第23話 青銅ランクと甘いご褒美
「ふーー……。今日も疲れました」
この世界に召喚されてから、20日が過ぎた。
学校へ行って帰るだけの退屈な毎日とは違って、本当にあっという間だった。
朝日が昇る頃に起きて、昼はモンスター退治。
夕方、お腹をぺこぺこに空かせながら宿に戻って、夕飯を食べたら共同浴場へ。
ベッドに潜り込めば、五分もかからず眠ってしまうくらい。
やっぱり、家族のことをたまに思い出して、寂しい気持ちが胸の奥に広がるが、毎日が濃くて充実していた。
もちろん、その楽しい毎日はやはりナルサスさんの存在があってこそだった。
「んっ!? ……ああ、そうだね。君の頑張りは私も驚いたよ。
二週間で青銅ランク昇格。依頼人の評判も良くて、久々の期待の新人だって、ギルドの人も褒めていたじゃないか」
「えへへ……。ナルサスさんのおかげですよ。私だけだったら、とても、とても……」
神殿の麓に見えていた小さな村を抜けて、その次の村も越えて、私たちが辿り着いたのはモテストという街。
高くそびえる城壁を初めて見た時の胸の高鳴りは、今でも忘れられない。
人の波に圧倒されるほどの賑わいで、露店からは活気のある声が飛び交っていて、その街並みは『本当に中世ファンタジーの世界にいるんだ』と実感させた。
そんな街で、ナルサスさんが教えてくれたのは、日々の糧を得る手段だった。
そう、冒険者だ。六冊の英雄譚で読んだ勇者たちがそうしていたように、私も冒険者になった。
冒険者ギルドのカウンターで冒険者の証となるタグを手渡された瞬間、胸の奥が一気に熱くなった。
駆け出しの私にはモンスター退治は許されておらず、午前中は街の掃除をしたり、迷子の猫を探したり、街の近くで薬草を摘んだり。
勇者って響きとはかなり違うけど、私には合っていた。
午後なると、ナルサスさんが偽名で既に持っていた銀ランクを生かし、格上のモンスター狩りに挑む。
戦うのはほとんどナルサスさんだけど、私も出来る範囲で必死に手を貸して、今では『へっぴり腰』をなんとか克服していた。
だから、RPGでよくある『経験値』だけなら、ちゃんと溜まっているはず。
多分、ゴブリンとかコボルトくらいなら怖くない。オークはいつもアレがアレだから、苦手というか、女にとっては天敵だと思う。
「そんなことは無いさ。……っと、そうだ。今日は青銅ランク昇格のお祝いをしよう」
「えっ!? 本当ですか?」
思わず声が大きくなってしまった。
だって、ナルサスさんから『お祝い』なんて言葉が出てくるなんて、全然想像していなかったから。
「七つ角の屋のフルーツタルトを食べたいって言っていただろ?
なら、今夜のデザートはそれだ。もちろん、お祝いなのだから、私の奢りでね」
「わわっ!? 良いんですか?」
私は目を大きく見開いて、気付いたら手をパンッと打ち合せた。
『お祝い』と重なって、二重に嬉しかった。
だって、五日前。
私が『七つ角の屋』のフルーツタルトの評判を耳にして、その値段に目を丸くして諦めたときのことを、今でもはっきり覚えている。
翌日、モンスター退治の合間にちょっとだけ『貯金して、絶対に食べるんです!』とボヤいたのを、ナルサスさんはちゃんと覚えていてくれたのだ。
「フフ……。任せたまえ。君のおかげで私の財布も潤っているしね」
「はい! なら、お言葉に甘えちゃいます!」
評判では『王様の舌を唸らせる』と言われている名物。
どんな味なんだろう。甘酸っぱい果物が口いっぱいに広がるのか、それとも上品でほろ苦い大人の味なのか。
頭の中で、甘酸っぱい香りや、サクサクのタルト生地の上に、色とりどりの果物がぎゅっと詰まった姿を勝手に想像してしまって、胸の奥がふわふわとしてしまう。
「あら、アオイちゃん。今日はご機嫌ね?」
「あっ!? 聞いて下さい!」
だけど、その前に今日のモンスター退治の精算は、きっちり済ませておかないと。
私は馴染みになった冒険者ギルド職員のお姉さんのカウンターへ、まるでスキップでもするみたいに軽い足取りで向かった。
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