱を握ろうとしている。
「……俺の負けだ」
「勝負だったんだ……」
何と戦うつもりだったんだ。僕の一言で、ついに彼は大人しくなった。……なんの話だったっけ。色々と聞かないといけなかった気がするけど。
しかし、これほど助けられるとは思わなかった。シルフィーナさんと一緒に居られるのも、こうした腕っぷし以外の力があったからかもしれない。
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