第14話 エギルとの再会

「クレス。エギルがこちらに向かっているという情報が入ったわ」

「そうか……エギルが来るのか」


 俺たちは村を作り、気が付けば今は大きな組織と化していた。

 一つの国家と言っても過言ではない大きさで、スノーベアーだけではなく多くの種族が合流している。


 そして驚くことにエギルの国を見限った人間たちも俺たちの村作りに参加し、同士として大勢の人がこの場にいる。


 相変わらず寒い地域ではあるが、温かい場所となっていた。


 魔族が集結し、国家とみなされても仕方がないほどの規模。

 人間からすれば脅威以外の何者でもないだろう。

 潰そうと考えるのは至極当然な帰結だと自分でも考える。


 白い景色の中、以前よりも柔和な表情を浮かべるようになったヴィヴィ。

 彼女は俺の隣に立ち、エギルがいない方角を見据えながら彼が近づいているのを教えてくれた。


「とりあえず、迎え撃つしかないよな」

「それ以外に方法は無いでしょうね。皆を集める?」

「そこまるする必要は――」

「パパ、ママ! 何をしている?」


 遠くから走って来る幼い少女。

 彼女はシオン――魔王の娘であり、現在は俺の義娘である。


「シオン。パパはこれから仕事があるの。だからママと遊ぶのよ」

「シオンも一緒に行くぞ。パパと一緒がいい」

「ママと待っててくれ、シオン。すぐに仕事を終わらせてくるから」


 俺に抱きつこうとするが、寸前のところでヴィヴィに抱き抱えられるシオン。

 頬を膨らませる彼女が可愛く、俺はシオンの頬を指で突きながらそう言った。


「一緒がいいと言ってるだろ。シオンも行く」

「今回はちょっと危ないかもだから、シオンはママとお留守番」

「ゼオラたちも行くんだろ?」

「皆大人だからな。仕事は大人の役目で、子供は遊ぶのが役目だ。だからシオンはここで遊んでいなさい」


 俺がそう言うもシオンは納得できないらしく、ブーブー文句を言っている。

 子育ては初めてだが大変なことが多い。

 シオンは得におてんばなので手を焼いている。

 まぁ逆に手がかかるかわ可愛いのだけれど。


「じゃあ行って来る。ヴィヴィ、シオンのことを頼むよ」

「いってらっしゃい。シオンと貴女の帰りを待っているわ」

「パパ! シオンも一緒に行く!」


 苦笑いを浮かべながらシオンに手を振る。

 そしてそのまま町を出ることにした。


「なんだ、もう集まってたのか」

「ヴィヴィに知らせたのはオレだからな」

「なら話は早い。エギルを退けるとするか」

「殺すか?」

「うーん……殺さないで済むならそれでいいんだけどな」


 町の外ではゼオラを筆頭に大勢の戦士たちが集まっていた。

 全員が人間の最強格ぐらい強く、普通に考えると負ける要素など無いだろう。

 俺一人でも十分な気もするが、人数がいた方が楽に戦える。


「行こうか」


 俺が雪道を歩き出すと、戦士たちはこちらに続いて歩き出す。

 まさに軍隊。

 空を飛ぶ飛竜族たちの羽ばく音。

 狼族の唸り声。

 頼りになる者ばかりの存在に、もともと無い負ける気が顔を全く出さないでいた。


 雪道を歩いて行き、ちょうど雪が途切れる場所に人間の大軍がいる。

 戦闘には見知らぬ戦士。

 エギルは前線には出ていないのだろうか。


 人間たちはこちらに気づき、相手側が顔を青くしているのがよく分かる。


「き、来たぞ……魔族の集団だ!」

「くそっ……【魔王】は死んだはずなのに、どうして魔族が!」

「何を言っても仕方ない。エギル様、お願いします」


 大騒ぎする人間たち。

 すると後方から太った男性が一番先頭まで押し出される。


 どこかで見たような気がする顔…… 

 俺は首を傾げながら、男の氷のような真っ青な表所を見ていた。


「お、お前、まさか……」

「ん?」


 男はこちらを知っていたのか、死人を見たような顔をしていた。

 まさかとは思うが……いや、そうなのだろうか。


 男はもしかするとエギルなのかもしれない。

 以前と比べてメチャクチャ太っているが、顔はエギルそのものだ。

 間違いない、あいつはエギル。

 【勇者】として人間を率いているとは聞いたが、そうか、前線まで来ていたのか。


「久しぶりだな」

「生きて……本当に生きてたのか」

「ああ。お前に裏切られて、魔族と共存する道を選んだんだよ」

「…………」

 

 絶句するエギル。

 こちらの言ったことに何も言い返せないでいる。

 俺を裏切り、手柄をすべて奪い、国王になったとは耳にしていた。


 後ろめたさがあるのかどうかは分からないが、だがこちらはこいつがやったことは忘れていない。


 あの頃のような黒い感情は湧き上がらないが、しかし俺自身まだ許せてはいないようだ。


 だが次の瞬間、エギルは俯き、顔を上げたと思ったら明るい表情でこちらに近づいて来た。


「クレス、生きてくれていたのか!」

「はぁ?」

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