16. 差出人は?

 翌日、学校について下駄箱で靴を履き替えようと思っていたら、自分のところに何か手紙が入ってる事に気づいた。


「ん?、下駄箱に手紙?…もしや……」


 ハートマークの何かで封が閉じてある。誰がどう見ても、どの手紙の正体は明らかだった。


「…ラブレター?」


 今でもこんなアナログなことをする人がいるんだなと少々驚きながら、開いてみる。


『あなたのことが好きです、返事を聞かせてください。今日の放課後、体育館裏で待ってます』


 手紙だから仕方ない部分もあるが、あまりにも一方的なラブレターだった。


「今日の放課後?、これまたえらい早いなぁ…」


 今日は金曜日。今日を逃せば来週になってしまうからそうしたのか?、相手の考えていることはよくわからないし、何より差出人が誰かもわからない。しかもなんで体育館裏なんだ。他にもいい場所あったろ、屋上とかあんま放課後人居ないからそっちにすれば良かったのに、とか思いながら、


「俺にはあるまっていう大事な相手がもうが居るんだし、ちゃんと断りに行かなきゃな」


 そう考えを巡らせながらの一日。昨日黒百合に言ったからか、今日は全く見てこない。ただ淡々と、黙々と黒板の板書を書き写していっている。どこか目も虚ろで、焦点が定まっていないように見える。


「…少し、言い過ぎたかな…」


 昨日の自分の口調が、少しキツくなってしまったことを今更反省する。でも俺はクラスで目立ちたいわけではないのだ。ただ、普通に、平穏に日々を過ごすことができれば、それでいいと思っている。何か特別な出来事なんてのは、クリスマスとかお正月とか、あと誕生日とか、限られた時でいいと思っている。


「…それでもやっぱり、仕方なかったって割り切ることは俺にはできないな…」


 今の様子を見るに、俺が彼女を傷つけてしまったことは明らかなんだ。俺だってできれば、誰も傷つけたくはないし、この世界にいる全員を救いたいって、本気でそう思っている。だけどそれができるだけの力がない。


 時に誰かを切り捨てないといけなくなる、大事なもののダメに、別の大事なものを切り捨てないといけない。


「…まさにジレンマだな…」


 最近は本当に、なんでこんな色々起きるんだ。彼女持ちの高校生ってみんなこんな感じ字なのか?、そうじゃないでしょ。いや、これに関しては、俺がなんでもかんでも抱え込み過ぎ?、うん、その可能性が高そうだ。


「それに今日のラブレターのこともそうだし…」


 大体なんで差出人を書かないんだ。これじゃ誰に告白されたかわかったもんじゃないじゃないか。ほんとにもうなんというか…


「最近ほんとに忙しいよ…ゆっくり休ませてくれよ…」


 何も考えなくて良かった頃…いや、よくよく考えてみれば、そんな時期、多分なかったな。無心になれるのって、寝付く前の数分間くらいなもんだしさ。


「はいじゃーここの問題を藍星!」

「…………え、なんの問題ですか?」

「ちゃんと授業は聞け!、ずっと上の空で何考えてたんだ!」

「あ、すいません、最近ちょっと色々大変で、」

「とりあえず、授業の時は授業に集中する!、わかった?」

「はーい」

「で、その問題は教科書…」


 〜〜〜


 キーンコーンカーンコーン


「はいじゃあ今日の授業はここまで!、特に最後のところは中間に出るからちゃんと復習しとけよー」

「「「はーい」」」


 やれやれ、今日の最後の授業が終わった。さて、


「告白は嬉しいけど、その気持ちには応えられないって、伝えなきゃな」


 誰なのかも気になるし…


 みり:やること終わらせたら行く、終わったら連絡するわ

 あるま:OK〜、早めに終わらせてね〜


 ちょっとだけ、あるまには待ってもらう事になるな、と思いつつ体育館裏に向かう。ここは裏門のすぐそばにあり、人も寄ってこないため、秘密の話をするにはうってつけの場所なのだ。ただ、いじめの現場になったり、陰口をここで叩いてたりする影響で、いい印象を持つ人はあまり居ないがな。


「さて…着いたはいいけど、まだ誰も居ないな…」


 うちのクラス、終礼終わるの早かったからな、もう少し待っていれば来るのかな?、と考えて、少しだけ待っておく事にした。


「にしても別館の空き教室といい、体育館裏といい、人が潜めそうな場所が多いのはなんなんだ?、管理が行き届いてなさすぎだろ…」


 そうしていると、後ろの方から足音がして、やっと誰かが来たようだ。だがそこに居たのは…


「黒…百合?」


 体育館裏に来たのが黒百合なのも驚いたが、その手には、明らか学校では使わないような何かを持っていた。そして彼女が距離を詰めてきて、


 何かを当てられたと思ったら、急に目の前が真っ暗になった。

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