第10話 初任務

夜の街。冷たい雨が上がり、湿った空気がまだ路地に残っている。

 私は黒羽の一員として、初めての任務に出ていた。


 内容は、敵対する小さなグループの資金を奪う――いわば“お使い”のような仕事。

 でも私にとっては違った。

 これは、自分が黒羽に必要な存在だと証明する、最初の舞台。


「茉優、ここからは一人で動きな。合図があったらすぐ戻れよ」

 そう言った男の声を背に、私は建物の裏口から忍び込む。


 足音を消し、闇に溶ける。

 頭の中で何度もシミュレーションした通りに、机の上の金庫を見つけ、仕掛けられた警報を外す。

 ――カチリ。

 静かな音と共に、金庫の蓋が開いた。中には分厚い札束。


(やった……!)


 次の瞬間、背後から人影が迫った。

 反射的に身をひねり、木刀を突き出す。男の腹に命中し、呻き声が上がる。

 私は札束を抱えて、音もなく夜の路地へと駆け出した。


「茉優、戻ったか!」

 待機していた仲間たちが驚きの声を上げる。

 息を荒げながら差し出した札束を見て、ソエムがにっこりと笑った。


「完璧だよ、茉優。初仕事でこれだけ冷静に動けるなんて、本当に才能あるね」


 背中に汗が流れ、足はまだ震えている。

 でも胸の奥では、熱い火が燃えていた。


 ――成功した。

 私は、この世界で生き残れる。

 そして必ず、来栖風梨に辿り着ける。


「これからもっと大きな仕事も任せていくよ。期待してるからね、茉優」

 ソエムの言葉が、私の耳に甘い毒のように残った。

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