第12話 ヒトゴロシ

夜の取引現場。

 黒羽の一員として潜んでいた私は、息を潜めて動きを見ていた。

 そこへ突如、まばゆい光と共に現れた人物がいた。


 ――勇者。

 だが、彼女は来栖風梨ではなかった。


「黒羽の連中、ここで仕留める」

 氷のような鋭い短剣を操る細身の女の勇者だった。


 戦闘は一瞬だった。黒羽の仲間が次々と氷の刃に倒されていった。

 私はその場に立ちすくみ、目を逸らすこともできない。


 勇者の視線が、偶然私に突き刺さった。

「……お前」


 背筋が凍る。

「な、なに……」


 勇者は一歩、私に近づいた。

「その目、ヒトゴロシの目……お前、人間じゃない」


 鼓動が止まりそうだった。

「ち、違う……私は……私は人間だ!」

 必死に叫ぶ。だけど、声が震えていた。


 勇者の目は冷たい。

「人間は、自ら進んで闇に染まったりしない。黒羽に身を置く時点で、もうお前は人間の枠を踏み外してる」


 むかつく。

 ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく


 私の事なんてなにも知らないくせに。













































――視界が赤く染まった。



 気づいたら、女の勇者は死んでいた。返り血はべっとり。さいあくだ。早くアジトに戻って、洗い流さないと。


 








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