第11話 堕落

初めての仕事を成功させてから、私は黒羽の中で徐々に存在感を増していった。

 情報収集、裏取引の立ち会い、時には敵対勢力の見張りや始末。

 どんな任務でも冷静に、そして確実にこなした。


「茉優ってさ、もう新人って感じじゃないよな」

「下手すりゃ古株より動きいいんじゃねぇか?」


 そんな囁きが仲間たちの間で聞こえてくるたびに、胸の奥が熱くなる。

 私はこの世界に必要とされている。

 私はここで輝ける――そう思うほどに、足は加速していった。


 ある夜。

 敵対グループの幹部が島に潜伏しているという情報が入り、ソエムは私を中心に小隊を組んだ。


「今回の指揮、茉優に任せる。アンタならやれるでしょ」

「えっ、わたしが……?」


 不安よりも、興奮のほうが勝った。

 作戦を練り、仲間を配置し、標的を追い詰める。

 心臓が破裂しそうなほど高鳴っているのに、頭の中は驚くほど冷静だった。


 結果は――大成功。

 幹部を無傷で捕らえ、情報も金も奪い取った。


「茉優、すげぇ……」

「もうソエムさんの右腕じゃん」


 仲間の賞賛、ソエムの満足そうな笑み。

 そのすべてが甘い麻薬みたいに私を支配していく。


 夜の街を歩きながら、私は気づく。

 最初は「来栖風梨に近づくため」だけだったはずなのに――

 今は、この裏社会で評価されること自体が快感になっている。


 もっと強くなりたい。

 もっと認められたい。

 



 








 








 もっと……風梨に近づきたい。









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