第2話 解放
『ヒトに仇なすケガレを全て駆逐し根絶する…それが私が掲げる理想 』
陰陽師である雛奈は涼音を見てこう言った。
そして次期当主になるとも話していた。
それは全てあの日自分自身が目指していた物と同じ
だが全て捨ててしまった。
もう二度と戦いたくはない、普通の人として何もかも忘れて
関わりを避けて生きようと思ったから。
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迎えた翌日、涼音は普段通り屋上に来ていた。
しかしこの日は何かが違っていてそれに気付いた時にこみ上げて来たのは
焦燥感と緊張感の2つ。理由は簡単、普段居る給水タンクの上に居たのは先客で
しかも土御門雛奈という今関わりたくない人物ナンバーワンだったからだ。
涼音の視線に気付くと彼女はその場に立ち上がる。
「何でお前が此処に居んだよ 」
「...降谷さんから聞いた、貴女はいつも此処に居るって 」
「アイツ...余計な事言いやがって。それで?あたしに何の用? 」
「...昨日の続き。何故ケガレと戦わなかった? 」
「ッ...別に良いだろ。お前が来たんだから 」
「...来なかったら? 」
「逃げてた。あの程度ならどうって事ない 」
「...ケガレは淀みを浄化しない限り追って来る。奴等はヒトであれば誰であろうと喰らう、陰陽師ならその位知っている筈 」
彼女の言葉に涼音は目線を背ける。それに対し雛奈はタンクから飛び降りて真っ直ぐ
涼音の事を見据えながらこう言った。
「...それとも戦うのが怖い? 」
「ッ...!? 」
「...昨日の貴女はケガレに捕まった降谷さんを見て震えていた。それに見た所、貴女は霊符すら所持していない。それともあのまま彼女を見殺しにする気だった? 」
「ふざけんな、誰がそんな事ッ──!! 」
右手で胸倉を掴もうとしたが雛奈により手首を掴まれてしまい、寸前で止められる。そして微かに見えた肌を見てから驚いたような表情の元こう言った。
「...貴女のその腕 」
「あぁ、お前が今考えた事で合ってるよ。 」
「...戦いを避けるのはそういう
「別に...陰陽師の事も使命とかもあたしには関係ねぇ。話はこれで終わりだよ、解ったんならさっさと回れ右して帰んな 」
涼音がそう言い放つと雛奈は彼女の手首から手を退けて擦れ違う。
「...いくじなし 」
「んだと!? 」
「 ...どれだけ逃げても使命からは、運命からは逃げられない 」
それだけ言い残すと雛奈は立ち去る。
残された涼音はギリッと歯を食い縛ると俯きながら溜め息をついた。
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その世界の空は暗く、血の様に紅い月が周囲を照らしていた。
そこへ現れたのは黒を基調とした巫女装束に身を包んだ16、7の少女。
凛とした顔立ちと腰まで伸びた黒い髪は後頭部で白い元結により1つに結ばれている。彼女の眼前にあるのは片側が崩れて今のも崩れ落ちそうな古びた朱色の建造物、
そしてそこは自らが仕えし主が居る場所でもあった。誰も居ない場所へ自ずと
膝立ちの姿勢で座り込むと頭を下へ向けて話し出した。
「...
続いて現れたのは低い男性の声、姿を現した彼の年頃は50代そこらで
癖のある黒い髪は腰まで伸びていて白い肌に対しその身に纏っているのは灰色の帯が巻かれた薄茶色の着物。
そして桔梗という少女を見下ろしつ何処か深みのある様な低い声で呟いた。
「左様か...秀麻呂め、やはり仕留め損なっていたのか。優秀な血筋が集まるあの場で陰陽師となる者達を殺せとそう命じたというのに 」
「...もう1つご報告を。土御門家、そして他の陰陽師共が動き出しております。 」
「そうか...どうやら意外と早く嗅ぎ付けたらしいな。流石は護国を守る者共だ、ケガレの相次ぐ出現だけで儂だと疑うとは...現代の者共も馬鹿ではないらしい 」
「如何なさいますか? 」
「急がずとも良い...お前は引き続き監視を続けよ。お前は儂の目であり、足でもある...事と次第によっては手を加えても構わぬ。全ては三途の地から再び現世へ舞い戻る為......そしてこの次こそ我が手で奴を討つ...! 」
彼は白い歯を見せながら上空に浮かぶ紅き月を見て笑っていた。
此処は三途の地...嘗て護国や陰陽師達に仇なし、追放され迫害された者が行きつく果て。それが例え名の有る陰陽師であろうと誰であろうと関係はない
この地に日の光が差し込む事は無く、有るのは夜空とあの紅い月だけである。
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「直継ぅ、こんな所に幽霊なんて居る訳無いだろ? 」
「そうだよ幾ら心霊研究会の活動だーって言っても無理有るってば 」
「いいや、絶対に居る!!何たって此処は有名な悪霊の出る公園だからね!! 」
日が落ちた中、そんな会話をしながら夜の公園を歩いている学生服姿の集団らは
光明高校1年でありメンバー内では背が高く少し細身でウェーブ掛かった髪を持つ
「おーい、待ってくれよ!やっと追い付いた…! 」
「遅いぞ翔真君!それでも怪異探偵団のメンバーか!? 」
「そ、そうは言われても…てか何だよ怪異探偵団って?昨日まで心霊研究会だったじゃん 」
「今からそうなったんだよ。キミは知ってるか?此処…M公園では神隠しが相次いでいてね…不思議だと思わないかい? 」
「……そうは言っても悪魔で単なる噂だろ?そんなモノある訳── 」
翔真が次の言葉を言い掛けた時に口元へ指先を宛てがわれて直継に首を横に振られた。
「ノンノン、有るんだよこれが。此処へ訪れた人が聞いたんだ…可笑しな笑い声がしたと!そしてそれを聞いた人も居る!!ふふふ、どうだい?これでもまだ信じないかい? 」
そうは言っても直継が聞いた訳ではない。
悪魔でネットの噂であり信憑性が殆どない、彼はオカルトが好き過ぎるが故にこうなっているのだ。
「は、はぁ...? 」
「兎に角、見つけるまで僕は帰らないからな!今日こそ絶対に見付けてみせる!! 」
意気揚々と公園の奥へ奥へと進んで行く中、結絆は翔真を見て話し掛けて来る。
「ねぇーえ、私見たいテレビ有るんだけど帰って良い?てかさっきから蚊が鬱陶しくて...このッ! 」
「そうは言われても直継君が... 」
「良いじゃん、どーせ今回も大した成果も無いしこのまま廃部だよ廃部!私だってヒマじゃないもん。加奈も沙織も今日来られないって言ってたしさー? 」
「仕方ないよ降谷さんは塾通ってるし...それに玖珂さんも来てないし 」
「ふぅん...ま、どっちでも良いや。んじゃ後は男子3人で頑張ってー?」
そのまま結絆は来た道を鼻歌交じりに引き返して行く...のだが突如として悲鳴が周囲に響き渡った。その場に居た一同が顔を見合わせる、そしてその声の主は明らかだった。
「ねぇ?い、今のって... 」
「間違いない、直継のだ!!行ってみようぜ...! 」
光太郎を先頭に草むらを抜けた奥へ辿り着くが彼の姿は何処にもなく
落ちているのは懐中電灯とリュックサックだけだった。
質の悪い冗談だろうと思っていると林の奥が動いた気がして
翔真が懐中電灯を拾ってそこを照らしてみる。残りの2人は彼の傍で固まっていた。
「こ、此処だよ...みんな......助けてくれぇ...! 」
「直継!?おい、だいじょう──ッ!?」
草むらから現れたのは白い糸でグルグル巻きにされた直継、そしてその持ち主である巨大な蜘蛛のバケモノ。更に気味が悪い事にその巨体に対し黒と黄色のまだら模様で人の上半身が生えていたのだ。
ケガレが更に変異した種類であるこの個体は名の通り変異種と呼ばれる存在、
陰陽師であれば1対1で対処が効く範囲内でもある。
「ケケ...ケケケ...ケケケケケケケケケ!!」
気味の悪い声を発したそれは次なる獲物である翔真達へ狙いを定める、
そして下半身から白い糸を放出したが各々がその場から離散し何とか躱した。
しかし尚も恐怖は続き、全員が散り散りに逃げたものの光太郎が先に捕まると
次なる獲物は結絆へと定まる。
「こッ...来ないで、来ないでってば!! 」
必死に泣き叫ぶそんな彼女の願いも虚しく、白い糸が放出された時。
一瞬の閃光が迸って糸を斬り裂くと狐の仮面を付けたセーラー服の少女が双刀を握ったまま彼女の前へ立っていて振り返る。
「...ケガは? 」
「へ、平気...少し擦りむいただけ... 」
「...ならこの札を持って来た道を引き返して。それから絶対に振り返らないで。 」
「 わ、解った...!」
結絆が駆け出して行くのを見送った直後、再び化け物が咆哮する。
「...捕まった子達はまだ生きてる。でも厄介なのは此奴が変異種であり、等級が翠。 私にやれるか...?」
身構えた雛奈は敵を見据えつつ様子を窺う、そして右前足で刺突を繰り出した事で
戦いが幕を開けた。刺突を跳躍し躱すと空中から左手の刃物を投擲するが躱されてしまう。
今度は数枚の霊符を身構えると雛奈は詠唱する。
「
横へ振り払う様に投擲、それが白い光の刃となると見事に人質の合間を縫って着弾し赤黒い血液が噴出し怯んだ。着地した彼女は刀を拾って更に加速し間合いを詰めては弱点と思われる上半身へ向けて攻撃を仕掛ける。
だが敵が構えた直後に胸部から放ったのは無数の黒い針で躱そうと試みたがその中の数本が雛奈へ刺さってしまった。
「しまッ──うぐぅうッ!? 」
姿勢が崩れた所へ左脇腹に薙ぎ払う様な一撃が命中しそれにより吹き飛ばされた彼女は木に背中を打ち付けてしまう。針を引き抜いて立ち上がろうとしたが上手く立てず、それが何なのか直ぐに理解出来た。
「…し…痺れ毒…ッ…厄介な真似を……!! 」
虫の常套手段、毒。
獲物を弱らせてその上で捕獲し喰らうという習性を持つ者も中には居る。恐らくこの公園に居たであろう蜘蛛を喰らった事でケガレがそれを会得したのだと思えば納得がいく。
そして仕返しと言わんばかりに巨体による突進が襲い来ると鈍い音と共に木が何本も倒れて落ちた。
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『…どれだけ逃げても使命からは、運命からは逃げられない 』
最初に言われた時と寄り道して帰ろうと思った時までずっと雛奈のその言葉が冷めた視線と共にずっと涼音の脳裏を過ぎっていた。
昼休みに加奈へ声を掛けた時も彼女は「大丈夫だよ」と話していたが恐らく無理矢理に平静を装っているのだろうと彼女は薄ら察していた。
「平気なもんか…あんなの見て襲われりゃ誰だって… 」
髪を軽く掻きながら歩いていると地響きの様な大きな音が響き渡る、そして鳥が数羽程鳴きながら飛び去って行くと涼音は足を止める。
「今の…まさかまた出やがったのか!? 」
その原因の元、そして行く先は1つしかない。涼音が走って行くと公園の奥から同じ学校の男子生徒が出て来て涼音の元へ来た。
彼の右胸にある名札には[半田]と書かれている。
「頼むよ助けを呼んでくれ!!と、友達が…友達があの森の奥に!!」
「何!?ちッ…当たりかよ…! 」
続いて森の奥から出て来たのは女子生徒だが
彼女の手には霊符が握られている。もしやと思って彼女の方へ向くと自ずと向こうから話し掛けて来た。
「涼音!?此処ヤバイよ、変なバケモンが奥に居るの!! 」
「解ってるよ…!それよりそれは? 」
「何かお面付けた子がくれたの、振り返るなって言ってさ…って何処行くの!?危ないから止めときなってば!! 」
「ッ…兎に角、早く此処から離れろ!良いな? 」
そう言い放った彼女は駆け出して行き、
木々の合間をすり抜けて向かう。本来なら自分も逃げ出したいが何故か自分の足が…本能がそうさせていた。気味の悪い笑い声が聞こえた直後に草むらを抜けるとボロボロになった雛奈が離れに横たわっていた。
付けていた面は半分が割れているだけでなく額から血を流し、制服も土埃や泥の汚れに塗れてしまっている。黒いニーソックスは裂けて所々に穴が空いていた
「…な、何で…此処に…… 」
「知るかよ…それよりお前── 」
「…何ともないッ、この程度…っぐッ…! 」
雛奈の右足を見てみると太腿辺りに切った様な裂傷があり、動けなくなっているのが解る。そこから絶えず血が溢れていた。
「お前治癒術は? 」
「…て、手が痺れて印が切れない…それより早く此処を──ッ!? 」
舌打ちした涼音はしゃがんで素早く両手で印を結ぶ、そして霊符を胸元のポケットから取り出すとそれを握った状態で右手を傷口へ差し向けつつ呟いた。
「アビラウンケンソワカ…アビラウンケンソワカ…アビラウンケンソワカ… 」
すると傷口が塞がると共に苦痛に表情を歪ませていた雛奈の顔色も元に戻った。
「1つ貸しだぜ? 」
「…ふん。 」
立ち上がった彼女は足の具合を確かめ、割れた仮面を外すと汚れを払いながら涼音を見据えている。すると当の本人は雛奈の近くに落ちていた剣を拾って軽く素振りすると奥へ向かおうとしていた。
「…どうする気?そんなの持ったとしても貴女は戦えない、行ったら死ぬ 」
「るせぇ…やる前から決め付けんな。死ぬ思いはもうした、地獄だってもう見た。あの寺で見たんだ…泣き叫ぶ仲間、転がる死体、それにのさばる
「…!?それってまさか── 」
「それに死んだら美味い飯も、見たいテレビもマンガも何もかも見れなくなっちまう…おい、捕まったのは何人だ? 」
「…2人。けどそろそろ向こうも動く、時間が無い 」
「はッ!上等だよ…次いでにお前は此処に居ろ 」
「…イヤ、お断り 」
雛奈は首を横へ振ってそれを真っ向から否定した。
「はぁ!?ったく…さっさと終わらせんぞ 」
「…うん 」
頷いた雛奈は再び仮面を付け、目を閉じて詠唱を始める。
「祓い給え清め給へ…我が身にその力を宿し給へ…陰陽霊装展開ッ──!!」
すると割れた箇所が塞がると共にセーラー服も変化し青白いラインが走るスカートが付いた上下黒の衣服へ変化。新たに刀を生成しそれを握り締めると並んで奥へ進む、そこには先程の化け物が居て人質は木に吊るされていて気を失っているのか項垂れていた。
振り返った化け物がニタニタと笑いながら2人を見据えるとその左右からケガレが更に生まれて4体が立ちはだかる。
「…4体は私がやる 」
「ならあたしはアイツをぶっ飛ばす!! 」
バットの様に剣を差し向けた涼音は駆け出し、真っ向から挑み掛かる。一斉に襲い掛かって来たケガレ達に対し涼音の背後から飛び出した雛奈が駆け抜ける様に彼等を惹き付けて攻撃を仕掛けて行った。
「クケケケケ!! 」
「ヘラヘラ笑ってんじゃ…ねぇッ──!! 」
右足による攻撃を剣で受け、弾き飛ばすと振り翳した剣を用いてその足を斬り落とした。
赤黒い血液が飛沫して悲鳴を上げるが涼音は容赦なく畳み掛ける。
「がぁあああッ──!! 」
跳躍し今度は逆手持ちからそれを振り翳して胴体を右斜めから左斜めに袈裟斬りに裂く、今度は刺突を喰らわせるべくその場で身を翻すと素早く柄を指先で回転させ持ち替えた。だが変異種も反撃しない訳ではない、手始めに彼女が突き出した右腕を掴んでへし折ろうと目論んだのだ。あらぬ方向へ曲げられ始めた腕を何とかしようとしたが殴っても蹴っても相手は怯むどころかビクともしない。
「ぐッ─!?てッ、てめぇッ!離しやがれってんだ!! 」
「ケケケケ!! 」
涼音が項垂れたと同時にある種の勝ちを感じたのか変異種は口角を釣り上げて
笑う、だが彼女もまた笑っていた。
「このままじゃ折れ...へへへッ、なんてな。お前の前でこれを使うだなんて思っても無かったよ...おっさんがくれたこの腕は単なる腕じゃねぇんだ。やっぱ
歯を食い縛りながら彼女は尚も続ける。
「あたしはケガレを全てぶっ潰す...そしてあたしに絶望を植え付けたアイツも纏めてあたしがぶっ潰してやる!祓い給え清め給へ...呪霊拘束解放、急急如律令ッ──!! 」
その瞬間、右腕の包帯が外れると変異種が咄嗟にそれを手放した。
普段前髪で隠れていて見えないが涼音の目は左が黒で右が赤色、左右非対称の
その目は所謂、オッドアイ。禍々しい紫色のそれが解放されたと同時に
手にしていた刀を地面へ突き刺して変化させる。
「やっぱ扱い難い。武装変換、急急如律令 」
刀が細い柄を持ち鋼色の刃を持つ大剣へ変化しそれを再び引き抜く。
身構えたと同時に涼音の姿が消え、気付いた時には下腹部を抉る様に大きく斬り裂いていた。夜の森に化け物の悲鳴がこだまするがそれでも涼音は歩みを止めない。
それを離れで見ていた戦闘中の雛奈も異変に気付いていた。
(...まさかケガレが彼女を恐れている...!?それにあの腕....あんな霊装見た事が無い...! )
再び涼音が仕掛け、苛烈な刺突が来ようなら剣で全て弾くか受け流し糸が飛んで来ようものならあっさりと斬り捨ててしまった。
「グギッ...アガッ、ギギギ...!!」
「おいおいどうしたよ?さっきまであんなに元気だったじゃねぇか...それともおねんねの時間か? 」
刃先を差し向け、涼音はそう問い掛けたが返事は返って来ない。
変異種は彼女を見て震えているだけだった。
「ヒトが重ねし罪...業と穢れにより生まれしバケモノよ、我が刃を持って貴様の存在を此処で祓う!! 」
正眼の構えという柄を左右の手で握り、紫色の呪力を纏った刃を正面に構えた姿勢から駆け出した彼女は最後の抵抗として襲い来る変異種相手に立ち向かう。
そして右足を軸に跳躍し敵の頭上から股下へ目掛けて一気にその刃を振り下ろした。
「おらぁああああッ!!」
「ギィャヤアァアアァァアアア!!」
悍ましい悲鳴を上げた蜘蛛の化け物の全身を青白いが包んで
燃やして行く、肉が焼ける独特の臭いが立ち込めるが涼音は気にせずその場に立ち尽くしていた。戻って来た雛奈が人質を相次いで救出し降り立つと何も言わぬまま互いに霊装を解いて公園を出たのだった。
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帰宅後、自分の右手を見ながらシャワーを浴びていた涼音は握ったり開いたりを繰り返し感触を確かめるが特に違和感は無く何ともない。目の色は気味悪がられたくないと普段は前髪で隠しているが濡れた髪を左手でかき上げた時に鏡にそれが映っていた。
「この目、やっぱり変か...? 」
腕を移植した時に色が変わった事もあり少しでは有るがそれがコンプレックスになっているのは事実。シャワーを止めた時に外から声を掛けられるが、その主は大吾だった。
「涼音、お客さんだぞ? 」
「お客さんだぁ?あのな...もう夜の23時だぞ? 」
「お前だってさっき帰ったばかりだろう?居間に通しておくから早く来いよ?俺は買い出しに行って来るから 」
それだけ言い残すと大吾の声が消えた。
渋々、脱衣所で身体を拭いて着替えてから半袖半ズボンの軽装姿で居間へ来ると
見慣れた顔があった。
「...遅い。5分と10秒遅刻 」
「ごめんねー、すずちゃん時間にルーズだからさ...焼き鳥とか食べる?良かったらこっちも食べて良いよー。ウチの庭の家庭菜園で作った野菜のサラダなんだけどさー!! 」
純が夕飯で買って来た焼き鳥やら何やらをテーブルの上へ皿ごと差し出す、ねぎま串と軟骨串を左右に持った彼女はもぐもぐと食べていた。
「お前ッ...何で此処に居んだよ!?」
そこへ慎太郎が来るがその手にはビニール袋が入ったジュースが数本あった。
「此処に住むんだってよ。話によると彼女、京都から転校して来たんだけど...学生寮が埋まってて昨日はホームレス同然だったらしいぜ? 」
「せめてそういうのは先公に──! 」
すると雛奈は焼き鳥を咥えたまま無言で涼音へ1枚の用紙を突き出して来る、
そこには[緊急借家についてのお願い]という文言が書かれていて
目を通した彼女は納得したのか溜息を吐いた。
「な、成程...てかそれ今日の夕飯だろ!?お前が喰うなっつの!! 」
「...今日から私も同居する、だからコレは食べても良い 」
「お前な...! 」
突っかかろうとした時に再び玄関のドアが開いて入って来た白髪の老人は
「おっ、帰ってたのか涼音。いやぁー雛奈ちゃんが住むって事になったから寿司を買って来てな?たんとお食べ、若い子には栄養が必要じゃからのう 」
「んなぁッ…じいちゃんまで!?そもそも、あたしは許した訳じゃねぇぞ!? 」
「良いじゃないか、女の子だぞ?女の子。お前よりとぉーってもお淑やかで可愛らしい…お人形さんの様な子じゃよ。こんな子と住めるなら断らんわい 」
「あぁ!?悪かったな可愛くなくて!! 」
こうして涼音と雛奈の同居が半ば強引に決まってしまった。2人の出会い、そしてこれから先に待ち受ける運命もまた決まった瞬間でもあった。
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