第14話(第1章)まで読みました。両親を短い間に一度に失った少年、リク。そんな彼の前に現れた怪しい青年、エイト。エイトはセラピストだと名乗り、リクはエイトのカウンセリングを受けることになるのですが、その方法はリクが想像もできないものでした。
と書くと、心温まるヒューマンドラマのようですね。実際、そうなのですが、ところが途中である設定が明らかになる辺りで、物語の方向性が徐々に変わっていきます。そういう設定は予想していなかったので、ちょっと驚きました。
セラピストのエイトが、一見でたらめにしか見えないのに、人の心の扉を叩き、それを開けさせる不思議な力があります(「人の心の扉を開ける力」ではないところに注意)。そんな彼とリクのコンビの、噛み合わないようで噛み合うやりとりを読んでいるうち、不思議に物語に引き込まれました。
心が温まり、しかも不思議な現代ファンタジーでもあります。第2章以降、色々な方向に話が広がりそうで、楽しみですね。
自殺という難しい問題を扱った挑戦的な作品ですが、詠人というキャラクターとの化学反応によって、全体的に風通しの良い作風に仕上がっています。「生死それ自体よりも、それを自分の意思で決めることが大事なんだ」という旨の台詞は、個人的には画期的に映りましたし、この作品の主題となり得るポテンシャルを孕んでいると思います。この台詞を軸として物語が進行していくと、よりいっそう厚みが生まれると思いました。ねつきさんの武器は他でもないキャラクター造形にあると思いますし、それはすべての小説家にとって喉から手が出るほど欲しい才能ですから、これからも弛まずに書き続けて欲しいと思います。
プロローグ部分が不穏で、そこで心を掴まれつつも締め付けられるような想いになりますが、全編通して優しさの溢れる美しい物語です。
概要にも書いているように、心理学的カウンセリングの代わりに、ファンタジー的な要素で問題解決をはかりますが、カウンセラーの詠人がとても真摯な人物で、好感が持てます。
本作の主人公、陸はとても悲しい過去があり、自殺願望を抱いていますが、その痛みを癒すのは、詠人の誠実さのように思えます。自殺したい理由というのは、本人以外には完全には分からないことが多いと聞いた事があります。そのため、専門のカウンセラー以外の人が生半可な知識で対応すると、不幸な事故が起こることが多いのだとか。その辺、本作かなりリアリティがあると感じました。
かなり構成が綺麗な物語で、出来事の発端から、人物の描写、独自要素の紹介と一旦の解決と、お手本のような構成になっていると感じました。一旦13話で問題が一区切りついているのですがまた、最新話である14話で新たな真相と展開があり、読者を飽きさせない作りになっています。
題名で暗い話だと思ってしまいますが、実際は全くそんなことはないので、そちらで判断せず、一読していただくことをお勧めします。